第31話 サリーSIDE:エルダ

泣くのを我慢しているエルダさんを連れて街へ急いだ。


下手に話かけたら、恐らく泣き崩れてしまう気がする。


筋斗雲も考えたが、驚かせてパニックになりかねないので、ただ手を繋ぎ、やや速足で街へと急いだ。


出来るだけエルダさんを見ない様に気をつけながら…


奴隷服は、その目に毒だし…今、目を合わせると色々気まずい。


俺の居た世界には奴隷は居ない。


いや、正確には居るが、国には居なかった。


だから、小説や漫画等からイメージして軽い物だと思っていたが、実際は俺が思った以上に重い物だ。


理想の女性を手にした…それ以上に罪悪感がこみあげてきた。


2人してただ何も話さず…やや早歩きで街へと歩いた。


宿についた時には嬉しさ半分、罪悪感半分の何とも言えない気分になった。


「休んでいていいからね、そこのベッド使って良いよ」


「あっあの悟…様」


「俺出かけてくるから、後で話そう…今はゆっくり休むと良いよ、部屋にある物は自由に使って良いし、食べても飲んでも良いから…」


「…ありがとう」


話をするにも落ち着いてからの方が良い。


それにどうしてこうなったか、あらかじめ事情を知って置いた方が良いだろう。


それに服や日常品の買い出しもある。


廊下に出てドアを閉めるとエルダさんのすすり泣く声が聞こえてきた。


小さな泣き声だから、大きな声にならない様に枕に顔を押し付けているのかも知れない。


◆◆◆


「来ると思いましたよ! 話は長くなります…銀貨2枚です」


「サリーちゃん、俺何も言って無いんだけど?」


「エルダの話じゃないんですか? あの状況の後で違う話ですか?」


「そうです…」


「それでは銀貨2枚になります」


「はい」


仲良くなった…そう思っていたけど、違ったようだ。


その証拠にエルダ様じゃなくてエルダ…もう呼びつけになっている。


この子はあくまで『ギルドの受付嬢』それ以下でもそれ以上でも無い。


「悟様、まずは、その前世の感覚は忘れて下さい。エルダは途轍もなくブサイクです…顔は兎も角、あの体は無いです。この世界では『肥満』は虐待の一種と取られ、貴族階級や裕福な市民以上の親は子供の体型にも気を使います…貴族様に至っては幼い頃からコルセットをはじめとする矯正下着を身につけウェストや胸、お尻が大きくならない様にするんです。悟様は、偶にナインペタンとか貧乳と言われていましたが…あれこそがこの世界で言う美形の姿なんです」


「俺言っていたっけ?」


「ハァ~無自覚ですか…ちなみに胸の拘りさえなければエルフの女性だけのAランクパーティ『アルテミス』からパーティ組みたい。そういう話も合ったんですが…まぁ良いです。それで話を元に戻しますが…エルダには1つの才能がありました、冒険者としての素質ですね、だからお金を稼げる女です。…しかも根が寂しがりだから、そこにつけ込まれる。簡単に言えば『都合の良い女』って奴です。男からしたら簡単な物でしょう。ブサイクだから優しくしてあげれば直ぐに付き合って貰える。金があるから貢ぐだけ貢がせる。そして最後は『ブサイクだけど我慢して付き合ってやったけど、もう無理』簡単に周りを納得させる理由がある。何しろ裏で「リヒューズガール(断らない女)」「ミスオープン」なんて言われて彼氏がいない時期なら誰とでも付き合う女…そう言われていました。クズにとっては最高でしょう…まぁ外見は別にして…」


「だけど、その人妻で…結婚…」


「あはははっ、はい結婚していましたよ40歳位の禿げ男とね。ですがこの街でエルダが旦那を連れて歩いていたの見た事あります? 結婚条件が『俺と歩かない』『夜の生活を強要しない』『家以外で話しかけない』『金貨4枚毎月小遣いで渡す事』です…これがしっかりと婚姻契約として婚姻用紙に書かれていました」


「それ結婚している意味あるの?」


「普通に考えたら無いですね、ですがそれでもエルダは結婚したかったんじゃないですか? そうでもしないとあんなブサイク貰い手なんて無いですよ! あそこ迄の女…真面な男なら相手にしないですもん」


言われてみれば冒険者なのにいつも1人で居た気がする。


恋人が居ない女冒険者でも酒場では楽しく他の冒険者と酒を飲んでいたがエルダさんは何時も1人だった気がする。


だけど、今までの話の中でエルダさんが奴隷になった理由は無い。


「それで、何で奴隷になったんですか?」


「今の話で解りませんでした? 沢山の男にお金を貢いでいたからエルダは結構な借金がありましてそれが怪我して払えなくなったから売られてしまった…それだけですね。尤もお金を貸した方は『売っても金にならないが憂さ晴らしだ』そう言っていたようです。まぁ貸しているお金に対してエルダは二束三文…気持ちは解ります」


どうせこの世界法外な利息でとっくに儲けはあるのだろう。


「旦那は?」


「奴隷になりそうな時にエルダが街で助けを求め話かけた為『家以外で話しかけない』を破った。そして奴隷になったらお金が貰えないからと『金貨4枚毎月小遣いで渡す事』を守れなくなる。その理由で離婚届けを出して正式に受理されています」


「そうですか…」


「あと、悟様は変な妄想をしているかも知れませんが、エルダは多分『性的な事はされていない』と思います」


「え~と」


それも気になっていたんだが…そうなのか?


「だって字が『ビックブレスト(巨大な胸)エルダ』ですから、別の字で『金を貰っても抱きたくない女』と言われてますからね…悟様の思ったような意味では酷い事はされていません…多分ですが、もし抱いたなら私にこっそり報告して下さい…サリーが『勇者(笑)』の称号をあげちゃいます」


「もういいや…ありがとう」


これ以上揶揄われるのも腹が立つので冒険者ギルドを後にした

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