第34話 馬の運動能力チェック

俺は馬たちを連れて、敷地の開けた場所へとやってきた。


連れてきたのはユニコーンとバイコーンとスレイプニルを、それぞれ一頭ずつ。

こいつらの運動能力を測ろうと思う。


今回、ペガサスやケルピーは置いてきた。

だってペガサスはいきなり空を翔びたがるし、ケルピーに至っては後ろ脚がヒレだ。

無理に馬車を牽かせるつもりはない。

こいつらにはいずれ、何か別の形で役に立ってもらおう。


遠くでケモ耳メイドたちが手を振っている。


「フウタローさまー」

「準備できましたぁ!」

「こちらにどうぞー」


彼女たちには馬とリアカーの接続をお願いしておいた。

このリアカーは馬車の代わりだ。

荷台に土嚢を山ほど積んで、重しにしてある。

これを楽に牽引できるようなら実際の馬車も大丈夫という寸法だ。


馬車用ハーネスは急拵えの手作りで耐久性に不安があるが、それはそれ。

テスト中だけ持ってくれればそれで良い。



じゃあ早速、運動能力チェックを始めよう。


まずはユニコーンからな。

俺はククリと一緒にリアカーに乗り込んだ。


さぁ、ククリ。

ユニコーンにお願いしてくれ。

えっと、そうだな。

最初から全力だとどうなるか分からないし、まずは半分くらいの馬力で頼む。


「わかりました。じゃあお馬様。お願いしますー」


ククリがユニコーンを走らせようとする。

しかし反応がない。

何故かユニコーンは、ツンとそっぽを向いたままだ。

どうしたんだ?

ほら、走れ。


「え、えっと、フウタローさま、大変申し上げにくいのですが、そのぉ……このお馬様は『むさ苦しい男の乗った馬車なんか牽けるか』と思っているみたいです。あはは……」


なんだと?

俺が乗ってるから走らないのか?


おのれ、ユニコーンめ。

こいつらが種族的に男嫌いで女たらしなのは知っていたが、まさか馬車に男を乗せることすら嫌がるとは。

徹底してやがる。


だがよかろう。

ちょっとイラッとしたが許す。

本人が嫌がることを強要してはいけないのだ。

労働環境はホワイト一択。

これは譲れない俺のこだわりである。

ククリを残してリアカーから降りる。


「――ヒヒィン!」


ユニコーンは途端に元気になった。

軽い足取りでリアカーを牽き始める。

俺は釈然としないまま、その様子を見守る。


サラブレッドみたいなスマートな体躯のどこにこれほどのパワーを隠していたのか、ユニコーンは土嚢てんこ盛りの激重リアカーを軽々牽いて駆けだした。

その速度は大したもので、時速60キロを超えているだろう。

これなら速度は十分だ。


「――わっ、あわわわわ! 速いですっ、速すぎですよー! それにガタゴト揺れて……うっぷ……」


ククリは荷台で土嚢にまみれて大変な状態になっていた。

がんばってくれ。

それはそうと、持久力はどうだ?

ちょっと聞いてもらおう。


「じ、持久力ですかぁ? こちらのお馬様は『レディを乗せて走るくらい、何時間でもへっちゃらだ』って言っていますー! あわわわっ」


んむ。

なら合格だ。



続いてバイコーンとスレイプニルの運動能力チェックに移る。

というかユニコーンがあれだけパワフルだった時点でもう分かりきっていたことだが、この2頭の走りは凄かった。


バイコーンはパワーが群を抜いていた。

重たいリアカーを牽きながら時速200キロオーバーで走る。

疲れなど微塵も感じさせない。

試しにリアカーを3台連結して更に土嚢を積みまくってみたが、楽々だった。

バイコーンが参るより先に、馬車用ハーネスの方が千切れるかと思ったくらいだ。


だがこいつの牽くリアカーは揺れも相応に大きくて、ガタゴトガタゴト荷台が跳ね回る。

乗り心地は最悪だ。


揺られまくった俺とククリは何度もゲロった。

疑問に思う。

ククリには御者をしてもらう都合上、荷台に乗り込んでもらう必要があったが、俺まで一緒に乗らなくても良かったのでは?


それはともかく、お次はスレイプニルだ。

これは当たりだった。

スレイプニルはさすが神の軍馬と言われるだけあって、走行性能が抜群に高かった。


いくら速度を出してもリアカーの揺れが少ないのだ。

脚が八本あるおかげだろうか。

持久力もばっちりだし、まさにスレイプニルは馬車馬に打ってつけだな。



運動能力チェックの結果、どの馬も馬車を牽いて自動車並の速度で走れることが確認できた。

これは僥倖である。

送迎馬車の問題は難なくクリアだ。


となれば次は馬車本体だ。

俺はスマホをタップして、馬車の販売サイトを調べながら考える。

どんな馬車を購入しようか?


ユニコーンは断固として男は乗せないから、必然的に女性専用馬車になるな。

となれば煌びやかで女受けしそうな馬車が良いだろう。

そうそう。

そういえば英国の戴冠式でチャールズ国王が、華やかな馬車に乗ってパレードをしていた。

あんな風な馬車を用意すれば良いだろうか。

ちょっと検討してみよう。


バイコーンには幌馬車ほろばしゃで決まりだ。

大量の人員をまとめて運べるし、ファンタジー世界の馬車と言えば幌馬車。

雰囲気もバッチリだ。

ただかなり揺れるから、対策は考えないとなぁ。

一度、知り合いの自動車整備工さんにでも相談してみようか。


スレイプニルには戦車チャリオットなんかどうだろう?

中世風の箱型のやつじゃなくて、古代ローマとかの戦車風のやつ。

屋根も壁も取っ払った、見た目はリアカーの豪華版みたいなアレな。

オープンカーっぽいし、春夏なんかは良さそうだと思うんだ。





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