第43話 智天使型神造兵器ニニチマギア
ぶるぶるっと、ポケットの内側でスマートフォンが振動する。
取り出して液晶画面を確認すると『
もしもし。
何かあったのか?
「『何かあったのか?』じゃありませんっ。風太郎さん! 凄いことになってますーっ!」
うぉっ。
耳がキィンとした。
ちょっと声、大きいって。
「あ、すみません。興奮してしまいました。――って、それより聞いて下さい! ヴェルレマリーさんやエルフの皆さん、いまテレビ中継されてます! さっき風太郎さんもチラッと映りましたよっ。全チャンネル『T市で暴れ回っているこの集団は、一体何者だ』って、その話題で持ちきりで!」
茉莉花ちゃんは興奮しながら続ける。
「ネットの反響も凄いです! YouTubeとか動画再生回数もう一千万回突破で、SNSも万バズどころの騒ぎじゃないんですからっ」
あー、そんなことになってんのか……。
そういやさっき、エルフとかロケットランチャーぶっ放してたし、それ以前にフィンの姿も撮られてる。
こりゃもう収拾つかんな。
でも、今はそれより目の前のゾンビパニックだ。
後のことは後で考えよう。
◆
自衛隊から奪った装備で完全武装したエルフたちが、俺の元に戻ってきた。
みんなやりきった感満載だ。
眩しい笑顔で報告してくる。
「ぶい! 亡者どもを殲滅して参りましたっ。私ってば大活躍でしたね!」
「違う。私が一番活躍した」
「ちょっとカナリタ、なに言ってるの? それは私でしょう?」
「え? お二人とも数が数えられないので? 一番多く亡者を倒したのはこの私ですよぉ」
こらこら争わない。
みんな頑張ってくれたんだし、誰が一番とか良いじゃないか。
お肉なら全員に、腹がはち切れるまでたんまり食わせてやるから。
「ほんとですかぁ⁉︎」
「わぁい! 約束ですよっ」
今回、エルフたちは大活躍だった。
ヴェルレマリーからは討ち漏らしたゾンビの掃討を頼まれただけの筈が、最後には率先してゾンビの群に飛び込んで蹂躙していたくらいだ。
最終的にヴェルレマリーよりもエルフたちの討伐数の方が多くなっていたと思う。
ならばお肉くらい満足いくまで提供しよう。
活躍には褒賞をもって報いねばならないのだ。
それはそうとして……。
俺は街を見回した。
辺りには完全に絶命して動かなくなったゾンビたちが、あちこちに倒れている。
もっと言えばバラバラに吹き飛ばされた肉片や内臓まで散乱している始末。
やばいぐらいグロい。
マジでトラウマになりそうな光景である。
でもこれ、大半はこの街の人間だったんだよな……。
目を覆いたくなるような大惨事だ。
俺は藁にもすがる思いで、異世界人のみんなに尋ねてみる。
なぁプレナリェル。
この人たち、このままじゃあんまりだ。
何とかして生き返らせたりできないか?
あ、そうだ。
「ある訳ないじゃないですか。そりゃあ確かに御神木の葉っぱを煎じれば、怪我や万病に効くお薬にはなりますけど、死人を蘇生させるなんて無理無理」
……そうか。
じゃあ、ヴェルレマリーは?
「気持ちは分かるが……アンデッドになった者は滅ぼすしかない。そして如何なる魔法を用いても死者は蘇らない。そんな真似が出来るのは神くらいだ」
くそっ、ファンタジー異世界の魔法には、ザオリクとかないのか……。
って、神?
俺はピコンときた。
な、なぁアリスマギア!
この状況、お前だったらなんとか出来るんじゃないか?
だって神造兵器だもんな、な?
頼むよ。
お願いだから「はい」って言ってくれ!
「マスター、申し訳ございません。私は神の手により造られた兵器ではありますが、殲滅戦に特化した
そ、そんな……。
じゃあ本当に、この街の人はもうどうしようもないのか?
そんなのあんまりだ。
「しかしマスター。私には不可能ですが、それを可能とするタイプの神造兵器になら、心当たりが――」
◆
猛スピードで走ってきた車が、俺たちの会話を遮る。
キキィと甲高いブレーキ音を響かせながら、目の前で急停車した。
かと思うと後に続いて、何台もの車がやってくる。
合わせて30台ほどにもなろうか。
どの車も、もの凄く値が張りそうで頑丈そうな黒塗りの高級車だ。
先頭の高級車から男性が降りてきた。
「あわわ、急げっ。急げっ」
慌てて後部座席のドアを開こうとする。
しかし焦っているせいか、なかなか上手くドアを開くことが出来ない。
……って、このおっさんどっかで見たことあるぞ。
なんか現職の総理大臣に似ているような……。
とか思っていたら、
「ええい、まどろっこしい! もう良いわ! 貴様は邪魔じゃから、どこぞで増税の検討でもしておれ!」
「ぐぇ」
総理っぽいおっさんは、ドアごと内側から蹴り飛ばされた。
高級車から和服の少女が降りてくる。
スーツ姿の集団が、少女の前に真っ白でふかふかのカーペットを敷いた。
少女が指示をだす。
「急ぎテレビ局の報道ヘリを下げさせよ。勝手に映した局はこれじゃから」
少女はいつかのイキりきった復興大臣を思い起こさせるような物言いをしながら、親指で首を掻き切るジェスチャーをしてみせる。
可憐な容姿に見合わぬ振る舞いだ。
俺は前触れもなく現れた見知らぬ彼女に面食らう。
誰何しようと、一歩足を踏み出す。
それと丁度同じタイミングで、少女がいきなり駆け出した。
「ああ……尊き御方! お会いしとう御座いました! お会いしとう御座いました!」
向かってくる先にいるのは、俺だ。
……いや、違う。
少女は俺をスルーして、背後に控えていたアリスマギアに抱きついた。
熱烈な抱擁。
「アリスお姉様! ニニチに御座います! お久しゅう御座います! 私、
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