第11話 村に着きましたわ!

 

 そうして案内してくれる道すがら、ベルビーニは自分のことを話してくれた。

「元々、父ちゃんは腕の良い職人だったんだ。でも、しばらく前から手足に痺れが出るようになって、働けなくなって……それでやさぐれちゃって。でも、何かしないと飯が食えないからさ……」

 そんなベルビーニの健気さに、アーシャが感激していると。

「ここだよ」

 と、少年は丘の先を指差す。

 案内された距離は、さほど遠くなかった。

 ベルビーニの足で来れる程度なのだから、よく考えたら当たり前なのだけれど。

 アーシャ達は、森からさほど離れていない小さな丘の上から、村を眺めた。

 丘からは建物と柵が見えるが、地形と低木で遠目からは上手く隠れる位置に作ってあるようで、案内されなければ気づかなかっただろう。

 丘からは、草木に覆われかけた細い道だけが、村に向かって続いている。

「あそこが貴方の村ですの?」

 その問いかけに、ベルビーニは頷いた。

「そうだよ……」

 なぜか安堵と緊張が入り混じった顔の少年に、アーシャは小首をかしげる。

「あら、ちゃんと帰れたのに、あんまり嬉しくなさそうですわね?」

「見ず知らずの人間を連れて帰るんだから、そりゃそうでしょ」

 ナバダが呆れた顔で、アーシャに告げながらベルビーニを見る。

「嫌なら、やめといた方が良いわよ?」

「どういうことですの?」

「……アンタにも分かるように、置き換えて話すけど。助けて貰った相手だからって、外で会った誰とも知れない馬の骨を、家長の許可なく屋敷に上げたらどうなるか、考えてみなさいよ」

 問われて、アーシャは一考した。

 もし公爵邸に、命を助けられた人物を招待したら。


「多分お父様もお母様も、お礼を言って歓待なさいますわね!」


 二人はご自身の身分を十分に弁えておられるけれど、だからと娘の命の恩人を無碍むげにはしない確信があった。

「このお花畑……ッ! じゃあ、門兵の許可なく皇都に入れたり、自分の寝室に引っ張り込んだり、妹の部屋に勝手に案内したら!?」

「それは、流石のお父様でも怒りそうですわね!」

 しかしアーシャは、陛下に命じられでもしなければ、そんな真似はしない。

「いつ襲われるかも分からない場所にある村に、人を入れるってのはそういうことなのよ!」

「あら。それはマズいのではなくて?」

「だからそう言ってるでしょうが!」

 アーシャがポン、と手を打つとナバダが怒鳴り、ベルビーニが吹き出した。

「ベルビーニ、何がおかしいのですの?」

「いや、本当に姉ちゃん達が盗賊なら、オイラの前で、そういうやり取りはしねーんじゃないかなって思って……」

「わたくし達は盗賊ではありませんもの。当然ですわ!」

 だからそういう問題じゃ、とナバダが言いかけるのに、彼は首を横に振る。

「いいよ、ナバダの姉ちゃん。オイラが決めたんだから、二人は気にしなくて」

 決心がついたのか、また歩き始めたベルビーニに、ナバダと顔を見合わせてからついていく。

「ねぇ。本当に、マズかったら中まで入れなくていいのよ?」

 それでも、彼女は心配そうに問いかけた。

 ナバダはアーシャ以外の相手に対してはこんな風に、世話焼きで優しい一面を見せる。

「ま、怒られたらさっさと出て行けば良いですわよ!」

「出ていかせてくれない可能性も考えなさいよ、お花畑!」

「その時は、実力行使で出て行けば良いのではなくて?」

「……それもそうね」

「納得すんの!? 出来たら、オイラはそんなことになってほしくねーなぁ……」

 アーシャ達の実力を知っているベルビーニが、引きつった顔で言う。

 そうこうする内に村の前まで来ると、柵門の近くにいる獣人達がこちらに気づいた。

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