第4話 思い通りにはならなかった門出

 連合軍本部に出発の日となった。

 朝、環は第2の地球のステーションに行こうとすると、家族揃って見送りに行くつもりらしく、龍昂爺さん、ゲルダ婆さん、パパ、ママが付いて来るのは予想していたが、双子迄学校には行かず、見送りに行くと言い出した。

 環としては、涙の別れにはならないつもりだが、つられて泣く可能性もあるので、双子にからかわれそうで、少し引いたのだった。

 天気も良いし、皆でぞろぞろ、ステーションまで歩いて行こうとすると、後ろから普段は出歩かない子分達まで付いて来ていて、環は驚いた。

 崋山が、

「これじゃあ、何だか出征の見送りじゃあないか、戦争は終った筈だが、おい、子分。どういうつもりで兄弟そろってお見送りなんだ。何かあるのか」

 と、止せばいいのに子分に聞いた。実のところ、彼等は予知能力があるのではないかと思っていた崋山である。

[当分会えませんから~~子分も見送る事をお許しください~~]

「別に来るなとか言わないけど、珍しいと思ってね」

 崋山はそう言うしかなかったが、内心今生の別れなのだろうかと疑った。それは環もだった。それに、双子まで付いて来ているし、既に涙目だ。ゲルダ婆さんから情報を得ているのだろうか。ゲルダ婆さん、イヴママ共々、泣いている。

 環は、こんな雰囲気がたまらず、

「皆泣いたりして、変だよ。こっちは気分よく出発したいのに。笑ってよね。思い出が泣き顔じゃあ嫌だな。多分しばらくは戻れないだろうけど。死ぬつもりはないからね。出征じゃあないから。泣いて出発するつもりはないから」

 と宣言した。爺さんも、

「皆、何を勘違いしているのやら。環はこれから自分の人生を生きて行くんだよ。笑って送り出してやりなさい。環の門出を祝ってやらないとね」

 と言ってくれた。パパも、

「そうだね。環の惑星探検への出発だ。本人にしてみれば、やりたい事をやりに行くんだからね。これからは、本気を出して生きていける。それが一番幸せな事だと思う。環、思う存分活躍して来い。こっちに戻る機会があったら、冒険の数々を聞かせてくれ。楽しみにしているからね」

「うん。子分から習った技が役に立つだろうと思うな。きっと。危険な生物が居たら追い散らすつもりだよ。この能力、きっと他の隊員に重宝がられると思うな。だから皆、しばらく帰らないけど、必ず戻れるときに戻るから。そして、環の活躍ぶりを聞かせてやるからな」

 そう言って、家族みんなも納得した様子に安心した環は、圭との惑星探険に期待を抱いて、故郷を離れたのだった。


 連合軍本部に到着すると、環は総司令官のカイ・メイソンに呼ばれた。父の従弟である。

 第3銀河の本部に行ってみると、受付のロボットさんに、

「依田環さん。今回の入隊ありがとうございます。お父様の依田崋山様はご健勝でお過ごしの事と思います。依田本部防衛司令官であらせられたころのご活躍は連合軍では今も語り継がれておりますし、初年兵の頃のご活躍は、元敵の銀河でも、語り継がれております。その御子息である環さんがこの度入隊となりましたことは、連合軍の古参の司令官達が大変心強く思われています。あ、長々、お引止めして申し訳ありませんでした。メイソン総司令官がお待ちです。総司令官室にご案内します」

 と言って、カイ叔父さんの所へ案内してくれるらしい、驚きの対応である。随分人間っぽい話しぶりのロボットに、少し驚いた。

 カイ叔父さんとは久しぶりに会う。地球を逃れて、第2の地球に暮らす事になった、環達だったが、カイやルークはもう一度連合軍に入り、敵の残党たちを倒すために、第7銀河の船で活躍したのだった。それで、その実績から、カイは第3銀河総司令官となり、ルークは、連合軍の総司令官付きとなっている。ルークは戦闘の指揮の才能を発揮して、連合軍の総司令官に気に入られ、彼と共に軍の総本部で戦略を練っていた。戦争が終わっても、総本部に留まる事となっていた。

 環の父親である崋山は、環が敵にさらわれた時、自分と同じくキメラだったため、同じ目に合った事が後日判明したときにショックを感じ、すっかり落ち込んでしまった時期があった。

 そして、環の癒しと自分自身が癒えるために、連合軍は退役し、その後、他の人達の戦争のストレスを癒す病院を開業した。患者は他の銀河も含めて多種多様な人々で、かなりごった返して入院しており、忙しくしていた。環が学校を卒業したなら、病院を手伝ってくれると期待していたようだが、環には癒し能力は無いと思っていた。そして、環としては、惑星探索の道を選んだわけである。だが、龍昂爺さんは本人がやる気が無いだけで、能力は有ると言っていたそうだ。出発前に自分の知らない情報を双子から聞いていた。送られながら、環としては、つくづく我が家を離れる潮時だったと感じた次第である。


 環は、カイ叔父さんの部屋に入り、

「叔父さん久しぶり。何か用なの。まだ、入隊の日じゃあなかったんだってね。マナミ叔母さんが言っていた」

「そうなんだ。マナミたちが環に久しぶりに会うから、皆で集まろうと言う事で、計画しているんだよ。ルークやシオン達も来るし、アン婆ちゃんたちも来るし、言わばこっち側の家族との再会だな。とは言え、俺達の偏屈親父は居ない。又フロリモンやキャシーを連れて自分の好きな惑星に住んでいる。それにしても、環。しばらく会わない間に、すっかり見違えるほど出来る奴になったみたいだな。こっちは入隊してからでも良いかと思ったんだけど、前もって環に言っておかなければならない事があってね。こんな話は早い方が、お前も心づもりが出来るかなと思ってね」

「どういう事、入隊してからの話?」

「と言うか、お前の第一希望の、中務圭と同じ船に乗船したいと言う話だけれど、その話は無理だ」

 環は、がっかりして、

「どうしてなんですか」

 と聞くと、

「彼は入隊出来なくなった。健康診断で引っかかったんだ。癌の第4ステージで崋山の病院に入院する事になったよ。お前と入れ違いだな。崋山が癒したとしても、惑星探索には体力的に無理だ。第4ステージ迄行ってしまったら、治癒したところで入隊は出来ない」

「そんなあ、それ、早く言ってくれたら、俺、入らなかったかも」

「もうサインしたじゃあないか。連合軍のサインは取り消せないんだぞ。軍からお払い箱にならない限りな。中務みたいに健康診断に引っかかりでもしない限り、取り消されない。それに、お前の、第20銀河人達の能力を習得した情報は、上官の間では有名だ。どの船に乗せるか揉めて、船長がクジ引きしたんだからな。諦めろ」

「くじ引きだってえ。俺の希望はどうなったんだよ」

「だから、中務が居ないんだから、何処でも良いだろう。彼と同じ船希望以外は、書いていなかったじゃあないか」

「じゃあ、他の奴は何か書いていたんですか」

「そりゃまあね、第3銀河人の住処として向いていると思われる惑星の順番とかあるし、未知の惑星探険とかもあるし」

「そんなこと聞いてなかったです。まさか未知の惑星探険になったんじゃあないでしょうね」

「それも、くじ引きなんだよね。普通希望を言っていない新兵とかもね」

「それで、希望書いてなかった環がクジ引になったって」

「お前は、船長がクジを引いてね、さっきも言ったように。で、結論としては、これは崋山には内緒だよ。敵の銀河だった第13銀河内に、環境はかなりいいのに、彼等が入植していない惑星があってね。そこは第7銀河でなんとか暮らせそうな環境なので、調べた方が良いと言う事になり、環はそこに当たったよ。第3銀河と第7銀河の共同の探険チームだ。船長は龍昂爺さんの連合軍に居た頃の部下だったから、環を乗せたがっていてね。良い人達ばかりだよ」

「今の話だと、船長の所望みたいに聞こえるけど」

「いやいや、船長同士のくじ引きだってば。ほんとだよ。インチキ無しって事で、皆納得したんだから。この、龍昂爺さんの部下だった話は内緒だからね」

「だからやっぱり、インチキだったとか」

「いやいや」

「もういいです。話はそれだけですか」

「あ、船の話は終ったな。後はマナミが食い物の事で環は何が良いか聞きたいとか」

「じゃあ、叔母さんの所に行けばいいんですね」

「そうなんだが。今は学校の授業していると思うよ」

「アン婆ちゃんは」

「まだこっちに来ていないよ。暇なのはミア婆さんだな」

「わかった」

 環はふて腐れながら、ミア婆ちゃんの家に行く事にした。ミア婆ちゃんはゲルダ婆さんの娘であり、カイやルーク伯父さんの母親で、アン婆ちゃんはパパの母親だ。どちらとも久しぶりの再会となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る