蜘蛛の糸

 彼女は不思議な予知能力が使える。しかし、それは使いたい時に使えるわけではない。だが、彼女はこの力を重宝していた。


 なにせ


 この能力に気付いたのは小さい頃であった。



 冬だというのに、蜘蛛の糸が彼女の顔に絡みついてくるのだ。手で取ろうとしても、蜘蛛の糸は取れない――というよりも、存在していないのだ。だが、いつまで経っても顔には蜘蛛の糸が張り付いているような感覚がする。


 その日に彼女は園庭のジャングルジムから落ちて、右手を骨折してしまう。それ以降も自身に何か悪い事が起きる時には、必ずと言っていいほどに蜘蛛の糸が彼女の顔に纏わりつくのだ。


 そして、彼女は気付く『蜘蛛さんが危ないよって教えてくれているんだ』と。


 その事実に気付いてから彼女は、蜘蛛の糸が顔に纏わりつくたびに警戒をして、自身に降りかかる災難を回避していたのだ。




 月日が経ち、そんな彼女も今では社会人。蜘蛛の糸も年齢が上がるにつれて、顔に纏わりつく事が無くなっていた。そんなある日、彼女に人生で初めての彼氏が出来た。カッコよくて、優しくて仕事も大企業に勤めている――そんな欠点の無い彼氏だった。


 彼氏の口癖は「将来的には彼女と結婚をしたい」だった。将来有望な彼氏――こんな欠点の無い彼氏にこんなことを言われて、嬉しくない女性がいるわけがない。


 しかし、彼氏の口癖に彼女は曖昧な返事しかしなかった。



 何故か――それは、彼氏がその言葉を言う度に、



 それから暫くして、彼女は男と別れる事にした。




 数年後、出勤前に朝のニュースを見ていると、「結婚詐欺師の男が逮捕された」というニュースが流れていた。男の顔がテレビに映ると、それは彼女の見知った顔であった――。



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