第33話 心地よい眠り


エルダさんが起きた気配が伝わってきたので、俺も併せて起きる事にした。


「おはよう」


「…おはよう」


お互いに顔を見合わせた状態…なにから話そうか?


事情はもうサリーちゃんから聞いている。


「少しは元気がでた?」


「そう見える?」


今の状態で元気な訳ないよな…


「見えない…」


俺が何か言う前にいきなりエルダさんは土下座をし額を床につけた。


「こんな醜く価値の無い奴隷を買って頂きありがとうございました。出来る事はありませんが悟様の為に誠心誠意尽くさせて…」


「エルダさん、そんな事はしなくて良いよ…」


「悟様…私は見ての通り貴方の母親位の歳です…それに自分で言うのもなんだけど、女として醜く価値の無いのも解っているつもりです…唯一の取り柄は『戦える』それだけでしたが…見ての通り足に怪我をして走れません…もう冒険者としてゴブリンすら狩れない…うっうっ役立たずなんです…嘘を言うのは嫌だからいうけど…私は銀貨2枚で売られて…今後は鉱山奴隷になる筈だったんです…」


「エルダさん、辛いならまた今度で良いよ、それより」


「いや、ちゃんと話を聞いて欲しい…嫌じゃ無ければだけど?」


泣きそうな顔をしながら話しているんだ聞かないという選択はないな。


「解った」


「男にお金を貢がないと付き合って貰えないから昔から稼いではそのお金を男に使い…醜いから真面に結婚も出来ないから、男にお金を払って結婚…婚姻生活をして貰っていたクズみたいな女なんだ、更に多額の借金までしていたんだ…男に貢ぐためにね…そのあげく怪我をして冒険者を出来なくなったら離婚されて…借金の為に奴隷落ち…ただ容姿が醜いだけじゃない…最低でしょう?そこ迄だらしがない女なんです…」


俺には二人と居ない美女なんだけど…なかなか納得は難しそうだ。


「取り敢えず、色々買ってきたんだ…これを使ってゆっくりとお風呂に入ってきたら? 何が必要か解らないから適当に買ってきたんだけど、揃ってはいると思う…」


流石に何処かのライトノベルの主人公みたいに一緒に入る度胸は無い。


「あの…これ、高級品ばかりみたいだけど…?」


「うん、良く解らないから適当に買ってきたんだ?大丈夫?1人で入れる?」


「流石に足しか怪我してないから大丈夫だよ…」


エルダさんがお風呂に入っている間に飯と冷たい物を用意してあげれば良いか…


食事を食べながら俺の事は話せば良いだろう。


まだ、心が落ち着いて無かったのか…エルダさんの泣き声がお風呂場から聞こえてきた。


◆◆◆


ハンバーグにオムライス…それにレモンジュースモドキ。


こんな物でよいか?


「悟様…その…すみません…」


「まぁ良いや、座って、座って」


「私は奴隷ですから床で…あの随分豪華な食事ですが…その私のは…何処にあるのでしょうか?」


「いや、これは2人分だから、ちゃんと椅子に座って…どうして俺がエルダさんを買ったのかちゃんと話すからさぁ」


「…はい…あの、本当に椅子に座っても良いの?…それを本当に頂けるのですか?」


前に会った時と違い、かなりぎこちないな。


尤も、エルダさんからしたら『一回依頼を受けた相手』それ以上でもそれ以下でもない。


そんな人間に自分の人生を握られているんだ。


ぎこちなくて、当たり前と言えば当たり前だ。


「勿論」


出来るだけ怖がらせないように笑顔で話した。


◆◆◆


食事が終わりエルダさんは少し落ち着いたように見えた。


「それで悟様…その…なんで私なんか買ったの…ですか?」


体をこわばらせて、また緊張しているみたいだ。


それに何故か目に涙を浮かべている。


「悟で良いよ」


「その…悟さん」


孫悟空の話はこの際、おいて置いて気持ちについては正直に話して置いた方が良いだろう。


「エルダさんにははっきり言っていなかったけど、なんとなく転移者というのは気がついていた?」


「『魔物使い』なんて変わったジョブなので何となくですが…はい」


エルダさん、お風呂上りのせいか凄く良い匂いがする。


それに近くで見ると…やっぱり凄い美人だ。


「それで、前の世界で俺は父親を早くに亡くして、長い事、母子家庭として母子2人で暮らしていたんだ…尤もその母さんも早くに亡くなってしまったんだけどね…」


「それは、その…お気の毒というか…」


「余り気にしなくて良いよ!大丈夫だから…一生懸命働いて俺を養ってくれた母さん。勿論変な意味じゃないよ? だけど、その姿を横で見て育ったせいか、最初は『良い母親』と思っていたんだけど、その母さんの姿が『理想の女性の姿』に思えるようになってね…恥ずかしい話、年上好きのマザコンなのかな? 冒険者ギルドの受付のサリーちゃんには『BBAコンのマザコン』って最初言われていた位年上が好きなんだよ」


「ああっえ~と、それって私位年上が好きってこと? 言っちゃあなんだけど母子位歳は離れていると思うんだけど? 母親みたいなとかじゃなくて…その恋愛対象としても?と言う事?騙そうとしていない?」


「騙そうとして居ないよ…それにこの世界では兎も角、俺にとってはエルダさんは凄く美人にだよ…この世界で見たなかで一番のその美人…」


「あははははっ、気を使う事は無いよ! 顔は兎も角、体型が恐ろしく醜いのは解っているからね、この胸なんてオークみたいだし…前の旦那は元より、元彼全員から『見たくない』って言われたよ、人によっては真面目に吐いた人が居る位なんだから…気を使わなくて良いよ…物凄くブサイクな体しているのは解っているから…前の旦那にも『お前とヤル位ならゴブリンの雌とヤルよ』そう言われた事もある…男娼を買った時も、ブサイクならどうにか我慢できるけど…体全部は無理って言われお金を返された位…もう解っているから大丈夫だから」


そもそもこの話…凄く可笑しいと思うんだ。


この世界には俺みたいな転移者がいる。


俺のクラスにもグラビア好きの巨乳好きが居た。


過去の転移者にも居たはずだ…そいつらはどうなんだ。


まぁ、良いや。


「俺は転移者だからかな? その胸も含めて全部が好きだけど?」


「良いよ…嘘でもそう言ってくれるだけで…嬉しいから、悟様は嘘つきだよ…転移者は『女神イシュタス様みたいな大草原みたいな胸が好き』なんでしょう…可笑しいよ…」


女神イシュタス…性悪な女神だったけど…


少しだけ俺の母さんに似ていて…


綺麗なウエーブの掛かった金髪に綺麗な青い瞳。


凄く神々しく、そして慈愛に満ちた顔『美しく優しく気高いイメージ』


胸は…そうだかなり、いや凄くナインペタンだった気がする。


まさか、あの女神、転移者に『貧乳好き』のイメージを植え付けていたのか?


まさかな?! いや…


「他の転移者は解らないけど…俺にとってエルダさんは凄く綺麗に見えるし…正直言ってドストライクなんだ」


「今だに信じられないし…正直混乱しているわ…それに私が好みって言うのがどうしても信じられない…だけど鉱山送りになって死ぬ人生を救ってくれた。だから、凄く感謝しているよ…それで悟は私に何して欲しい? もしかして冒険者のアドバイスとかかな?出来る事はなんでもしてあげるよ」


『何でもしてあげる』これは…


嬉しいけど、幾らなんでも『結婚したい』『恋人に』とか言いづらいな。


「俺は『綺麗なお姉さんと一緒に暮らしたい』そう思ってエルダさんを買ったんだ…だから今の状態で充分だよ…偶に甘えさせてくれれば良いから…」


「甘えさせる?! 本気で言っているの?!」


「本気だって…そろそろ遅いし寝ようか?」


「そうだね…うん」


やっぱり…


「エルダさん、何で床で寝ようとしているのかな? ほら此処」


「そこって…あの、その横?!」


「甘えさせて欲しいって言ったじゃない? 添い寝して欲しい」


「え~と私ビックブレストとかオーク胸とか言われていて…」


顔が耳まで赤くなって可愛いな。


「そんなの気にしないから…ほら…」


「解りました…でも気持ち悪かったら言って、すぐに床に…」


もういいや…


「えいっ…」


俺はエルダさんの手を引っ張った。


そのままエルダさんは倒れ込み胸に俺が顔を埋めた状態になった。


「きゃぁ…ごごごごごめんなさい…直ぐにどけます…気持ち悪い物押し付けて…」


「もうこのままで良いや、俺エルダさんの胸大好きだし、プニプニしてて最高…お休み」


俺はそのまま手をまわしてエルダさんを抱きしめた。


「プニプニ…胸大好き…あの私騙されていませんか?あのその…えっええええええーーーっ」


「騙してないよ…俺この胸好きだから…文句なら明日聞くから…」


「あの…気持ち悪くて吐いても知らないよ…その平気?」


「大丈夫だから、このまま寝かせて…」


俺はエルダさんの胸に顔を埋めながら…気持ち良く眠りについた。













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