第40話 白い竜と報道ヘリコプター

俺はヴェルレマリーやアリスマギア、エルフたちを引き連れて、すぐに街へと飛んだ。

大急ぎだったのでフィンに運んでもらった。


まさか初めてのドラゴン騎乗ライドがこんな形になろうとは……。

ちなみにケモ耳メイド隊や茉莉花ちゃんは、子兎亭で留守番である。

きっと今頃、テレビ報道をハラハラしながら見守っていることだろう。


フィンの背中に乗った俺たちは、上空から街を眺める。

酷い有様だった。

昨日まで整然としていた街並みは、瓦礫の山に変わり果て、あちらこちらにゾンビが徘徊している。


「あー、全滅ですねぇ、これは……」

「な、なんてこった」

「……酷い状況だな。しかし蠢めく屍リビングデッドごときにここまで遅れを取るなど、この街の冒険者ギルドは何をしていたのだ?」


ヴェルレマリーが言うには、なんでもゾンビはファンタジー異世界のモンスターとしてはかなり弱い部類に入るらしい。

物理攻撃には滅多矢鱈に強いが、魔力の籠った攻撃にはめっぽう弱い。

ファイアボール一発で即昇天。

駆け出し冒険者でも、十分対処可能な相手とのことだ。


俺はそれを聞いて思った。

え?

魔力ってなんだ?

そんなもん、こっちの人間は持ってないと思うんだけど……。



空から街を眺めている間にも、被害は拡大していく。

ついには自衛隊が出動して対応に当たったが、事態を鎮静化することは出来なかった。

銃火器が通じなかったからだ。

自衛隊の扱うただの銃弾には、ゾンビを倒すために必要な魔力とやらが込められていない。


マジこれやばいって!

なんとか出来ないか?

みんなお願いだ、この街を救ってくれ!


俺の懇願を聞いたヴェルレマリーが、鎧の上からドンッと胸を叩いた。


「よかろう! その魔物退治、私が請け負ってやる! ……だからフウタロー。お前はもう、そのように泣きそうな顔をするな。後のことはすべて、この私に任せておけ」


なにこの姫騎士、かっこいい。

普段は酒臭いばかりのくせに、いざとなると頼りになる。

フーテンの寅さんみたいなヤツだ。

俺はキュンときた。


ヴェルレマリーは白竜フィンブルリンドをアスファルトの地面に着陸させ、俺たちを背から降ろす。

ひとり残って騎乗したまま言ってくる。


粗方あらかた蠢めく屍リビングデッドは私とフィンで仕留めてみせよう。なぁに、この程度のモンスター、何万体いようと物の数ではない。しかし幾らかの討ち漏らしはあろうから、その掃討はエルフたちに任せたい」


プレナリェルたちが頷く。


「はぁい、了解しました!」

「終わったらお肉ですねっ」

「あ、そうだ。みんなでどれだけ亡者を駆逐できるか競争しましょうよ。優勝者はお肉の取り分多めで」

「ん、負けない」


エルフたちはやる気だ。

こいつらのことだから、お肉が掛かっているとなれば、執拗にゾンビを探し回って一匹残らず駆逐するだろう。


続いて周囲の警戒に当たっていたアリスマギアも、空から降りてきた。

俺の一歩後ろに控える。


「私はここでマスターをお護りいたします。皆様、マスターには傷ひとつ負わせませんので、安心して魔物退治に励んで下さい」

「うむ。よろしく頼む。では征くぞ!」


ヴェルレマリーがフィンを飛び立たせる。

それと同時にエルフたちも散開していった。



テレビ局のヘリコプターが、上空から街の惨状を中継している。

そこにドラゴンが現れた。


「――ちょ⁉︎ まっ! うぇぇ⁉︎ ドッ、ドラゴンです! 白いドラゴンが現れました!」


リポーターが泡を吹く。


「お、大きいぞっ! 報道ヘリの何倍もの大きさのドラゴンです! こここ、これは街を襲う正体不明の怪物たちの仲間なのでしょうか⁉︎」


さすがはプロの報道スタッフというべきか。

リポーターの女性は慌てふためきながらも、必死のリポートを続けている。


「おっと、あれはなんでしょうか? ドラゴンの背中に誰か乗っているぞ! あ、あれは――お、女騎士ぃ⁉︎」


ヴェルレマリーは最近、踊る子兎亭のスタッフルームで飲酒しながら、ぐだぐだとテレビばかり観ていた。

だからすぐヘリコプターがテレビ局のものだと理解できた。


「……ふむ、これは中継というやつだな? さては我が勇姿を、全国のお茶の間にお届けするつもりか? それもよかろう」


ヴェルレマリーはキリッと眉を引き締めて、キメ顔をした。

明らかにカメラを意識している。

普段より五割増しでカッコをつけながら、ゆっくりとした動作で鞘から剣を引き抜く。

キィンと刃が鳴った。


カッコをつけたヴェルレマリーは、厳かな雰囲気を醸すべく、剣身に夕陽をきらりと反射させた。

よしっ、ナイス演出。

内心決まったとガッツポーズだ。

今の私は相当イケている。

続けてふっと不敵な笑み(これもカッコつけの一環である)を浮かべたかと思うと、切先をゾンビの群れへと突き出して、フィンに指示を下す。


「さぁ、やるぞ! まずはあそこの大群からだ! 勇猛なるマルグレット王国が守護神竜の威光を、全国の視聴者さんに知らしめてやれ! 竜の咆哮ドラゴンハウリング!」

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