Part Ⅱ
Part.Ⅱ 1000PV SIGNET
――ストーンヒル 事務所 バーカウンター――
アンナローゼ・シャサーニュの借金を早々に返済する為、コレクションの酒の大多数を手放したバレルは、寂しくなったバックバーを悲し気な表情で見ていた。
「それで、どれくらいの返済になったのですか?」
「……聞くな……」
「だから言ったではありませんか、酒なんて売り払ったってたかが知れていると」
「……ほっといてくれよ……」
「はぁ。Liberator. The Nobody’s.2が1000PVを達成したというのに、これではまるでお通夜ですわ」
「あぁ……読んでくれた奴には本当に感謝しているよ、ありがとうな。だが残念ながら、今はちょっと祝う気にはなれなくてね……。そもそも今回は飲む酒が無いからな……」
「あ、あはは……水で乾杯っていうのもちょっと味気ないですもんね……」
「なんとここで、しけている上に凶悪な顔をしているバレルに朗報がありますわ」
「おい待て、しけているのは仕方が無いにしても、わざわざ凶悪な顔って付け足す必要はあったのか?」
「そんな些細なことはどうでも良いとして、1000PVのお祝いに、ある人からちょっとしたお祝いの品をいただいていますわ」
「ある人? いったい誰からだよ」
「この場合、誰か、よりも、何を、の方が重要というものでしょう?」
「おいおい、そんなに勿体付ける程の物なのかよ。俺だってバーを経営しているんだぞ。ちょっとやそっとの酒じゃあ驚いたりしないって」
「ほう、言いましたね。では現物を見るのは後にするとして、まずはブラインドで飲んでもらうとしましょうか。ほらバレル、グラスを三つ用意してください」
「あぁ、分かったよ」
バレルがグラスを用意すると、そこへシャロが紙で包んだボトルから酒を注いで行く。グラスから立ち上るのはオレンジやシナモン、ほろ苦いチョコレートやバター菓子の香気。複雑かつ芳醇な香りに、暗い表情をしていたバレルも、普段は酒にそこまで興味を示さない雫も、グラスの中の酒に完全に興味を惹かれていた。
「うわぁ……凄く良い香り……」
「なんだよ、こいつは……スコッチではあるんだろうが、こんな物、今までお目に掛かったことは無いぞ……」
「私は既に三口ほど味見をさせてもらいましたが、あまりの旨さに達してしまいそうになりましたよ」
「おい、何を当たり前のように先に飲んでるんだよお前は」
「そんなことよりほら、早く乾杯するとしましょう」
「……まぁ、それもそうだな。それじゃあ、Liberator. The Nobody’s.2の1000PV達成を祝って――」
「「「乾杯」」」
三人はグラスに注がれた酒を同時に口に含む。
驚くほどねっとりとした口当たり。口に広がる液体からは数えきれない程の複雑な味が絡み合い、喉の奥へと滑り落ちて行く。立ち上る香気はいつまでも鼻孔をくすぐり、‟そこに在る”という存在感を示し続けた。
「こ、これは……その、つまり……す、凄いお酒です!」
「フッ、あぁその通りだ。ここまで旨い酒に言葉は却って無粋ってやつだろう」
「――ッ、…………、……ッ、…………ッ」
「シャロ、お前は喋ったらどうなんだよ、気持ち悪いな」
「こ、こんな旨い酒に……こ、言葉、は……無粋、ですわ……ッ――」
「確かにこいつは凄い酒だ。だが、多分飲んだことは無いな。降参だ、そろそろこいつの答えを教えてくれよ」
「…………ッ、フー……。はい、これがその酒ですわ」
そう言うと、シャロはカウンターに置いた酒の目張りの紙を剥がす。そこにあったのは、黒を基調としたものに、透明なガラスが酒の色を透過して見せるオレンジがかった琥珀色のエレガントなボトル。
「グレン……モ、レンジ、ですか? あれ、この名前って、確か……」
「………………」
「おやバレル、何やら顔色が悪いですね。何か思うとことでもあったのですか?」
「……シャロ、こいつは貰い物だって言っていたよな……。いったい、こいつをくれたのは、だ、誰なんだ……?」
「こちらをどうぞ、貴方にはメッセージカードも預かっていますわ」
バレルが受け取った一枚のカード。そこには、情熱的な愛の言葉がびっしりと綴られており、最後の方には締めと言わんばかりに、キスマークと、ダン・モーレンジィという名前と、
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