第30話 許し難いですわ!
「陛下に成り代わる、ですって……!?」
アーシャは、ブルブルと肩を震わせた。
ナバダ達のすぐ近くまで、緩やかに降下して、浮遊状態の【
「……最上にして唯一たるわたくしの陛下を貶め……あまつさえ不遜極まりない唾棄すべき言葉を……今、口になさいましたわね……!?」
「あ、アーシャ様……?」
頭の中が真っ白になるほど激昂したアーシャに、何故かベリアが怯えたような目を向けてくるが、それどころではない。
「たかが……
「……逆鱗に触れたみたいね」
髪を掻き上げながら、ポツリとナバダが呟くと同時に。
「―――万死に値しますわ!!」
アーシャは、カッと目を見開いて吼える。
「己の力で己の人生を選び取ることも出来なかった愚物程度が、口にして良い言葉ではございませんわよッ!」
「新タナ支配者タル私ニ、不遜ナ口ヲ利クナ、傷顔ガ……!」
「お黙りなさい、クソ野郎! 今ここで、このわたくしが、その身の程知らずな物言いを二度と出来ないようにして差し上げますわ!」
額に青筋をビキビキと立てて、アーシャは両手に魔剣銃を手にして、翼を広げるように大きく腕を開いた。
「―――〝
漆黒の鉄馬に跨り、金の縦ロールを靡かせ、紅蓮のドレスの裾をはためかせて……騎士の誓いの如く体の前で、魔剣銃を叩きつけるように十字に重ねる。
「今、この場で散り果てませ! 〝
「口ダケハ大層ダガ、貴様ニ【
ウルギーが腕を振ると、キュルァアアアアア!! と、女の金切り声に似た耳障りな鳴き声を立てて、三つの頭と瞳のない六つの目が、一斉にこちらを見る。
「ヒトは……己のキャンパスを己の色に染める権利が、ありますのよ!」
アーシャは、目でナバダ達に合図を出しつつ、《風》の魔弾を放った。
両脇にいた【火吹熊】達の片目をそれぞれに射抜く間に、姿勢を低くして後ろに跳び、アーシャの後ろに跨ったナバダが魔力を溜め始める。
飛竜を抑えている為、アーシャの手元にモルちゃんはおらず。
ベリアも、操られている愛騎シロフィーナを欠いたまま、ナバダとは逆に風を纏って大きく上に跳躍する。
「無意味に人のキャンパスに墨を掛けるようなクソ野暮は、同じく墨を掛けられても相応の選択の結果であると、お知りなさい!」
素早く魔剣銃を【風輪車】に……ダンヴァロが増設してくれた、
「『
【風輪車】にあらかじめ充填してある魔力が、呪文と共に解放される。
この魔導具には様々な機能があり、『出力解放』はその一つ。
魔鉱石やアーシャ自身から魔力を蓄えることが出来る機能があり、その魔力を解放することで通常よりも速度を上げたり、風の結界を形成して
それを、魔術士が指向性を定めることで、魔術の行使に応用出来るのだ。
アーシャが周りに濃密に集めた魔力が、竜巻のような渦となって全方位に吹き荒れ始める。
動き出していた【
「行くわよ、アーシャ!」
「ぶっ放しなさい!!
「〝
自身の魔力を体内に溜め込み終えたナバダが、その強烈な魔術を風に乗せて解き放つのと同時に、アーシャも魔力を解放した。
「「―――《
ぶわり、とナバダの体表が青い燐光に覆われて、その周りに
直後、青い炎に姿を変えた蓮の花びらが、吹き荒れて広がる暴風に乗って周りと前方下方へと散っていった。
生物のみを焼き尽くす幽玄の炎が、魔獣達とギドラミアの下半身を襲う。
阿鼻叫喚の断末魔が響く中、跳躍したベリアと、後ろにいるモルちゃんやシロフィーナが、その範囲から確実に逃れているのをアーシャは視認した。
ほんの数秒。
風炎が吹き荒れた後には、大半が焼き尽くされ炭と化した、魔獣達の姿があった。
ギドラミアは苦悶しながらも、巨体故に耐え切ったようだ。
恨めしそうに
「……後は頼んだわよ」
「ええ」
この極大魔術は、切り札だった。
安易に先遣隊に使えなかったのは、ナバダがこの後行動不能になってしまうからだ。
【風輪車】に溜め込んだ魔力を放出し切ったので、自分の魔力だけで車体を動かすアーシャも、先ほどファルドラを相手にしていたようには、もう飛べない。
額に脂汗を浮かべたナバダは、自ら【風輪車】から飛び降りて後ろに下がった。
もう今日は戦力としては期待できないが、それだけの戦果はあった。
アーシャは生き残ったファルドラが襲ってくるのに、至近から魔剣銃の抜き打ちで《火》の魔弾を叩き込む。
頭を焼いて始末すると、高度を上げた。
残ったのは無傷のウルギーと、負傷したギドラミア、そして少数の魔獣。
こちらはアーシャとベリア。
それに……。
「アーシャ様、私兵団が到着しました!」
生き残った瀕死のゴルゴンダの額を、降下と同時に手にした飛竜槍で刺し貫いたベリアが、アーシャに報告してくる。
見ると、魔獣の先遣隊を始末したと思しき兵士達が、こちらに向かってくるのが見えた。
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