第49話 生配信開始です。前編
私の名前は
ネット上では魔法使いニィチカとして絶賛活動中のYouTuberです。
こう言ってはなんですけど、私は飛ぶ鳥も落とす勢いの大人気YouTuber――
……いえ、ごめんなさい。
ちょっと嘘をつきました。
正しくはまだギリギリ大人気というべきか……。
実を申しますと、昨今のYouTuber業界はとても厳しいのです。
レッドオーシャンそのものです。
私は古参の方なので、昔からの固定ファンが多く視聴してくれる分まだマシなのですが、この界隈、才能ある新人さんが日々掃いて捨てるほど現れます。
最近ではテレビで活躍中の芸能人なんかもYouTuberに転身してきて
それにこのところはVtuberに人気を奪われることも頻繁で、YouTuberはみんな生き残りをかけて必死だったりします。
これは私も例外ではありません。
というか私のチャンネルもここ半年ほど登録者数は頭打ちで、同接も減る一方です。
人気に翳りが見え始めてきました。
ぶっちゃけ焦ってます。
そんなところに舞い込んできた、今回の取材のお話!
私は一も二もなく飛び付きました。
取材先はなんと『聖シャリエッタ教国』。
まさか知らない人はいないですよね?
そう、あの聖シャリエッタ教国です!
数ヶ月前にS県T市に現れたゾンビの大群と勇敢に戦い、鎮圧せしめた女騎士やエルフたちが暮らしている、あの場所なのです!
◆
あの事件は衝撃的でした。
私も目をまん丸にしながら、食い入るみたいにテレビの生中継を見ていたのですが、驚きの連続でした。
腰が抜けそうになりました。
まさか本当にドラゴンやエルフなんてファンタジーな存在がいるなんて……。
まぁゾンビは気持ち悪かったですが。
私は自分の目を疑いました。
それと同時に興奮とドキドキする胸の高鳴りを覚えました。
あの生中継をみた人はみんな同じ気持ちだったと思います。
これCGでしょ?とかドッキリでしょ?とかそんなことも思いました。
でも事実は事実。
まさに小説より奇なりです。
日本中――いえ、世界中がひっくり返るみたいな大騒動になりました。
国会では与野党が毎日対応を協議してましたし、国連や米中をはじめとする諸外国からは、あの連中を調べさせろと凄い圧力が掛けられて大変だったみたいです。
けれどもある日を境に、聖シャリエッタ教国のことは国会で議題に上がらなくなり、諸外国からの圧力もピタリと止みました。
本当にピタリと止みました。
不思議なこともあるものです。
色んな憶測が飛び交いました。
例えば『世界を裏で支配する絶大な力を持った権力者が、聖シャリエッタ教国への干渉を禁じたからだ』とか何とか言われていますが、あくまで噂レベルです。
真偽のほどは定かではありません。
ともかくそんな、謎に包まれた聖シャリエッタ教国をこれから私は取材できるのです!
きっと反響も凄まじいことでしょう。
◆
「みなさんこんにちは〜。ばぁん! 魔法使いニィチカですよぉ」
お決まりのセリフを述べてから指鉄砲のポーズ。
さぁ配信開始です。
「今日はこちら聖シャリエッタ教国にお邪魔していますー。入り口からの生配信です! 教国と言っても国じゃないですよ? って視聴者のみなさんはもうご存知ですよねー」
聖シャリエッタ教国については、迷惑系YouTuberやマスコミ関係者が突撃取材を敢行した結果、ある程度の情報は出回っています。
だから今日は、まだ世に出回っていない新鮮味のある情報を取材していかないと……。
がんばろう。
私は気合いを入れ直しつつ、ちらりと同接を確認しました。
「――ぶほっ!」
に、2,000万⁉︎
あわわわわ、な、なにこれ、えらいこっちゃですよ!
同接がバグってます!
だって今まで最高でも同接10万とかだったのに、いきなり記録更新200倍ですよ⁉︎
しかもまだまだ増えてますっ。
あわわわわ、凄い勢いで増え続けてますー!
――とか思っていたら、空に白いドラゴンが現れました。
ドラゴンの背中にはゾンビと戦った、あの美人な女騎士さまが騎乗しています!
「なんだ、また新しい住人か? ふむ、今度は魔法使いか……。ならば自己紹介をせねばな」
ドラゴンが羽ばたきながら降りてきました。
風圧が凄いです。
私は魔女帽子が飛ばされないよう、しっかりと頭を押さえます。
するとスカートが少し捲れてしまいました。
こういうのも頭隠して尻隠さずと言うのでしょうか。
油断しました。
コメント欄をみると――
『うおお、マジでドラゴンじゃん』
『すげえー! ……っていうかさ、今ニィチカちゃんスカートの中、ちょっと見えてなかった?』
『見えてた、見えてた』
『マジで? くそっ、見逃したー』
『安心して下さい。履いてましたよ』
『スクショした』
『マジか。助かる』
ちょっと、センシティブなやり取りやめて下さい!
コメントが高速で流れていきます。
私は顔を赤くしながらスカートの裾を押さえ、一時的に配信のことも忘れて慌てました。
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