第9話 アメーバもどき事情

 環が、圭の任務の動力設備班に行ってみると、何も言わない内に彼は班長から船長室に行く許可を貰っていて、班長が、

「おや、お迎えまで来た。中務は依田副船長と仲が良いんだね」

 等と言い、全く危機感のない応対をされ、気まずくならずにほっとした。

「来るのが分かっていたみたいだね」

 と歩きながら話しかけると、

「俺、耳の聞こえが良いんだ。船内の話は聞こえている」

 と圭は答えた。それで、環はやはり圭はもどきだったのかと身に染みた。

「それに、さっきからズーイ副船長が、友達の友達は、皆友達だと言っている。彼は俺達が耳が良く聞こえると、知って居るね」

「へえ、じゃあ圭以外にも居るなら、知れているって事か」

「いや、ある程度年食わないと分からない。他のはまだ若い」

「じゃあ、圭は年食っていると言うの」

「ふふん、ショックみたいだな」

 確かに、環は圭を自分と同じような年頃と思っていて、年食っていると自ら言う圭にショックを覚えていた。

 とぼとぼ船長室に向う環を見ながら、圭はクスクス笑っていた。確かに、アメーバもどきと聞いた事より、年齢が違うのを知った事にショックな環の反応は天然と言える。

 二人で船長室に入ると、環の元気が無いので心配したズーイが、

「どうした、環。今更なにを落胆しているんだ」

「圭は、年食っているって。他のの方は若いって」

「へえ」

 ズーイも何とも言えない相槌である。

 リー船長は黙って圭を見ていたが、

「正体がばれても結構な余裕じゃあないか。どういう事かな」

 と圭に聞いた。

「さっきご自分で言っていたでしょう。殺そうと思えばこの船全員の命は無いんですよ。でもやりませんから安心してください。私はあなた方を助けるつもりで、環に付いて来ました。地球で本物の中務圭に約束したのです。彼の替わりに、環と惑星探索に行くと。彼は亡くなる時は安らかでした。海に入って自ら死を選んだのですが、私と入れ替わる事で、自殺では無くなりましたから。私はあなた方の味方になるつもりでいましたから、彼と入れ替わった責任は果たすつもりです。彼の命を奪ってしまいましたが、人の命を奪うのは彼ので終わります」

 圭そっくりだが圭ではないと言う事が、話の内容は元より圭とは違う話し方で、環にもはっきり分かった。

「圭の真似をしていたんだな」

 すっかり落ち込んだ環である。

「だましてすまなかったね」

 環の肩を抱いて謝る圭に、

「本当はカイ叔父さんに、圭はアメーバもどきだと、これは極秘だと言われていたけれど、信じられなかった」

 環がそう言うと、さすがの圭も、

「へえ」

 としか相槌を打てなかった。

 気を取り直したズーイは、

「では、君に聞きたいのだが、この船に、敵対するアメーバもどきが居るんじゃあないか。そして、コンピューターのデータをいじったのではないかな」

「いますよ。黙って私が始末しておこうかと思いましたが、もう感づかれた様ですので、あなた方で始末してください」

 圭はあっさり、若い十数名の仲間の名を教えた。かなりの人数だ。少しずつ機会があれば入れ替わって、増えて来ていると言う事だった。ズーイは、

「一応、正体を暴いてから始末しよう。連合軍のルールにもあるから」

 と言って、兵士に集合を掛けた。ズーイが出て行った後、リー船長は、

「最近の連合軍の方針を、もう一度練り直しておかなければならない。味方になった筈のアメーバもどきにこれ以上裏切られては、たまらない」

 と厳しい話し方をした。

「申し訳ありません。私の力不足です」

 と、圭が言い出したので、環は思わず、

「へっ、どういう事?」

 と圭を見た。

「驚きましたか、環。私はあなた方の言うアメーバもどきの、トップの1人なんですよ。本当は、第22銀河人が正式名ですが、最近、その銀河名を言ってくれる人は居ませんね。昔の事で犯人は分かりませんが、何者かに攻撃を受けて住処の海水を汚染され、故郷の星は住めなくなっています。その時分に、擬態して他の惑星で生きていた者の子孫しか生存者はいません。そう言う訳で当時誰もその場に居た訳では無かったので、すっかり騙されていました。おそらく故郷の星を滅ぼしたのは、我らをだました第13銀河人辺りの仕業でしょう。こんな状況で、後の祭りとも言えるのですが、これからは私としては、あなた方のお役に立ちたいと考えているのです」

「おや、元は第9銀河人と言う話だったが」

 船長が言うと、

「第9銀河人に擬態して、かなりの間、その銀河でアンドロイド開発をしていました。それでそう言われているのです。故郷は第22です」

 船長は、懸念を言った。

「事情は分かったが、少ない同族を殺して良いのかな。トップの1人と言う事は、他にも居るんだろう同じようなレベルが。そいつらは違う意見があるかもしれないぞ」

「そうですね。しかし、私がいくら説得しても、彼等は言う事を聞きませんでしたからね。同族で殺し合う訳にはいきませんけれど、あなた方は正当防衛と言えるでしょう。私は止めなかったと言っておきます」

「なるほどね。ではあの新星爆発のデータはデタラメと言う事だな」

「そうです。始めのポイントで大丈夫です」

 そう言う事で話は付いた。環としては大層なお友達と解かり、がっかりである。

 部屋に戻ってしょげていようかと思っていると、船長はズーイからの報告を受けて、

「二人ともしばらく此処を出ない方が良いだろう。アメーバもどき達の片が着くのに手間取っている様だ」

 と言った。

 圭には様子が分かっているのだろう、顔をしかめだした。手古摺って居るらしい。

 環は、

「私が手伝いに行った方が良いでしょうかね」

 と言ってみると、圭は

「そうだね」

 と言うし、船長が、

「ズーイの手伝いに行って来い」

 と言い出したので、環は急いで部屋から出てみたのだった。


 ミーティング室を出た環は、急いでズーイさん達が行ったはずの住居スペースの方へ急いだ。何を言っているかまでは聞こえないが、緊迫した大声が聞こえて来た。

 トラブルになっているようなので、急いでそこへ行こうとすると、こちらに向かって何かが来ている。身構えると、相手はシャークだった。しかし見かけはシャークだが、その雰囲気はシャークでは無かった。鉢合わせると、シャークは環を見てはっとシャーク風に変わったように思えた。しかしもどきだった事は間違いない。

「環、何だよ、最近圭の奴とばかりつるんでいやがって」

 とつまらなそうに言った。環はそう言われても、シャークは圭と仲間のはずだがと思った。妙な言い様だ。仕方なく、

「はあっ?何言い出すんだ」

 と聞いてみた。

「前の船じゃあ、皆一緒に騒いでいたじゃあないか。それが、圭が来たら圭とばっかり過ごして、俺等には見向きもしない、あの頃は、俺は辞めておこうかと思っていたんだからな」

 段々事情が理解出来て来た環である。

「じゃあ、俺が構わなくなったから、実行したって言うのか」

「俺は辞めたかったんだぞ、だがリーダーがやると言い張るんだ。説得の仕様が無かった。お前がつれなくなって、止める理由が思い浮かばなくてな」

「そんなあ、俺はお前を助けたじゃないか、あの時。忘れたの。そう言うのを、恩を仇で返すって言うんだよ。昔の諺にあるんだ。意味わかるよな」

「それぐらい知っている。だから俺は嫌だって言ったんだ。だけど、リーダーは俺らの正体を環が知ったら、きっと謝って済むなら警察はいらないと言うって聞かないんだ。これは諺かな。知っているだろこの言葉も。きっと許しはしない。もう友達じゃあないって言うってね。正体を知らなくても、段々つれなくなっちまっているし。やるしかないって事になった」

 環はすっかり参ってしまった。

「ごめん、うっかり圭とばかり話していたけど、悪気は無かったんだけどな。それに休憩時間だって、シャークとは最近ずれていたじゃあないか。あまり会う事なかったし」

「いや、出発した最初の頃は見かけていた。圭とへらへら話してこっちを見向きもしなかった。前の船では皆で盛り上がって居たのに」

 環は驚きのシャークの言い分を聞き、

「悪かった。何か話があっても話す機会が無かったんだな。でも、敵に無理して加担する必要が有るものか。シャークの思った通りにすればよかったのに。今からだって改心するのは遅くはないよ。コンピューターのデータはもうフェイクだと知れているんだ。事前に分かったから実害は無かっただろ」

「いや、俺らは他も色々やっているんだ。手遅れなんだ」

「違う奴になっていた事もあるって事」

「そうだよ。リーダーはお前になら殺されても良いって言っているから。そうしてやってくれ」

「そんな事頼まれても、嫌だよ」

「あ、リーダーが来た」

 シャークの言葉と同時に、環は後ろからぞわっとした気配が感じられ、とっさにノックダウンの声を出してしまった。振り向くと、何と、エリーが倒れかけていた。

 驚いた環はエリーを抱きかかえると、少し悲し気に見つめられた気がした。そしてエリーは気を失ってしまった。

「ごめんね、エリー。最近構ってなかったね」

 環の言う声は聞こえただろうか。

 そこへ、ズーイさんと兵士達がどやどやと、寄って来た。

「さあ、こいつをバスタブに放り込もう」

「待ってください、エリーは友達なんです。仕方なくコンピューターをいじったと思います」

「何を言い出す、あ、お前は後ろだったから、見ていなかっただろうが、こいつはお前に、今、当に襲い掛かろうとしていたんだぞ」

「ズーイさん達は見ていたんですか。仕方ない、これだけの人数に見られていては、現行犯ですよね」

 実は、環も襲い掛かられている事は分かっていた。だけど、シャークの言い様だと、自暴自棄で、襲い掛かって環に殺されたかったのだと思った。捕まえた後に、何とか改心して欲しかったのだけれど。ズーイさんは、

「シャークに取り付いている方は、環に危害を加えない様だから、牢にぶち込んでおこう。何、お前らは襲われかかったって、いや、船長から、環が危害を加えられずに安全だったなら、身柄は確保だけにしておけと言われている。そう言う事だからな」

 ズーイさんに言われて、シャークの対応については、兵士は納得していたけれど、後ろからきていたエリーは、環の所に来る前にも、出会った乗務員を次々に殺していたしで、環には庇い様が無かった。でも、彼女を殺されて、シャークはどうするだろうかと思って、様子を窺うと、

「エリーに取り付いていたのは、お前らで言う所の男だから。俺等はカップルじゃあないよ」

 とシャークは言った。環は何だかほっとした。

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