第40話 白い竜と報道ヘリコプター
俺はヴェルレマリーやアリスマギア、エルフたちを引き連れて、すぐに街へと飛んだ。
大急ぎだったのでフィンに運んでもらった。
まさか初めてのドラゴン
ちなみにケモ耳メイド隊や茉莉花ちゃんは、子兎亭で留守番である。
きっと今頃、テレビ報道をハラハラしながら見守っていることだろう。
フィンの背中に乗った俺たちは、上空から街を眺める。
酷い有様だった。
昨日まで整然としていた街並みは、瓦礫の山に変わり果て、あちらこちらにゾンビが徘徊している。
「あー、全滅ですねぇ、これは……」
「な、なんてこった」
「……酷い状況だな。しかし
ヴェルレマリーが言うには、なんでもゾンビはファンタジー異世界のモンスターとしてはかなり弱い部類に入るらしい。
物理攻撃には滅多矢鱈に強いが、魔力の籠った攻撃にはめっぽう弱い。
ファイアボール一発で即昇天。
駆け出し冒険者でも、十分対処可能な相手とのことだ。
俺はそれを聞いて思った。
え?
魔力ってなんだ?
そんなもん、こっちの人間は持ってないと思うんだけど……。
◆
空から街を眺めている間にも、被害は拡大していく。
ついには自衛隊が出動して対応に当たったが、事態を鎮静化することは出来なかった。
銃火器が通じなかったからだ。
自衛隊の扱うただの銃弾には、ゾンビを倒すために必要な魔力とやらが込められていない。
マジこれやばいって!
なんとか出来ないか?
みんなお願いだ、この街を救ってくれ!
俺の懇願を聞いたヴェルレマリーが、鎧の上からドンッと胸を叩いた。
「よかろう! その魔物退治、私が請け負ってやる! ……だからフウタロー。お前はもう、そのように泣きそうな顔をするな。後のことはすべて、この私に任せておけ」
なにこの姫騎士、かっこいい。
普段は酒臭いばかりのくせに、いざとなると頼りになる。
フーテンの寅さんみたいなヤツだ。
俺はキュンときた。
ヴェルレマリーは白竜フィンブルリンドをアスファルトの地面に着陸させ、俺たちを背から降ろす。
ひとり残って騎乗したまま言ってくる。
「
プレナリェルたちが頷く。
「はぁい、了解しました!」
「終わったらお肉ですねっ」
「あ、そうだ。みんなでどれだけ亡者を駆逐できるか競争しましょうよ。優勝者はお肉の取り分多めで」
「ん、負けない」
エルフたちはやる気だ。
こいつらのことだから、お肉が掛かっているとなれば、執拗にゾンビを探し回って一匹残らず駆逐するだろう。
続いて周囲の警戒に当たっていたアリスマギアも、空から降りてきた。
俺の一歩後ろに控える。
「私はここでマスターをお護りいたします。皆様、マスターには傷ひとつ負わせませんので、安心して魔物退治に励んで下さい」
「うむ。よろしく頼む。では征くぞ!」
ヴェルレマリーがフィンを飛び立たせる。
それと同時にエルフたちも散開していった。
◆
テレビ局のヘリコプターが、上空から街の惨状を中継している。
そこにドラゴンが現れた。
「――ちょ⁉︎ まっ! うぇぇ⁉︎ ドッ、ドラゴンです! 白いドラゴンが現れました!」
リポーターが泡を吹く。
「お、大きいぞっ! 報道ヘリの何倍もの大きさのドラゴンです! こここ、これは街を襲う正体不明の怪物たちの仲間なのでしょうか⁉︎」
さすがはプロの報道スタッフというべきか。
リポーターの女性は慌てふためきながらも、必死のリポートを続けている。
「おっと、あれはなんでしょうか? ドラゴンの背中に誰か乗っているぞ! あ、あれは――お、女騎士ぃ⁉︎」
ヴェルレマリーは最近、踊る子兎亭のスタッフルームで飲酒しながら、ぐだぐだとテレビばかり観ていた。
だからすぐヘリコプターがテレビ局のものだと理解できた。
「……ふむ、これは中継というやつだな? さては我が勇姿を、全国のお茶の間にお届けするつもりか? それもよかろう」
ヴェルレマリーはキリッと眉を引き締めて、キメ顔をした。
明らかにカメラを意識している。
普段より五割増しでカッコをつけながら、ゆっくりとした動作で鞘から剣を引き抜く。
キィンと刃が鳴った。
カッコをつけたヴェルレマリーは、厳かな雰囲気を醸すべく、剣身に夕陽をきらりと反射させた。
よしっ、ナイス演出。
内心決まったとガッツポーズだ。
今の私は相当イケている。
続けてふっと不敵な笑み(これもカッコつけの一環である)を浮かべたかと思うと、切先をゾンビの群れへと突き出して、フィンに指示を下す。
「さぁ、やるぞ! まずはあそこの大群からだ! 勇猛なるマルグレット王国が守護神竜の威光を、全国の視聴者さんに知らしめてやれ!
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