その男は何処にでもいるようなごく普通のサラリーマンである。しかし、彼にはここ最近悩みがあるのだ。




『寝るのが怖い』



 というのも、男は不思議な夢を見ていた。それはというもの。


 夢だというのに、やけにはっきりと覚えている事に「不思議な事もあるもんだ」と、最初は思っていた彼だが、それから毎日の様に同じ夢を見てしまったのだ。


 だんだんと怖くなってきた男は、友人や会社の同僚に相談をするが、面白がって真面に話を聞こうとはしてくれなかった。



 その間も毎日の様に同じ夢を見続ける――が、ある事に気付く。



 最初に見た時よりも、穴が大きくなってきているのだ。次第に男は眠るのが怖くなってきてしまい、ついには眠る事をやめた。


 睡眠と言うのは健康を保つ為には不可欠なものだ。ストレスが溜まっていき、男は些細な事で人に当たる事が増えて行った。


 そのせいで、男の周りからは人がどんどんと離れていってしまう。いつしか、男は会社すら出社しなくなってしまった。



 月日が流れ、アパートの大家が男から集金をする為に部屋を訪れたのだが、部屋の呼び鈴を鳴らしても一向に出てこない。ちらりと駐車場に目を向けると、やはり男の車はある。「おかしいな。留守にしているのだろうか」そう思い、立ち去ろうとすると、男の部屋から異臭が漂っている事に気付いた。


 そういえば男の事をいつから見ていないのか――そう感じた大家はドアノブをがちゃりと回す…部屋の鍵は開いていた。恐る恐る部屋を覗くと、部屋の中で男が倒れているのを発見する。


 男の遺体は腐敗が進み、部屋の中は異臭で充満していたという。大家はすぐに警察に連絡をし、男を司法解剖した結果、男の脳には大きな空洞が出来ていたという――。

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