怖い話を集めるのが趣味な僕。


 久し振りに会った大学の友人に怖い話がないかと聞いてみると、笑いながら話してくれた。


 ◇



 今年の春には大学を卒業、そして新社会人になる俺は一人暮らしをする為に物件探しに明け暮れていた。


 大学在学中にバイトで稼いだ金は、日々の遊びに費やしていたせいで貯金などほとんどない。出来れば、安くて立地も良い物件に住みたいのだが、引っ越しシーズンも相まってそんな物件は中々見つからなかったんだ。


 何件もの不動産屋に相談をするも、そんな物件はないと一蹴されるばかり…もう疲れた。次の不動産屋で良い物件が無かったら諦めて、条件を下げた物件に住もうと思っていた。


 不動産屋に俺の条件を提示すると、意外にも条件にピッタリの物件があるという。予想外の出来事に喜んだ俺は、早速その物件を内見する事にしたんだ。



 駅からも近く、家賃も付近の相場よりも安い。外観も綺麗だし、部屋の中も一人暮らしをするには十分な間取りだった。けど、内見中にあるものを発見したんだ。


 その部屋は、玄関から見て左側に小さめのキッチンに正面にリビング。右側にトイレの扉、その隣に風呂場の扉がある。リビングに入ると十畳程の広さに、ベランダもついている。


 そこまでは、普通のアパートの部屋なんだが、そのリビングの押し入れの横に



 気になった俺は、内見に連れてきてくれた男性スタッフにその扉の事を聞いてみた。すると、『後で言うつもりではあったが、あの扉は絶対に開けないで下さい』と言われてしまった。


 俺はもしかすると、事故物件なのか?そう思い聞いてみるが、事故物件ではないと言う。それが本当か嘘かは分からなかった。俺は少し気持ち悪いなと思ったが、事故物件だろうがここに住むつもりでいた。何故なら、これ以上物件を探すのは面倒だったからだ。


 店に戻った俺は、あの物件を契約する事にした。契約書の重要事項の欄には「リビングの扉は開閉しない事。開閉してしまった場合、当社は責任を負いません」と書いてある。


 開閉しなければ問題はないとスタッフに言われて、気になった俺はあの扉の先に何があるかを聞いたが、スタッフも知らないという。もやもやとした気分になったが、扉を開けなければ良いか、と深く考えずに契約をしてしまった。




 月日が流れ、最初は仕事の忙しさであの扉の事は忘れていた。だが、段々と仕事に慣れ始め、生活に余裕が出始めると少しづつ、あの扉の事が気になり始めてしまったんだ。


 やめておけばいいのに、好奇心からかその扉を開いてしまった。



 がちゃ――


 ドアノブの音が室内に響いて、扉の奥を覗くも真っ暗で何も見えない。足を一歩その扉の向こうに踏み入れると、俺は玄関に立っていた。



 状況が分からず、リビングに向かうと今まであった扉が無くなっている。意味が分からなかった――確かにあの扉はリビングにあったはず。


 気味が悪くなった俺は、外の空気を吸う為に玄関から外に出た。



 だが、俺はまた玄関に立っていた…確かに外に出たはず。再度、玄関から外に出るが、また玄関に俺は居た。


 何度試してみても結果は変わらなかった。意を決して二階のベランダから飛び降りても、次の瞬間には俺は玄関に立っていた。俺はあの扉を開けてしまったばかりに、この部屋に閉じ込められてしまったのだと気付くまで、そう時間はかからなかった――。





 え?じゃあなんで外に出れてるのかって?


 そりゃ、部屋から出る方法を見つけたからに決まってるだろ?


 教えてくれって?しょうがねぇな…あの部屋から出る為には、そうすれば、あの部屋から脱出出来る。


 その人が可哀そうだって?知らねぇよそんな事。お前だって俺の立場になったら同じことをするに決まってる。




 笑いながら言う友人を見て、人間の闇を見た気がした――。








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