第48話 人気YouTuber魔法使いニィチカ
蝉がミンミン鳴いている。
頭上からカンカンと照りつける日差しは、思わず目を細めてしまうほど強烈で、季節はもう夏真っ盛り。
俺は額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
そうしてとある悩みに思いを馳せる。
その悩みとは、ずっとウチの敷地の周辺に張り付いたままの、マスコミ関係者についてである。
◆
彼らはあのゾンビ事件からこっち、ずっと飽きもせず、四六時中ウチの近辺に詰めていた。
そして隙あらば取材攻勢を仕掛けてくる。
これが存外鬱陶しい。
突撃取材の他にも頻繁に敷地上空をテレビ局の中継ヘリが横切って
まぁ、これについてはニニチマギア(なんか凄い権力者らしい)が、テレビ局にガチめの圧力をかけて止めさせていたが、とにかくマスコミ関係者らはあの手この手でウチを取材しようとしてくるのだ。
でも俺的にはマスコミから取材を受けるつもりはない。
だってアイツら、普通に捏造したり偏向報道したりするからなぁ……。
視聴者の怒りを煽ったりもするし。
俺は全国の視聴者の皆さんから叩かれるのは勘弁なのである。
あ、余談だが、当初マスコミ以外にも政府関係者や何とかいう権威ある調査団がウチのことを調べに来たことがあった。
だが全部ニニチが追い返していた。
さすが権力者だ。
そうして結局、断り続けても最後まで諦めずに張り付いているのがマスコミという寸法である。
◆
マスコミ関係者が付近に張り込むようになってから、もう随分になる。
さしもの俺も、この状況には辟易としていた。
そろそろ何かしらの対策を講じねばなるまい。
茉莉花ちゃんに相談してみる。
「え、マスコミ対策ですか? たしかにちょっとしつこいですもんね。断っても断っても取材されてストレスです」
そうなんだよ。
何とかして彼らには穏便にお引き取り願いたいんだが、なんか良い方法ないかな?
「そうですねぇ……。あのマスコミの方々って、聖シャリエッタ教国の中のことが知りたくて張り込んでるんですよね? じゃあいっそ、こちらから中の様子を公開しちゃうのはどうですか?」
というと?
「たとえば人気配信者の方に依頼して、取材に来てもらうなんてどうでしょう?」
配信者っていうとYouTuberとかか?
うーん。
ああいうのにはあんまり良い印象がないな。
ちゃんと配信してくれるかな?
だってアイツら、不法侵入してくるような輩ばっかだしさぁ。
「それは迷惑系YouTuberの方たちです! ダメですよ風太郎さん。真っ当に活動されてる配信者の方々もたくさんおられるのですから、全部を一緒くたにしてはいけません」
茉莉花ちゃんが人差し指を立て、『メッ』と俺を叱ってくる。
スーツ姿のメガネ美人にこんな叱り方をされると、女教師に叱られる学生みたいで、妙な気分になってしまう。
ちょっと癖になりそうだ。
――っと、それはともかく『中の様子をこっちから公開配信して、マスコミの興味を失わせてしまう』か……。
ふむん。
それもアリかも知れん。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――数日後。
俺は茉莉花ちゃんと並んで、とある人物を迎えていた。
「おはようございます! お呼び頂きありがとうございます! YouTuber事務所メタモルフォーゼ所属の、魔法使いニィチカです!」
「わぁ、うわぁ! ニィチカちゃんだ! 本物ですよっ! 凄いですね、風太郎さん! 生ですよっ」
……そう言われてもなぁ。
配信文化にとんと疎い俺には、凄さがさっぱり理解できない。
ただどうやら目の前の女性は本当に有名な配信者らしく、茉莉花ちゃんは目を輝かせてはしゃいでいる。
こういう彼女も新鮮で可愛らしい。
今日はこちらの『魔法使いニィチカ』さんに、聖シャリエッタ教国の様子を配信してもらう予定である。
ちなみに取材に来てもらうYouTuberの人選は、茉莉花ちゃんに一任していた。
きっと茉莉花ちゃんは彼女のファンなんだろう。
ニィチカが丁寧に頭を下げる。
「今日はよろしくお願いしますぅ」
かと思うと、さっと背筋を伸ばし――
「ばぁん!」
――掛け声と一緒に指鉄砲を撃ってみせた。
ニィチカはそのまま指を上に立て、頭に被ったつばの広い魔女帽子をくいっと持ち上げる。
その仕草はまんまガンマンだ。
「あ、今の分かります? これ私のお決まりの挨拶なんですけど、魔法使いが魔法を使ってる姿を表現してるんですよぉ」
ふぅん。
魔法ってぇと、ファイアボールとか、メラとか?
指鉄砲で魔法を放つとか斬新な解釈だけど、なかなか似合っていた。
朗らかで元気だし、人気があるというのも頷ける。
「すみませんっ。サ、サインを下さいっ」
「いいですよぉ。さらさらさらぁ〜」
ニィチカが色紙にペンを走らせる。
笑顔になった茉莉花ちゃんは、サイン色紙を受け取り喜んでいた。
じゃあ、今日は配信よろしくな。
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