蜘蛛の糸
彼女は不思議な予知能力が使える。しかし、それは使いたい時に使えるわけではない。だが、彼女はこの力を重宝していた。
なにせ自身に悪い事が起きる前に知らせてくれるのだから。
この能力に気付いたのは小さい頃であった。
冬だというのに、蜘蛛の糸が彼女の顔に絡みついてくるのだ。手で取ろうとしても、蜘蛛の糸は取れない――というよりも、存在していないのだ。だが、いつまで経っても顔には蜘蛛の糸が張り付いているような感覚がする。
その日に彼女は園庭のジャングルジムから落ちて、右手を骨折してしまう。それ以降も自身に何か悪い事が起きる時には、必ずと言っていいほどに蜘蛛の糸が彼女の顔に纏わりつくのだ。
そして、彼女は気付く『蜘蛛さんが危ないよって教えてくれているんだ』と。
その事実に気付いてから彼女は、蜘蛛の糸が顔に纏わりつくたびに警戒をして、自身に降りかかる災難を回避していたのだ。
月日が経ち、そんな彼女も今では社会人。蜘蛛の糸も年齢が上がるにつれて、顔に纏わりつく事が無くなっていた。そんなある日、彼女に人生で初めての彼氏が出来た。カッコよくて、優しくて仕事も大企業に勤めている――そんな欠点の無い彼氏だった。
彼氏の口癖は「将来的には彼女と結婚をしたい」だった。将来有望な彼氏――こんな欠点の無い彼氏にこんなことを言われて、嬉しくない女性がいるわけがない。
しかし、彼氏の口癖に彼女は曖昧な返事しかしなかった。
何故か――それは、彼氏がその言葉を言う度に、彼女の顔に蜘蛛の糸が纏わりつくからだ。
それから暫くして、彼女は男と別れる事にした。
数年後、出勤前に朝のニュースを見ていると、「結婚詐欺師の男が逮捕された」というニュースが流れていた。男の顔がテレビに映ると、それは彼女の見知った顔であった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます