第33話 通販でテントをポチる。
ふむ。
ナナホシ建築設計事務所、聖シャリエッタ教国出張所か……。
ちょっと待ってくれ。
いま検討してみる。
今回茉莉花ちゃんを呼んだのは『冒険者の宿』の建築を依頼するためだ。
けれども俺はこの地に、冒険者酒場や冒険者の宿だけでなく、もっとたくさんのファンタジー施設を建てていきたいと思っている。
例えば、武器屋とか防具屋とか魔法道具屋とか――
そうだなぁ。
イメージ的にはハリーポッターの『ダイアゴン横丁』みたいな感じか。
ゆくゆくはこの地に、あんなファンタジーストリートを作り出すのだ。
だってダイアゴン横丁とか、みんな大好きだろ?
俺は好きだ。
狭い通りが魔法使いでごった返しててさ。
不思議なお店がいくつもあって、喧騒が楽しくて活気があって――
ああいう雰囲気、ワクワクするよな!
けど俺はダイアゴン横丁をまんま再現する訳じゃないぞ?
俺が作るファンタジーストリートはもっと凄い。
だって魔法使いだけじゃなく冒険者もエルフも獣人もいるんだ。
俺はそんなファンタジー横丁を誕生させる。
となれば今後も茉莉花ちゃんには、色々お願いすることになるだろう。
それ以前に彼女もここに住んでくれるなら、単純に嬉しい。
なにせ茉莉花ちゃんは、大事な俺のファンタジー仲間だからな!
だからいいぜ。
遠慮なく引っ越してきてくれ。
むしろこちらからお願いしたいくらいだ!
俺は茉莉花ちゃんに出張所の許可をだした。
「わぁ、ありがとうございます! では風太郎さん、改めまして今後ともよろしくお願いします!」
うん、こちらこそよろしくな。
◆
さっそく茉莉花ちゃんは、宿や馬房や出張所の建築設計に取り掛かった。
出来上がりはしばらく先だ。
秋頃になるらしい。
楽しみに待つとしよう。
となると問題は当面の仮住居だ。
現状、ケモ耳メイドたちには、踊る子兎亭で生活をしてもらっている。
とはいえ人数も多いし、いつまでもこのままでは不味かろう。
俺はこの問題を解決すべく、エルフたちにお願いをした。
なぁ、エルフの森に獣人用のツリーハウスを建ててくれ。
仮住まい用だから、簡単でいい。
お前らなら一週間くらいで建てられるだろ?
「いいですよー」
「対価はお肉1ヶ月分です」
エルフたちは快く請け負ってくれた。
しかしこの案は、当のケモ耳メイドたちに必死で却下された。
泣きながら縋ってくる。
「えっと、仮設ツリーハウスですか……?」
「エルフの方々と一緒に、森で暮らす⁉︎」
「ダダダ、ダメです! 怖いです!」
「うわぁぁん! ごめんなさい! 私をお肉にしないでぇ! 許してくださいー!」
とまぁ、こんな具合だ。
さすがに食いしん坊エルフたちとて、獣人たちをお肉にしたりはしないとは思うが……。
獣人たちが心に負ったトラウマは大きい。
いずれこの問題も何とかせねばなるまい。
ともかく仮設ツリーハウスがNGとなると、さてどうしよう。
あ、そうだ。
テントとかどうかな?
俺はスマホをぽちぽちとタップして、ショッピングサイトを検索をする。
ドームテントに、シェルターテントに、ロッジ型テント。
ふぅん。
色んなテントがあるものだ。
ほぅ、サウナテントなんてものまであるのか。
これはちょっと欲しいかもしれん。
っと、それより先に獣人たちの為の仮設テントを探さねば。
とある通販サイトに辿り着く。
これなんか良いんじゃないか?
俺が目に止めた商品は『ゲル』という大型のテントだった。
商品説明によると、ゲルとはモンゴルで遊牧民族が使っていた移動式住居のことらしい。
決して石破茂のことではない。
ゲルは通常のテントに比べてがっしりした番傘状の骨組みをしていて、頑丈。
風雨にも強くて、なかなか居住性が高いようだ。
仮住居ならこれで十分だろう。
運良くその通販サイトには、ケモ耳メイドさんたち20人がまとめて住めるような大型ゲルの取り扱いがあった。
俺は速攻でポチッた。
◆
ゲルは数日で届くだろう。
待っている間に、俺は俺でやることがある。
それは送迎馬車についてだ。
送迎馬車は、やっぱり先日転移してきたファンタジーなお馬さんたちに
いや、馬たちの所有者は俺ではなくファンタジー異世界にいる
ここにいる間は馬車馬をやってもらう。
働かざるもの食うべからずなのである。
なぁ、ちょっといいか。
俺はそばにいたケモ耳メイドさんを呼んだ。
何人かが小走りで寄ってきた。
代表してククリが聞いてくる。
「はい、フウタローさま! 何の御用でしょうか?」
えっとな。
実はククリたちと一緒にやってきた馬たちに、馬車を牽いてもらおうと思ってさ。
「馬車、ですか?」
うん、馬車。
普通よりだいぶ速く走れる馬車が必要でさ。
だから馬たちの運動性能を確認したいんだ。
たしかククリたち獣人って、動物との意思疎通が得意なんだよな?
悪いけどちょっと手伝って欲しい。
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