第35話 熾天使型神造兵器アリスマギア

馬車は完全受注生産になるらしく、届くまでにしばらく時間が掛かるそうだ。


俺は豪奢なシンデレラタイプの馬車を1台と、幌馬車を2台、あと戦車チャリオット型の馬車を2台発注した。

完成が楽しみである。



そうこうしている内に通販していたゲルが届いた。

ケモ耳さんたちと一緒に組み立てる。


これは案外苦労した。

というのもゲルは構造自体はシンプルなのだが、とにかくデカい。


とりわけ今回俺が通販したゲルは、獣人の全員がまとめて一緒に暮らせるほどの特大サイズ。

骨組みなんか、重くて常人には持ち上げられない。


しかしウチには常人ではない居候がいる。

俺はヴェルレマリーに日本酒を差し入れて、ゲルの組み立てを手伝ってもらった。


ヴェルレマリーは重い骨組みも軽々持ち上げる。

改めて凄いと思う。

こうしてゲルは、あっという間に組み上がった。



完成したゲルを前にして、ククリが呟く。


「ふわぁ、立派な住まいです! 私たち本当にここに住んで良いのでしょうか」


もちろんだ。

良いに決まってる。

というかこんなテントで立派な住まいって、ククリたちは今までどんな家に住んでたんだ?


ケモ耳メイドたちが顔を見合わせる。


「えっと、向こうでは馬房の隣に建てた、ほったて小屋に住んでいました」

「壁なんて穴だらけで、隙間風がすごかったです」

「雨漏りもしますし」

「そうそう。あと狭い」

「なんならお馬様の馬房の方が立派だったよね」


なんか不憫だった。

うーん。

これからは健康的で文化的な生活を送ってもらいたい。

健康面はちゃんとした食事と適切な運動と休息なんかで良いとして、文化面はどうしよう。

そうだ、テレビでも設置しようか?


「……テレビ? あ、知ってます。それってヴェルレマリー様が、踊る子兎亭のスタッフルームでよくお酒を飲みながら観ている魔道具ですよね?」


ああ、それのことだ。

ここにも設置しよう。

ケモ耳メイドたちがざわつく。


「そんな⁉︎ 私たちに魔道具なんてもったいないです!」


いや、もったいなくはないぞ。

テレビくらい何処にでもある。


「じゃ、じゃあ、いいのかな?」

「ひぇぇ、魔道具を私たちが使えるなんて……」

「ぜ、贅沢です!」


よし、テレビの設置は決定だ。

電源は……モバイルバッテリーで、多分何とかなるかな。

それよりアンテナはどうしよう。

ちょっと茉莉花ちゃんにでも相談してみるか。


――数日が経過した。


ケモ耳メイドたちはゲルに慣れてきたようで、毎日快適に暮らしている。

テレビがお気に入りだ。

みんなで仲良く色んな番組を楽しんでいるらしい。

よかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


その日、俺は何となく転移陣のある祠にやってきていた。


地面についたお尻がひんやり冷たい。

体育座りで転移陣を眺めた。

淡く光っている。

なんとも不思議だ。

これがファンタジー異世界に繋がってるんだからなぁ。


とか思っていると、転移陣がいきなり輝きを増した。

まばゆい光を放つ。

視界が白一色に染まって、目が見えない。


光が収まった。

そこには見慣れぬ人物がいた。

また何者かが転移してきたのだ!


俺は指で目を擦り、まぶたをしばたたかせて急に出現した誰かを観察する。


人間か?

いや、違う。

全体的には人間の女性みたいなシルエットをしているが、こいつの背中には翼が生えている。


翼は一枚一枚が背丈ほどもあった。

それが合計六つも生えていて――


現れた人物と目が合った。

不思議な瞳をしている。

虹彩に機械的な紋様があり、瞳の内側でカメラレンズのようにメカニカルに駆動しているように思える。


何者かが話しかけてくる。


「問います。貴方が私のマスターですか?」


俺はピコンときた。

この展開は知っている。

セイバーさんだ!

絶対セイバーさんだろ!

俺のテンションは一気にマックスだ。

だって俺は古のオタクだぞ。

FateならPC版ステイナイトから履修済だっての!


「そうだ! 俺がお前のマスターだ!」


俺は考える前に咄嗟に叫んでいた。

脊髄反射だと思う。


六翼の人物が、ゆっくりと頷いた。

というかあれ?

こいつ、よくよく考えればセイバーさんじゃないぞ。

セイバーさんに翼はない。

なんか天使っぽいような――


「マスター登録、完了しました。マスターのお名前をお教え下さい」


えっと、俺か?

俺の名前は風太郎だ。

プー太郎じゃないから間違えないようにな。


「承知いたしました」


天使が無表情で見つめてくる。

かと思うと丁寧な歩調でこちらまで歩いてきた。

静かに口を開く。


「私は熾天使型タイプ・セラフの神造兵器。個体識別コードネーム『アリスマギア』と申します。マスター、以後お見知りおきを」

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