第3話 環の取柄


 環は、子分たちのいる所に行って、

「パパの子分、久しぶりっ、またあの技教えてよ」

[おかえりなさいませ~~崋山様のお子様の~環さま~崋山様の子分の一人は崋山様のお子様の子分でもあるのです~~この子分の一人に出来る事は何なりとお申し付けくださいませ~~・・・]

 まるで歌を歌っているかのような、はたまた何かの楽器を奏でているかのような、第20銀河人の言葉である。

 実の所、崋山の子分の彼はこの言いつけは、出来そうもない事は以前から分かっていた。しかし4年前は子供の言う事だからと、話を合わせていたのだか、どうやら環は成人している様であり、またこの言いつけを言い出されて、いささか困惑している。その為語尾が、・・・となったのだが、環は気付いていない。

「今日からは、あまり時間もない事だし、ほら、相手を気絶させる技、あれに集中しようと思うんだ。多分一週間ぐらいで連合軍の本部に呼ばれるから、一個位、マスターできるよね。頑張るから」

[承知いたしました~~では~わたくしめの後に続いてください~~]

 環に、これは出来ない事だと承知して欲しい子分であるが、以前ちゃんと言っていなかったため、つらい立場に追い込まれている。

[ん~~ん~~ん~~]

「んーーんーーんーー」

 不毛の練習が始まった。子分の弟達が心配気に様子を見に来た。

「あ、爺さんの子分さん達、どう、うまくマネできているかな。パパの子分は遠慮しているみたいだから、君らの忌憚のない意見が聞きたいな」

 しまったと思う子分の弟達、

[え~~え~~そうですね~~]

 環も彼らの言っている事は理解できるので、大した意見を言っていないのは分かった。

「まだまだなんだろうな」

 と解釈した環は、いっそう声を工夫して張り上げる。1時間ほど辛抱強く練習するが、教師、弟子共々いささか疲れを覚える。側で立ち去る機会を失った子分の弟達も、神経疲れを覚えている。長男の不毛のひと時に付き合っていた彼らは、良い時も、そうでない時も幼い頃から一蓮托生である。

 疲れた環は、

「ふう、喉が渇いて来たな。ゲルダ婆さんに何かもらって来よう。お前らも喉が渇いただろう」

[なんというお心遣い~~お気持ちだけで結構でございます~~わたくしめは~~皇太后さまのお手を煩わす立場ではございませぬ~~]

「皇太后さま?何だかゲルダ婆さん地位上がってないかな」

 と呟きながら、ゲルダから今日は暖かい紅茶を用意してもらい、一服した後、また子分の所へ戻った。子分、また来た環を見て、

[ひ~~]

 と叫んでも音楽風になる.

「もう一回言ってみて、喉が温まったから、上手く行きそうな気がする」

 気がするだけだと、言うに言えない子分、仕方なく始めようとすると、

「ちょっと待って、さっきからいくら言っても誰も倒れない気がするんだけど、本当に気絶する技言っているの。実際の技教えてよ。お前の弟達に言ってみてよ。倒れたのを真似するから」

 子分、もうやけになって、

[弟達~~お呼びだぞ~~]

 と、一蓮托生で長男として呼びつけた。

 弟達が揃うと、

「一人ずつに集中できるんだろ。そうでないと実戦でも困るからね。さあ、並んでね。子分、弟を一人ずつ倒して見せて」

 子分は弟達の無言の非難の眼つきは見て見ぬふりをし、

[では~右の一人目始めます~~ん~~ん~~ん~~]

 付き合わされて、倒れる弟。環はさっきとヤッパリ音階が違うと分かり、真剣に聞いた。

「じゃあ、今度は環やってみます。変になったら、パパを呼ぶから、ごめんね、みんな。じゃあ次の人。ん~~ん~~ん~~」

 環、一世一代の真剣勝負のつもりで復唱した。

 するとどうした事か、次の弟、ぶっ倒れてしまった。環、慌てて側に寄ると、

「芝居じゃ無いよね」

 と揺り起こしてみる。子分の様子は、承知していたとみえる。子分はすっかり参ってしまった。

[弟よ~~っ、芝居は止めろ~~っ]

 忠告するが、芝居を辞める気はないようだ。そこで、まさかと思いながら弟の様子を見た。

[環さま~~上出来です~~気絶しました~~これは奇跡です~~有りえないです~~天才です~~初めて異星人でこの技が出来ました~~信じられないです~~]

 まだ気絶していない弟達も、

[環さま~~天才~~天才~~]

 と言い出し、環は、嬉しいような、信じられないような気持で、慌てて龍昂爺さんの所に行こうとすると、呼びに行くまでもなく、爺さんは部屋に飛び込んで来た。年寄りにしては素早い。

「おお、本当に気絶しているな。他の子分が加勢したんじゃあないのか。環だけ?本当か?」

 爺さんは環を見て、

「お前、天才だな。この一線を越えたなら、他の技も出来るようになるのに、そう時間はかからないな。凄いぞ、環。誰にも何か取柄はあるもんだな。せいぜい練習に励めよ」

 何時に無く爺さんは、きりっと言ってのけた。そしてすぐ、立ち去った。

 環は、爺さんの『誰にも何か取柄はあるもんだ』と言う言葉を聞き逃さなかった。

 おそらく今までは、何のとりえもない環と思われていたらしい。実際そうなのだけれど、今までそんな様子を見せてはいなかったので、きっと曾孫には甘かったんだろうなと思った。そして自分の失言に気付いて、爺さんは逃げ出したと思った。

 そんな環の様子を見ていた子分は、

[今日はここまで~~、お疲れ様です~~今日はここまでです~~]

 と言い出すので、環はたまには子分の言う事も聞こうと思い、家に戻る事にした。

 パパやママは病院に行ってるようなので、また一人、部屋の片づけをすることにした。集中していたので、皆が帰って来ている事に、片付けが終わって気が付いた。

 リビングに行ってみると、夕ご飯の支度も終わっていて、パパやママ、双子も揃って食卓に着いていた。

 イヴママは、

「昨日揃って帰宅の御祝でもすべきだったのに、1日遅れたけど、久しぶりに皆でご飯にしましょうね」

 と機嫌よく言ってくれて、環は何だかほっとした。

「うん、何だか環の好きなおかずばかりだね。嬉しいな」

 双子は、

「環の好物は、粗食が多いって分かった。これなら何処に行っても、不自由なく暮らせそうだね」

 と言う。そう言われて見れば、豆腐ハンバーグに、ビーンズ入りチャーハン、肉入りでは無いし、ベーコンの野菜炒め。

「そう言えばそうだね。何処に行ってもやっていける」

 アゲートは、

「それに子分から大技の習得も出来たし」

 黙っていても、情報は双子には行っていたが、パパとママは

「何だって、何の話だ」

 と、まだ知らないらしい。ジェイドが、

「パパもママも知らないの。環、子分さんの敵をぶっ倒す技、今日習得したのよね。爺さんが、一線を越えたら、後は早いって言われたのよね。だからこっちへ来いとか、来るなとか色々命令できるんじゃあない。その内」

 そしてアゲートが、極めつけの一言、

「爺さんに、誰にでも何か取柄はあるもんだって言われちゃったのよね、環」

 環は、

「そういう情報、誰から聞くんだよ」

「ゲルダお婆ちゃんよ、お婆ちゃんとあたし達、一心同体なの」

「何時から」

「環が第16銀河に行ってからよ。お婆ちゃんが寂しがるから、一緒に遊んでいたの」

 双子に声を揃えて言われた環は、とうとう、この双子に家は乗っ取られた。もう、この家では秘密は持てないと知った。はっきり言って、今がずらかり時なのが分かったのだった。


 その後、連合軍本部から、入隊は本部惑星時間で一週間後と、正式に連絡が入った。この第2の地球時間では、6日後に出発しなければならない。

 環は、子分に次の技、「こっちに来るな」と「こっちに来い」を教えてもらおうと考えた。予定以上の計画で、習得するのが間に合うかなと思っていた。しかし、龍昂爺さんの言った通り、次の技の習得に、それほど時間は必要無かったった。少し余裕が出来、両親と過ごす時間が確保できた。

 崋山パパやイヴママは、環のコミュニケーション能力不足を心配していた。

「大丈夫かな、環は少し不愛想な所があるから、皆から誤解されそうで心配だ」

 パパがこと在る事に言うので、

「圭が居るから大丈夫って言っているのに、パパは心配性だな。圭と同じ船になるって言う話だからね。こういう時、身内が総司令官だと、第一希望が通るんだね」

「そうだな、その位の融通はしてくれるだろうな。カイの事だから」

 パパは納得してくれたと思っていた環だったが、出発の日が近づくにつれて、心配気な様子が出て来た。

「戦争は終ったんだから、なんでそんなに心配なの」

 環が聞いてみると、

「何だか不安なんだ。心配性なだけかもしれないが、誰も降り立った事のない未知の惑星って言うのが気がかりだ。もしかして、未知の生物が居て、お前達を襲って来るんじゃあないかと思っている。ひょっとしたら、戦争より厄介かもしれないんだぞ」

「心配性だな。そんな事のないように。子分達にあの技を教えてもらおうと思ったんだよ。危険な生物が居たら、ノックダウンとか、こっちに来るなと言うつもり」

 崋山は仕方なく納得した振りをしていたが、内心、『そいつらに通じればいいが』と思っていた。

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