Part.Ⅰ 2000PV Vegetable Hell

「いつもLiberator the Nobody'sをお読みの皆様こんにちは。今回の企画進行役を務めますシャーロットチョークスです」

「に、賑やかし担当の雨衣咲雫です」

「本日はLiberator the Nobody'sが2000PVを達成した特別企画としまして、各キャラクターに設定されている苦手な食べ物を徹底的に食べるという、いったい誰が得をするのか理解に苦しむ催しを企画いたしました。イエーイ」

「い、いえーい……」

「さて、それでは本日第一回目ということで、栄えあるゲストに選ばれたのはこの人、Liberator the Nobody'sの主人公、バレル・プランダー氏にお越しいただいています。それではバレル、自己紹介と何か一言をお願いします」

「……あぁ、バレル・プランダーだ。まずは皆、いつもLiberator the Nobody'sを読んでくれてありがとうな。その点については本当に感謝している……。だが、おいシャロ、なんなんだよ、この企画は。なんで2000PVを祝う催しに、わざわざ俺が嫌いな食い物を食わされなくちゃならないんだよ」

「それについて製作者が言うには、『PVの返礼の度に登場人物に高い酒を飲ませていては、いくら酒があっても足りない。よって安く済ませられて且、笑いを取れる企画にする為にでーす☆(笑)』とのことだそうですわ」

「あの野郎……。いや、だとしてもだ、別に俺じゃなくても良いだろう。こんな色物の企画をやるんだったら、悪役で登場した他の連中でも良いじゃねぇか。そもそも――」

「ごちゃごちゃと煩いですね。貴方はこの話の主人公で、今回は栄えある企画の第一回目なのですよ。本編でもう二度と出番を与えられない人物もいるのですから、貴方は主人公らしく、いつも読んでくれている皆様の笑いを取るべきですわ。そうでしょう?」

「…………、……分かったよ……。ったく、しょうがねぇな。そこまで言うなら、主人公として華々しく笑いを取ってきてやるよ。で、俺は何を食えば良いんだ?」

「はい、それでは雫、ドラムロールをお願いしますわ」

「ダ、ダラダラダラダラダラダラー……」

「……口で言うのか……」

「ジャ、ジャジャン!」

「テテーン。それでは本日バレルに食べてもらいますのはこちら、†ベジタブル・ヘル†ですわ」


 バレルの前に運ばれてきたのは、“山盛り”なんて言葉では到底言い表せない量の生野菜の山。それを見たバレルの顔は、この青々とした野菜たちをも真っ青にしてしまいそうな程に青白く染まっていた。


「……Liberator the Nobody'sを読んでくれている皆、今までありがとうな。俺、バレル・プランダーは、今日限りでこの話の主人公を引退する。今後のことはそこのシャロの奴にでも任せるから、この後のことは――」

「はいそこ、何を勝手に終わらせようとしているのですか。駄目でしょう、一口も食べないで企画を終わらせるなんて。ほら、ちゃんと笑いを取ってきて下さい」

「無理だろこんなの‼ 俺は青虫じゃねぇんだよ‼」

「別にギブアップしても構いませんわ。ですがその場合、屈辱的な罰ゲームを受けてもらうことになりますが」

「……屈辱的、とは……?」

「雫」

「は、はい」


 雫が手に持っているスイッチを押すと、会場が一瞬暗転し、ある一点がスポットライトで照らし出される。そこには、可愛いリボンとフリルの付いた上下の下着(ピンク)セットと、猫耳カチューシャが置かれていた。


「……おい、シャロ、なんなんだ、これは……?」

「可愛いでしょう? この間の休日に、私と雫で選んできました。もしもギブアップした場合、次以降本編ではこれらだけを身に着けて生活してもらうことになりますわ。それでも良ければ、どうぞご自由に」

「…………、…………、……ドレッシングは、使っても良いんだよな……?」

「おや、参加するのですか? 私は別に、フ、フフッ……どっちでも良いのですよ? この野菜の山を全て平らげて青虫気分に浸ろうが、ギブアップして、今後それらを身に着けて蛆虫うじむし扱いされようとも、ね……ク、フフフ……」

「ドレッシングは使っても良いのかと聞いているんだ、シャーロットォ‼」

「ドレッシング、塩、醤油、ナンプラーにマーマイトでも、その他の調味料は全てOKにしましょう。それにミキサーで粉々にしようが、加熱、冷凍したって構いませんわ。他に言いたいことは?」

「……いつかまたPV達成記念をやるとき、そのときにお前の番が来ることを楽しみにしているんだな……」

「それでは他に何も無いようですので、はい、よーい、スタート」

「カーン……」


 開始のゴングが鳴り(?)、勇ましく目的の位置まで歩み寄ったものの、バレルは野菜の山の前で完全に固まっていた。


「さーてバレル選手、野菜の山を目の前にして硬直。この野菜の山を、いったいどう攻略するつもりなのか。おーっと」

「バレルさん、一番攻略しやすいと思われる葉野菜を取りましたね。でも、これくらいなら野菜が嫌いでも食べられるんじゃないですか? ほら、ドレッシングも使える訳ですし」

「甘いですね、あの男の野菜嫌いは筋金入りですわ。何せバーガーに入っているオニオンリングでさえ食べられないのですから」

「あぁ、そう言えば、毎回シャロのお皿に除けているもんね。でもさ、それでも嫌な顔もせずに食べてあげるのって、やっぱりシャロってバレルさんのこと――」

「あぁっとぉ、バレル選手、ボウル一杯の葉野菜にシーザードレッシングをかけ始めたぁ。いったいどれだけかけ続けるのか。これは、まさかー」

「うわぁ……ボトル一本全部使い切っちゃった……。あんなにかけたら絶対しょっぱいのに……」

「これは恐らく、ドレッシングの味で口の中の感覚を麻痺させようという作戦でしょう。なんとも子供のような、とでも言いますか。さぁバレル選手、最早サラダなのかドレッシングなのかも分からないそれを、食べたぁ。しかし」

「……くァッ――⁉」

「えっ、えっ⁉ け、痙攣⁉ えっ、ちょ……だ、大丈夫なの⁉ あれ⁉」

「ま、死にはしないでしょう。それだけあの男は野菜が駄目ということですね」

「……ねぇシャロ、やっぱり、罰ゲームにあの下着はやりすぎだったんじゃないのかな? と言うか、私だって普段からバレルさんがあんなのを着た姿を見るのは、その、ちょっとキツ……いや、困るって言うか……」

「フッ……い、今、キツイって言いそうになりました?」

「い、言ってないないよ‼ 言いそうにもなってないし‼」

「そ、そうですか……フ、フフフ……」


 それからのバレルの姿は、壮絶の一言に尽きる有り様だった。きゅうりを食べては咀嚼そしゃくする度に飛び跳ね、ヤングコーンを食べてはくの字型にブリッジし、トマトを食べては曲がってはいけないであろう角度にまで体を捻じる。


 しかしそれでもバレルはドレッシングや各種調味料を駆使して尚も挑み、野菜の山も遂に最後の一品を残すだけとなった。しかし――。


「うわぁ、あれって……」

「おや、見慣れない野菜ですね。雫はあのゴツゴツしていて、そして恐らく太くて逞しかったであろう野菜をご存知なのですか?」

「えっ、あぁうん。あれはゴーヤって言って、凄く苦いから結構好き嫌いが分かれる野菜なんだよね」

「雫はお好きですか? ゴーヤ」

「私は好きだよ。ただあれって、一般的には炒め物にして食べるのが普通で、生で食べるのはちょっと大変なんじゃないかなぁ」

「ほう、雫はゴーヤが好きで、生はちょっと、と……」

「いや、あのシャロ、さっきから言い方がさ……」

「おーっとバレル選手、ゴーヤの味を知らずか、果敢にも口へと運ぼうとする。が、その様子は既に満身創痍。果たしてゴーヤを完食し、この企画をハッピーエンドで終わらせることができるのか?」


 焦点の合わない目で、一口、バレルは醤油をつけたゴーヤを口に運ぶ。すると。


「……バレルさん、全く動きませんね」

「チッ、何のリアクションも取れないとは、使えない男ですわ」

「もう、シャロったら……」

「バレル、どうしたのですか? ほら、早く食べないと可愛い下着と猫耳の刑ですよ」


 そうして二人は声を掛け続けたものの、バレルは箸を持ったままの姿勢でピクリとも動こうとしなかった。


「あの、もしかしてだけれど、あれって気絶しているんじゃないかな?」

「しょうがないですね。別にルール違反ではありませんし、起こしてあげるとしましょう。バレル、起きて下さい。ほら、あともう少しで完食ですよ。…………、バレル……?」


 シャロが肩に触れた瞬間、バレルの体はテーブルの上へと崩れ落ちる。腕は垂れ下がり、薄く見開かれた目は虚空を見つめ、光を映してはいなかった。


「し、死んでる⁉ た、担架たんかー‼ 担架お願いしますー‼」

「えー、はい。それでは挑戦者死亡ということで、今回の挑戦はここまでとなります。まぁここはギャグ世界線なので、恐らくきっと次の回には生き返っていることでしょう。それでは皆様、今回はここまでお付き合いいただきありがとうございました。また次のPV達成企画にてお会いしましょう。さようならー。Haveハブ a nextネクスト timeタイム

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