第10話 ゴブリンの歓迎
ゴブリンの洞窟に連れられてきた。
他のゴブリンが遠巻きに見ているが、恐れるような目を向けてくる存在と尊敬の様な目を向けてくる存在に別れている。
『畏怖』
それが一番近いのかも知れない。
恐らくだが、この体になる前なら、醜く恐れる姿に見えたであろうゴブリンが、少し違った感覚で感じている。
可愛らしい蛇とかカエルみたいな感じだ。
『しかし…腹が減ったな』
良く考えたら、此処暫く食事をしていない。
『ひぃ…そちらの手配もさせて頂きます』
『まままままずは王にお会いして下さい』
これはやはり翻訳の力だな。
多分グォーとかゲゲゲとかが翻訳されている様な気がする。
『済まないな…』
『いえいえ』
そのまま洞窟の中を奥まで進むと見上げる位大きなゴブリンが居た。
傍に居た三人のゴブリンが膝をついた。
俺も慌てて膝をつこうとしたが…
『うあわぁぁぁぁぁーー魔王様――っ』
『『『『『魔王様だぁぁぁぁーーーっ』』』』』
大きな個体のゴブリンやその周りに居た、騎士の様なゴブリンや大きな個体のゴブリンの方が逆に膝まずいた。
どうして良いのか解らない。
頭の中で誰かが『偉そうにしていれば良いんだ』そう言った様な気がした。
だが、俺にはそんな事は出来ない。
『俺?』
まぁ良いや…僕より俺の方がこの姿には似合いそうだ。
『俺は魔王じゃない! だが、そこのゴブリンが来れば歓迎してくれると言うので馳走になりに来た…只の客だ! 膝なんてつかなくて良いぜ!』
なんだか何時もの僕…じゃなくて俺じゃないみたいに振舞えた。
『そうですか…自分が何者なのか気がついて居ないのですね…どちらにしても貴方様は魔王種だと思います…勿論、このキング…失礼の無いよう最上級のおもてなしをさせて頂きます…皆の者、若き魔王様が此処に来られたのだ、宴の準備をするのだ!魔王様には部屋をご用意しますので、少しの間ごゆるりとお休みくださいませ』
『ありがとう』
お礼を伝えると、他のゴブリンに個室?に案内された。
◆◆◆
この世界に来て、最初に優しくしてくれたのがゴブリンってどう言う事だよ…
此処迄、親切じゃ狩れないじゃん。
これから、俺の冒険者人生が始まると思っていたが無理じゃないか…これ。
『魔王様は、肉はどちらが宜しいでしょうか?』
『肉?!』
『はい、人間を潰すつもりですが…やはり雄より雌の方が良いですよね』
肉…不味い。
このままじゃ俺『食人』しちゃうじゃないか?
流石に…これはしたく無い。
『その、俺は人間由来の魔王…の様な気がするのだ…』
『それじゃ人間は、嫌ですよね、心得ました。なにか獣の肉を用意致します』
『頼んだ』
『はい』
ハァ~お風呂に入りたいが、どう考えてもゴブリンにそういう文化があるとは思えないな。
『所でこの辺りに川か湖は無いか!』
『もしかして水浴びがしたいのですか?それなら、この洞窟の奥に水場がありますのでご案内いたします』
『水場があるんだ…お願い致します』
これでようやく、水浴びが出来る。
良く考えたら着た切りスズメで…凄く臭い。
尤もゴブリンは俺より遥かに臭いんだけどな…
そのままゴブリンに案内されて水場に来た。
地底湖? 川? 洞窟の奥に大量の水があった。
『凄いな』
『我々は基本的に水場は飲み水以外使いませんからご自由にどうぞ…終わりましたら、宜しければあちらの部屋にある物もご利用下さい』
ゴブリンは水場の傍にある扉を指さした。
『あそこに何かあるのか?』
『…魔王様の食欲以外の欲を満たす物ですよ…それじゃ私は失礼します』
なんだか、ゴブリンがニヤリと笑った気がしたが気にしても仕方が無い。
そのままゴブリンを見送り、水場を見た。
これは大きな川だな。
相手がゴブリンでも湖や池みたいな場所を汚すのは忍びない。
川なら流れていくから気にしないで済む。
俺は服を脱いで、そのまま川にダイブした。
「ふぃ~気持ちが良い」
石鹸もなくシャンプーもリンスも無い。
そして凄く冷たい…それでも水浴びは凄く気持ち良い。
体を水で清め、体を流して…泳いだりして水を堪能した。
俺の体は…少し毛深いけどなかなかセクシーでカッコ良い。
本当に『魔王』なのか?
どう考えてもお釈迦様に仕える仏様が、そんな物騒な体を俺に与える訳無い。
冷たい水を堪能した俺は、ゴブリンが指をさした部屋に入った。
「なんだ、これは…」
ゴブリンだから…そんな物だよな…
◆◆◆
栗の花の匂いが充満した部屋…
その中には3人の女が転がっていた。
「助けて…」
「いや、いや…いやぁぁぁ…」
「うわぁぁぁ…」
下着1枚身につけていない…周りに散らばっている布切れを見ると『冒険者』だったのかも知れない。
「大丈夫か?」
「いやぁぁぁーーっいやっあははははっ」
「うふふふふっ、ああっうふふいやぁぁうわぁぁぁーー」
「あはははっ、なんでもするからあはははっ殺さらないであああっああああーーっ」
目の焦点があってない。
元は結構な美少女だったのかもしれないが…髪の毛もストレスから抜けて体は傷だらけだ。
悲惨すぎる光景。
『助けるのか?』
いや、今更助けても無駄だ。
完全に壊れている。
前の世界なら兎も角、中世みたいなこんな世界じゃ…多分治せない。
それにもし、治せたとしてもゴブリンに苗床にされていた女が生きるのは辛いだろう。
それに…
今の俺がゴブリンの財産を取り上げる訳にいかないよな。
俺は『見なかった事にして』扉をしめた。
人間としてどうかと思うが…自分に優しいゴブリンと戦ってまでどうこうする問題じゃない。
冒険者ギルドでも言っていた。
『冒険者の命は自己責任』
だったら…仕方ない。
俺だってこの世界の人間に助けられたことは無い。
◆◆◆
『宴の準備が終わりました』
『ありがとう』
『ウサギの丸焼きです』
俺にはウサギを使った料理が出されたが…他のゴブリンが食べているのは…もしかしたら人間なのかも知れない。
気にしたら駄目だ。
ゴブリンは俺に気を使い、踊ったり色々してくれているが俺には意味が解らない。
そして、食べている料理だが…調味料も何も使ってない。
だが、今まで何も食べて居なかったせいか、それでも美味しく感じた。
これじゃ、もうゴブリンは狩れないな。
『魔王様どうかなさいましたか?』
『いや、俺は人間に溶け込んで生活しているんだが、ゴブリンの討伐を引きうけたんだが、こうも優しくされたんじゃもう狩れないし…今後どうするか、考えていたんだ』
『それなら、私に逆らった者を粛正しましたのでそちらをお持ちください…あと、人間から奪った物が倉庫に突っ込んであるので、そちらもどうぞ…』
俺が魔王だと思っているのか、ゴブリンキングをはじめゴブリンが凄く優しい。
『多分俺は魔王じゃない』
だが、今回は甘える事にした。
その後は、粛正されたゴブリン8匹から討伐証明の左耳を貰った。
更に倉庫に案内され…
『此処にある物は我々にはガラクタですから…好きな物をお持ちください』
と言っても武器や防具はゴブリンが使いそうなので遠慮しておいた方が良いだろう。
おっ
『このお金を貰ってよいかな』
『ははははっ我々には一番必要ない物だからどうぞ』
俺は結局、ゴブリンの耳に結構なお金を貰って…ゴブリンの巣を後にした。
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