神の見えざる手
川谷パルテノン
電話にて
本当に見えなかった。
「心配したんだから」
「ごめんなさい」
「今どこ?」
「北九州」
「広いね いっつもそう」
「……」
「黙ってないでなんとか言いなよ 実家のおかあさんにも連絡したんだよ 来てないって言うし みんなに心配かけてる」
「ごめんなさい」
「ごめんって本気で思ってる? 思ったことある? 何回目?」
「数えきれないです」
「ちゃんと考えてこうねって約束したよね 二人の将来真剣に見据えてやってくって言ってたよね?」
「その時はほんとにそう思ってました」
「え なにそれ そんなのいくらだって口で言えるじゃん 手クンはさ アタシの気持ちとか考えたことある?」
「ずっと思ってます」
「うそ 絶対うそ だったら居なくなったりしなくない? 横にいても見えないんだよ? そばにいてほしいだけなのに 喋りかけて返事ないときのアタシの不安とか寂しさとか考えてよ」
「もうしません」
「信用できないよ もう疲れた アタシね 手クンが今回もう何回目かわかんない失踪してるとき近所は探さなかった 電話はしたけどどうせ出ないんだろうって思った だから目の前の仕事とか頑張ってた そしたらだんだん思えてきたの もしかして手クンってアタシの生活の中にいなくてもアタシやってけるのかもってね」
「ヨシ子ちゃん!」
「もういいよ くたびれた 別れよ」
「すぐ帰るから」
「無理しないで 手クンは手クンのやりたいようにやりなよ じゃあ切るね」
「ヨシ……」
雨が降ってきた。傘を持っていない手はびしょびしょになった。行き交う人の雑踏がこちらからは見えるのにあちらからは見えない。手は自分がこの世界に認識されぬまま今日を迎えている。何が大切かは知っていた。それをたった今失った。手はその手を天に翳した。これは傲慢だ。けれどわかってほしい。僕だって寂しかったんだよ。創造は回帰する。旧い時間は海にのまれゼロになる。何度でもやりなおせる。それは神とて等しいのだ。
神の見えざる手 川谷パルテノン @pefnk
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