第46話 ファンタジー異世界への扉
――ゾンビの襲来から数日が経過した。
この間、ホント大変だった。
というのも連日マスコミが大挙してウチの敷地に押し寄せてくるし、電話もひっきりなしに掛かってくるものだから、俺やケモ耳メイドたちはその対応に追われまくった。
取材に押し寄せたマスコミは、獣人たちを見てあっと驚く。
じゅ、獣人⁉︎
その耳と尻尾は本物なんですか⁉︎
とかなんとか言いながら、一斉にカメラのフラッシュを焚きまくる。
ケモ耳さんたちがびくびく怯えてもお構いなしだ。
マスコミはマジでしつこかった。
いやまぁ、こんなファンタジーが現実世界に展開してるんだから取材に必死になる気持ちはわからんではない。
けど少しは手加減して欲しい。
口を開けば、やれ「あなた方はどこから来たんですか?」とか「ゾンビの仲間か?」とか「エルフを出せ!」とか「ドラゴンを出せ!」とか「あのドラゴンはちゃんと市の許可を得て飼育しているの?」とか、とにかくもう質問攻め。
俺はこれらの質問すべてに、知らぬ存ぜぬを貫き通した。
質問は弁護士を通してくれ。
まぁまだ弁護士さん雇ってないんだけどな。
マスコミたちは国民の知る権利がどうこう喚いていたが、俺が知るかっての。
あと、マスコミ以外にも厄介なのがいた。
それは個人のネット配信者たちだ。
いわゆるYouTuberとか。
彼らは毎日飽きもせず、ひっきりなしに敷地に不法侵入してくる。
これはある意味で、マスコミよりも鬱陶しかった。
だって配信者たちは、不法侵入を悪いこととすら思っておらず、むしろ「配信してやるんだからありがたく思え」くらいの尊大な態度で接してくるのだ。
しかも個人だから身軽でタチが悪い。
とある配信者の男性なんか、ケモ耳メイドたちが暮らしているゲルまで不法侵入してきて、俺は大いに焦った。
結局その配信者は男嫌いなユニコーンに角で全身隈なく小突かれまくって散々な目にあわされていたが、自業自得だと思う。
以降、俺は暇をしていたヴェルレマリーに獣人たちの護衛をお願いした。
◆
……とかなんとか、この数日を振り返っていると、エルフのプレナリェルがやってきた。
「フウタローさん、フウタローさん」
どうした?
疲れきった俺は、踊る子兎亭のバーカウンターに座り、頬杖をつきながら報告を聞く。
「また侵入者を発見しました! 今日はこれでもう5人目ですねー。どうなさいますか?」
見ればプレナリェルは何人かのエルフと協力して、見知らぬ男を捕らえていた。
ああ、またYouTuberか。
懲りないなぁ。
男は取り押さえられながらも動画撮影をやめない。
むしろ嬉々としてエルフたちにスマホを向けている。
俺はため息をひとつ吐いた。
ふぅ。
とりあえず、そいつは敷地からつまみ出しといてくれ。
不法侵入の罰としてスマホは没収な。
あ、そうだ。
なんならそいつ、サバゲーの遊び相手にしてやったらどうだ?
「えっ、良いんですか? やったー!」
エルフが喜ぶ。
あのゾンビパニック以来、銃器の素晴らしさに目覚めたエルフたちは、いまサバゲーにハマっている。
流石に実弾は使っておらず、俺が手配したモデルガンで遊んでいるようだが、エルフの魔力が籠ったモデルガンの弾は強力だ。
当たるとかなり痛い。
俺も一度エルフのサバゲーに参加してみたが、酷い目にあわされた。
エルフたちがYouTuberを引っ立てる。
「さあ行きますよ、見知らぬひと」
「ほらほら。さっさと歩いてね」
「ふふふ。いまからお前を的にしてやる」
男は「スマホを返せ! 俺は登録者数3万人の配信者なんだぞ!」なんてぎゃあぎゃあ騒ぎ立てている。
けれども無視だ、無視。
暴れる男はエルフたちに首根っこを掴んで引き摺られ、エルフの森へと消えていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日、俺は転移陣の祠へとやってきていた。
淡く光を放つ転移陣を眺める。
ここからヴェルレマリーたちが来ただけでなく、ゾンビたちまで転移して来たんだよなぁ……。
うーん。
今まであまり深く考えてこなかったが、この転移陣って何なんだろう。
詳細不明だけどゾンビが現れたんだし、危険なものには違いないと思う。
となれば何らかの対策を講じなければならないだろう。
なぜなら今後またあんな魔物が現れないとも限らないからだ。
そんなことを考えていると――
ニニチマギアが飛んできた。
ちなみにこいつは、あの日以降自分の住処に帰らず、ウチで居候をしている。
アリスマギアのそばを離れたくないらしい。
そのアリスマギアは、今も俺の背後に控えている。
ニニチは空から地面に降り立つと、背中の翼をしまい、俺たちに話しかけてくる。
「アリスお姉様っ、本日もご機嫌麗しゅうございます! ……そして風太郎。貴様はこんな場所で何をしておる」
それは俺のセリフだ。
俺は転移陣の今後の扱いについて考えていたんだが、お前は何しに来たんだ?
まさか俺に会いに来たのか?
「ふんっ、誰が好き好んで貴様のような下郎に会いにゆくか。妾が用があるのは、そこな転移陣じゃ」
ニニチは転移陣を観察し始める。
「……ふむふむ……なるほど。ちゃんとパスが繋がっておるの。これはこれは。失敗かと思うて諦めておったが、実はあと一歩で成功という所まで漕ぎつけていたんじゃなぁ……」
お前、この転移陣のこと知ってるの?
「当たり前じゃ。知ってるも何も、これは妾が作った転移陣じゃからの」
ふぁ⁉︎
ど、どういうこと?
作ったって……ちょっと説明してくれ!
「なして妾がそのような事をいちいち貴様に説明してやらねば――」
「説明しなさい」
「はいっ、アリスお姉様っ」
ニニチは語る。
遥か昔、ファンタジー異世界にまだ神や悪魔が存在していた頃の話だ。
その日、ニニチマギアはアリスマギアをサポートしながらある悪魔と戦っていた。
相手は地獄の支配者たる七大悪魔王が一角、怠惰の大罪を司りし大悪魔ベルフェゴール。
アリスマギアとベルフェゴールの力は、拮抗していた。
天を裂き、大地を割る激しい戦いが七日七晩に渡り繰り広げられる。
長引く戦いに、先に嫌気がさしたのはベルフェゴールだ。
かの大悪魔は全力の一撃で勝負に出た。
対するアリスマギアも、全力を持ってこれを迎撃する。
究極の力がぶつかり合い渦を巻く。
その凄まじさは時空が歪むほどで、実際にファンタジー異世界に大規模な次元震が起きた。
アリスマギアとベルフェゴールは慌ててその場を離脱した。
そしてニニチマギアはただ一機取り残され、次元の歪みに飲み込まれて、流れ着いた先は神代の日本――
これがつまり、世に言う天孫降臨である。
◆
以来ニニチは、あの手この手を尽くしてファンタジー異世界に帰ろうとした。
アリスマギアの元に戻ろうとがんばる。
けれども試みはすべて失敗し、いまだにニニチは
この転移陣はそれら試みの一環として、ニニチの手により作り出されたものらしい。
「当時はどうやってもあちらの世界とのパスが繋がらんでな。結局この転移陣による帰還は諦めたんじゃが、まさか時を経てパスが自然と繋がったとはのう」
ニニチはしみじみと語る。
俺はピコンときた。
じゃあ何か?
この転移陣、不安定らしくて転移先が選べないから今まで使い物にならなかったけど、もしかしてお前なら何とか出来たりするわけ?
たとえば行き先を選んで、ファンタジー異世界とこっちを行ったり来たりするとかさ!
「……ふむ。まぁ多少の調整は必要になろうが、そのくらいは可能じゃな。なにせ一番困難だったパスはもうちゃんと繋がってる訳じゃし」
うぉぉぉ!
マジか!
じゃあさ、じゃあさ。
俺をファンタジー異世界に送ってくれっ。
向こうでやってみたいこと、山ほどあるんだよ!
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