第8話 救い

ひもじい…


異世界は、日本より裕福じゃない。


浮浪者にも簡単にはなれない…コンビニ弁当や食い残しの残飯も無い。


もう何日食べていないか解らない。


意識が薄れてきた…母さん。


俺駄目だったよ。


『悟が幸せに暮らせますように…』


ごめんなさい…


母さんの願いを叶えられなかった。


幸せにもなれず…当たり前に暮らせなかった。


ごめんよ…


女神イシュタス…俺はお前が嫌いだ。


何時かきっと…


◆◆◆


『気がついたか?』


此処は何処だ…目の前に居るのは…神様。


『神様?』


『違うが、俺の事は良い! 俺はお前が元居た世界、お釈迦様に仕える存在だ!お前の母親は死ぬまでお前を心配し…薬師如来様に祈って死んでいった…だから俺はお前を助けにきた』


『俺を…助けに…元の世界に戻してくれるのですか』


『それは出来ない』


『それじゃ…スキルやジョブを…』


『それも出来ない』


それじゃ、何をしてくれるのだろう…それよりこれは夢なのかも知れない。


死ぬ前の俺が、助かりたい。


その思いから見た夢。


だから俺はきっと助からない。


『それじゃ…』


『私や他の仏も多くはこの世界に干渉する事は出来ない…だから、この世界で生きられる様に...強い体をお前に与える事にした。お前の母との約束『幸せに暮らせますように』それが叶うように、この力を手に入れたお前がどう生きていくか、私達は見守る事も出来ない。頑張って幸せに生きていくようにな…』


『ありがとうございます…それでどんな体を?』


『それは…時間が来たようだ…強く生きるのだぞ』


俺を助けに来た仏様が消えていく…


『ありがとう』



◆◆◆


夢だったのか…やはり俺はこのまま死んでいくのか…


今のは最後に見た…夢だったのか?


手足ももう動かない…もう死ぬ…うん?


俺の手足はこんな手足じゃない。


なんだ、この長くて筋肉質の物体は…


まるでそう、鍛えぬいた男の体だ。


腹筋もシックスパッドに割れている。


それより体が軽い。


お腹は空いているが、まるで別人になった様な気がする。


いや別人だ。


前より頭の位置が高いのか景色が違う。


凄い…只の高校生が歴戦の戦士になった気がする。


体が全部違う。


仏様…ありがとう。


俺は近くにある噴水に行き顔を映した。


『これが俺?』


水に映ったその姿は『猿顔でセクシーな顔』葉巻を加えて、セクシーなアンドロイドを連れている、宇宙海賊に似ていた。


そうだ、俺の亡くなった父さんの漫画の主人公『宇宙海賊ブラックマンバ』みたいだ。


俺は左手を引っ張ってみた。


「痛いっ」


流石に左手に光線銃はついて無いようだ。


だが、この体が一般的な異世界人以下な訳が無い。


仏様?がくれた体だ…


よし、冒険者ギルドへ行こう。


◆◆◆


「冒険者ギルドへようこそ!今日はどう言ったご用件でしょうか?もしかして他のギルドから来られたのですか?」


この前の俺を追い払った…受付嬢だ。


「もう一回腕相撲しようか?」


「腕相撲? え~となんで私が貴方としないといけないのですか?」


「この前、登録しようとした時に貴方に腕相撲で負けて…登録して貰えなかったからですよ!」


「悟…様ですか? 異世界人の? スキルに目覚めたのですか? その姿別人じゃないですか? そうだ、もう一度試験を受けてみますか?」


「お願い致します」


また水晶による検査か...


だが、今度は違う期待が持てる。


「どうしてだ…水晶で測定できない…名前以外は何も解らないなんて初めてだ…これでは解らない」


「解らないと、どうすれば良いんですか?まさか冒険者になれないのか?」


不味いな…まさか冒険者になれないのか?


「それは無いから安心しろ! 測定は出来ないが、アンタどう見ても強そうだから、模擬戦だな」


「模擬戦?」


「高位ランクの冒険者と立ち会って…その結果決める…そう言う事だ」


冒険者と模擬戦か…


今の体がどれ程、強いのか…知るチャンスだ。


「解りました」


◆◆◆


何故ステータスが見れないのか解らないな…


だが、この体は絶対に強い…


こんな凄い筋肉をしている体が弱い訳無い。


暫く待つと髭もじゃの男と勇者の劣化版みたいな奴が現れた。


「私がこのギルドのギルドマスタースベンじゃ」


「僕はB級ランクの冒険者ディーバだ…君の模擬戦の相手だ…充分にお手加減はしてあげるよ!だけど、それでも怪我したらゴメンね、まぁ此処は冒険者ギルド、最低限の治療はして貰えるから」


「がはははっ、そう言う事だ勝つ必要は無い…相手はBランクこのギルドじゃ最高レベルだ…何処までやれるか見る…それだけだから安心して良いぞ」


「そうですか」


話を聞き、そのまま修練所で模擬戦となった。


「君は何を使うんだい?まさか素手でヤル気かな?」


俺は何を使うんだ…武器は…


俺は耳を傾けトントンと叩いた。


何故かこうすれば武器が出てくる、そんな気がしたからだ。


耳から爪楊枝位の棒が出てきた。


「なんだ? そんな小さな棒どうするんだ? 僕を揶揄っているのか?」


これは使えないな。


何故か、ポケットに入れたら破れて下に落ちたので、耳に戻した。


「悪い…素手で良い」


「そうかい? だけど僕は剣士だから、木刀を使うよ」


「構わないよ」


この人はB級だから強い筈…だが、何故か頭の中に雑魚だという意識が浮かび上がった。


「本当に素手で良いんだな?」


「はい」


「もしかして貧乏だから武器も真面に買えないかい? なんなら腰のナイフを使っても良いんだよ?」


素手じゃ不味いのかも知れない。


「それじゃ…棒があったら貸して下さい」


何故、木刀じゃなくて棒なのか解らないが…強いていうなら体が欲しがった。


「そうか、この棒で良いか?」


「はい」


「棒術、それを使うのかい…何処からでもどうぞ」


「おう…それじゃはじめ」


「先手は譲ってあげる…何処からでもどうぞ!」


「それじゃ行きますよ」


「どうぞ、うぎゃっぐはうぐはぁ~うげえええっーーー」


軽く棒で突いただけでディーバはその場で崩れ落ちた。


「B級のディーバが一撃…しかも見えなかった…おめでとう合格だ」


この日俺はようやく異世界で第一歩を踏みだした。






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