第26話 エルフの絨毯爆撃と獣人族

俺は、身を寄せ合って怯えている獣人たちをガン見した。


犬っぽいのから、猫っぽいの、果てはうさぎっぽいのまで。

獣人たちの容姿は様々だ。

けれども何故か、全員が年若い女性である。

人数は20人くらいと、かなり大勢。


「何者かと聞いているのです! はやく質問に答えてください! さもないと――」


エルフたちは痺れを切らした。

誰かが一射したのを皮切りに、次々に弓を射掛ける。

だがこれは威嚇のつもりだ。

その証拠にエルフたちの狙いは、獣人たちから少し離れた場所である。


放たれた矢は、風を切り弧を描いて飛んでいく。

やじりが地面に突き刺さった。

と、同時に大爆発する。


――ふぁ⁉︎

ば、爆発⁉︎


俺が目を丸くしたのと同じタイミングで、獣人たちが悲鳴をあげる。


「ひ、ひいいいいい!」

「やだぁ! もうやだぁ!」

「帰りたいよぉ」


すくみ上がる獣人たちには構わず、エルフの弓は続々と降り注ぐ。

その度に着地点がちゅどんちゅどんと爆発しまくって、土煙が舞い上がる。

まるで戦闘機の絨毯爆撃だ。


え、なに?

エルフの弓ってこんな馬鹿げた破壊力なの⁉︎


「ひぃぃん!」

「お助け! お助けを!」

「命ばかりは! どうか命ばかりわぁ!」


獣人たちはもう完全に涙目だ。

馬たちも驚いて後ろ脚で立ち上がり、パニックになっている。

逆にエルフたちは不気味だ。

威嚇しているうちに変にテンションが上がってしまったのか「くくく」と薄笑いを浮かべている。

トリップしているのだ。


ダ、ダメだ、こいつら……。

なんて物騒なやつらだ。

って、さすがにポカンと呆れている場合じゃない。

はやく何とかしないと!


俺は両手で耳を塞いで、轟く爆音から鼓膜を守りながら、声の限りに叫んだ。


やめろ、やめろって!

乱暴はするな!

今すぐにやめないと、今日の晩飯『肉抜き』にするぞ!


エルフたちはぴたりと爆撃を中止した。



もうもうと立ち込めていた土煙が止んだ。


獣人たちの周囲はクレーターみたいな爆撃跡だらけだ。

地面がでこぼこになっている。

絶対に後でエルフたちに整地させよう。


すっかり正気に戻ったエルフたちは、気まずい顔をしている。

俺が睨みつけると視線を逸らしやがる。

明後日の方向に向けて口笛なんか吹いて、白々しいったらありゃしない。


ちっ……。

こいつらには言いたいことが山ほどあるが、説教は後回しだ。

いまはともかく、獣人である。

事情を聞かないと。


俺は獣人の女の子たちを驚かさないよう、ゆっくりと歩み寄った。

抱き合って涙目になっている。

なぁ、キミらは――


「ひぃぃん! 助けてください!」

「どうかご勘弁をー!」


ぐ……。

めっちゃ怯えられた。

優しく声を掛けただけなのに……。


これ第一印象最悪ってことか。

くそっ、全部エルフのせいだ。

けれども俺はエルフたちへの不満などおくびにも出さない。

笑顔を堅持しながら話しかける。


心配すんな、大丈夫だって。

俺は何もしない。

あそこで知らんぷりしてる物騒なエルフたちだって、後できっちりと叱っておくから。


「……ら、乱暴、しないんですか?」


ああ、しない。


獣人たちが顔を見合わせた。

おどおどしている。

だがちょっと緊張が解けたのか、一番近くいた女の子が涙を拭ってから答えてくれる。


「わ、私たちはフェーリラ公爵家の下働きの獣人族です。えっと、それでいつも通りお馬様の世話をしていたら、不思議な魔法陣が足もとに現れて、気が付くとここに――」


ああ、なるほど。

事故で転移してきちゃったのか。

そりゃあ災難だったなぁ。



もう少し詳しく話をしてみる。

聞けば彼女たちは異世界ファンタジーでよく出てくる『奴隷』だった。


しかし奴隷か……。

俺は獣人たちを見回した。

みんな可愛かったり綺麗だったりと、容姿は整っている。

だが身なりは貧しい。

きっと大変な目に遭ってきたんだろうな……。


「そんなことないです。待遇は普通でした」

「うん、うん。むしろ普通よりちょっと良かったかも?」

「公爵様も『お前たちは希少な獣人の厩務員だ。身体には気を付けなさい』って、いつも言ってたもんね」


へ?

そうなの?

獣人たちはこくこく頷いている。


でもでも、奴隷だろ?

俺がよく読んでたファンタジーラノベだとさ。

奴隷とかもう、そりゃあ可哀想な目にあってることが多くてさぁ。

たとえば食事なんか満足に食べられなくて――


「食べていましたよ。毎日欠かさず黒パンと野菜スープを配給してもらえましたので。量は少なかったですけど不満というほどでは」


ほえー。

あ、そう。

だったら良かった。


俺はてっきり、なんだ。

そのフェラーリだか何だかいう貴族が変態フェチ獣人マニア野郎で、可愛い獣人の女の子ばかりを買い集めては手籠にしていたのかと思ったよ。


「あはは、そんなことありません。だってフェーリラ公爵様は色んなお馬様をコレクションすることにしか、興味がないんですから」


ああ、なるほど。

いるよね、そういう人。

俺がブラック企業で働いてた頃もさ、取引先の専務がすっげえカーマニアでさ。

色んな高級車をたくさん集めては、悦にいるのよ。

そんな感じな。

わかる、わかる。


「それに、獣人族ばかりを集めたのだって厩務員にするためで――」


ふむふむ。

なんでも獣人族は人間族ヒューマンなどの種族に比べて、動物との意思疎通が得意らしい。

相手の動物が考えていることが、ふわっと理解できるのだそうだ。

だから獣人族は動物の世話が得意。

もちろん厩務員にも向いている。


「それに女の子ばかりなのも、理由があるんですよ。それはユニコーンのお世話をするからで――」


ユニコーンは清らかで純潔な乙女にしか心を開かない。

その世話とか男性には無理だ。


なるほどなぁ。

色々と腑に落ちた。


っと、そうだ。

馬だ、馬。


俺は獣人たちと一緒にファンタジー幻想生物たる馬たちが転移してきているのを思い出した。

ちょっと見せてもらおう。



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