第9話 ゴブリン これじゃ狩れない


「行ってらっしゃいませ!悟様…私の顔がどうかしましたか?」


「いや、随分違うな…そう思っただけだ」


同一人物とは思えないな…


あの殺伐とした睨む目じゃない。


「そりゃ変えますよ!冒険者様はお客様、ギルドの収入と直結していますから…それにB級のディーバ様を倒すような凄腕、態度も変わろうというものですよ!」


なかなか良い性格をしているな。


まぁ良いや。


冒険者の試験に受かった俺は早速仕事を受ける事にした。


B級を倒した特典は微々たるもの物で1ランクだけアップのEランクスタートだ。


ランクがSからFまでなので、大した特典じゃない。


ちなみにDランクが一人前でそこから上は並大抵の努力じゃあがれないらしい。


実際、このギルド所属の冒険者ではBランクが一番上でそれも1人ディーバしかいないそうだ。


それに勝ったんだからAでも良いじゃん。


そう思ったが『才能より貢献の方が重要だ』と説明されて1ランクアップ上のスタートでも異例なのだそうだ。


そして俺は、常時依頼で異世界の定番『ゴブリン』の討伐を受けた。


まぁ、そんな感じだ。


「それじゃ行ってきます」


この世界で初めて挨拶をし、腹黒?の受付嬢に見送られながら俺は…初めての狩りに出かけた。


◆◆◆


しかし、この体は本当に凄いな。


実際に走ってみたら体感的には絶対に車より速い気がする。


こんな畦道なのに、まるで高速道路を車で走っている位速いし、ジャンプしたら杉のような木の4倍以上高く跳ねられた。


ちなみに巨木を軽く殴ったら、いとも簡単に折れた。


『超人』そうとしか思えない。


母さんが『幸せに暮らせますように』そう仏様に祈っていたから、俺は仏様に救って貰えたんだ…


『母さん、薬師如来様、そして名前がわからない仏様…ありがとう』


心から母さんと仏様達に感謝の祈りを捧げた。


そして女神、いやあんな奴糞でいいや。


イシュタスを呪った…俺は正直に言えばマザコンだ。


本当のマザコンとは違って『母さんが理想の女性』そういう事だ。


少し、母さんにイシュタスが似ていたのがすごく腹が立った。


『いつかぶん殴ってやる』そう誓いを立てた。


◆◆◆


2匹のゴブリンを見つけた。


すぐに駆けていき…


「悪いが今夜の食事代と宿代になって貰う」


そういいながら、殴ろうとしたら…


『ヒィ…魔王様お助けください』


『魔王様、獣王様、お許しを…』


不味い、この近くに魔王と獣王が居るようだ。


流石にヤバいかも知れない。


すぐに狩って逃げなくては。


俺は用心深く再び手を振り上げると…ゴブリンはいきなり土下座をしだした。


『『お許しを魔王様、獣王様』』


「まさか、俺が魔王に見えるのか?」


『魔王様ではないのですか…』


『それなら獣王様ですか…』


これはあの糞女がくれた『翻訳』のせいなのか?


ゴブリンと意思の疎通ができている。


「俺は魔王じゃないよ?」


ゴブリン相手についどもってしまった。


ノリは『僕は悪いスライムじゃないよ』に近い。


確かにゴブリンは醜いが、この体の影響なのか醜いだけで邪悪な存在には見えない。


『ですが、そのすさまじい気…名だたる魔族の方か獣人族にしか思えません』


『もしや魔族の四天王様ですか』


駄目じゃん。


こんな理性的な存在狩れない…


「悪いが自分が何者なのか解らないんだ…」


ゴブリン相手に俺は何を言っているんだ。


『それは難儀ですな…そうだ!いずれにしても貴方様は我らの支配階級の方には間違いありません! 歓迎いたしますので我らが王の所迄着ていただけませんか?』


『そうです…我らが王であれば何か判るかも知れません』


絶対に解らないな。


幾らゴブリンの王でも『仏様の事を知るわけがない』だが、なんだこのキラキラした目。


異世界で初めてこんな目を向けられた…


「そうか…それならお世話になるよ」


俺はゴブリンに甘える事にした。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る