第7話 見つけた!!

 薄暗い部屋の中、ヘッドフォンから漏れ出した音が室内を満たす。

 楽しく明るいポップミュージックは、恋と恋のライバルとの青春を歌っていて、暗い部屋とその主とのアンバランスが際立っている。

 4畳ほどのその部屋は、真昼の今も分厚いカーテンが垂れ下がっていて、辺りはゴミこそ散らばっていないものの、うず高く積まれた雑誌類や、何十枚もの同じCDや、可愛らしい洋服が床に置かれて、汚い。


 そして、この部屋の主人は、扉を背にして、大きなディスプレイに向かっている。寝巻き代わりのスウェットのまま背中を丸めて、ヘッドフォンから聞こえる音に体を揺らす。視線の先のディスプレイには、この部屋とは対極の世界が溢れていた。

 ステージ上のアイドルだ。

 統一感がありながら少しずつ違うピンクの衣装を身に纏ったアイドル達が、息を合わせて踊っている。

 その煌びやかな世界に吸い込まれてしまったのか。火口ゆらぎは、ここにいるのに、ここにいないようだった。


「ゆらぎちゃん」


 強めのノックの音とともに、年老いた女の声がする。ゆらぎの母親の声だ。しかし、音が漏れ出すほどのヘッドフォンをしている少女には、届かない。

 彼女がこの部屋に入って、かれこれ1年近くになる。

 その間ずっと、俗世との直接的な接触はしていない。このディスプレイ越しの映像だけが、ゆらぎの全てだ。

 と、曲の終わりの境目で、ここ最近は、そうではないことを思い出す。

 ドォン、と。凄まじい轟音が響いた。

 驚いて、振り返る。

 部屋の扉が、破壊されていた。


「は?」


 ゆらぎの瞳が、扉の向こうの人影を捉える。薄暗い部屋から、明るい廊下を見たから、人影はシルエットだった。

 ステージ上のアイドルのような、ドレス姿。


「あなたの暗闇を祓ってみせる! 魔法少女、見・参!」


 魔法、少女——その単語に聞き覚えしかないゆらぎは、ぎくりとした。

 その背後で、「ああ! 扉が! 修繕費!」と大騒ぎしている母がいる。

 魔法少女と名乗った彼女は、「あわわわわ、申し訳ありません!」と言いながら、一度変身を解除すると、ポシェットからポンっと何かを母に手渡した。

 それは封筒だった。だんだんと目が慣れてきて、母が封筒から取り出したものが、ゆらぎが今まで見たこともないような厚さの現金だと分かった。

 さまざまなことの急展開に母は倒れた。


「——っぁさん!」


 思わず、駆け寄る。扉から外に出る時、一瞬体がこわばったが、構っていられなかった。

 抱き上げた母は想像よりも軽く、記憶の中の母よりも痩せ細っていた。この1年で、ずいぶん心労をかけてしまったらしい。

 母の様子を手探りで確かめると、万札を手に、ただ気を失っているだけだった。


「大丈夫ですか?」


 魔法少女を名乗った少女が、心配そうにしゃがみ込み、尋ねてきた。返事をしようと口を開けたが、喉に詰まってしまったように、言葉が出ていかない。

 仕方なく、私はうなづいた。少女はほっとしたように微笑んだ。

 その時、初めてゆらぎはまともに彼女の顔を見た。

 とても美しい、少女だった。


「良かった。では、少しお話ししましょうか。魔法少女さん?」


 ————ああ、どうやら彼女には、全てバレている。

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