第25話 新たな来訪者

調べた結果、公道で馬車を走らせることについては問題なかった。


というか日本の法律では、牛や馬なんかは『軽車両』扱いになるらしい。

ちょっとびっくり。


軽車両なら公道も走れる。

とはいえ実際に道路で馬車を走らせるとなると煩雑な手続きが必要になるのだろう。

だが、そういう諸々は専門家にぶん投げるに限る。

餅は餅屋なのである。



俺はまた頭を悩ませていた。

というのも、馬車送迎の問題点に気づいてしまったのだ。

それは速度である。


馬車はバスより遅い。

なんか調べたら時速10キロとか15キロしか出せないらしい。

まぁ馬だって重い馬車を牽きながら全力で走れる訳ないもんな。

でもそれだと多分、街からここまで片道1時間半以上も掛かる。

さすがに長すぎだ。


これは由々しき問題だぞ。

だって考えてもみろ。

俺なら片道1時間半も掛けて、わざわざ郊外まで飲みに行ったりはしない。

街には色んな居酒屋があるのだ。

そっちで手早く手軽に済ませちゃうだろう。


はてさて、どうしたものか。

なんとか馬車でも片道30分くらいにならないものか。


例えば馬車を改造して、車輪を電気アシストしたりしてさ。

あと馬をドーピングしたり。

いやこれは却下だな。

馬が可哀想だ。

俺はホワイトな経営者だから、たとえ軽車両扱いの馬が相手でも益体のない重労働は課さないのである。


そんなことを考えていると――



ドアベルが激しく鳴る。


踊る子兎亭のドアがバタンと勢いよく開けられた。

かと思うと、プレナリェルが慌てて飛び込んでくる。


「フウタローさん! 大変ですっ」


全力疾走してきたのだろうか。

プレナリェルは大きく肩を揺らし、息を弾ませている。


どうした?

そんなに大慌てで。


「敵襲! 敵襲ですー!」


は?

何をいってるんだ、こいつは。

俺はポカンした。


「とにかく早く来てください! 場所は転移陣のある祠です! いま、他のエルフたちが敵の侵攻を足止めしています。私は先に戻って、みんなと合流しますから!」


嵐のようにやって来たプレナリェルは、また嵐のように去っていった。


……えっと。

うん。

なんか緊急事態みたいだ。


俺は頭を掻きながら、プレナリェルの言葉を反芻する。

敵襲?

なにそれ?

美味いの?


いや状況がよく分からんが、本当に誰か攻めてきたのか?

ちょっと焦ってきた。

と、とにかく祠にいってみよう。


あ、でもちょっと待て。

俺がひとりで出向いても戦力にはならんぞ。

下手したら足手まといだ。

自慢じゃないが、俺は大人になってから殴り合いの喧嘩とか一度もしたことないからな!


……よし。

ここはヴェルレマリーを連れて行こう。


早足でスタッフルームに向かう。

案の定、ヴェルレマリーはそこで飲んだくれていた。


おい、ちょっといいか。


「なんらフウラロー。わたしはいま、ちょうどいい具合にほろ酔いになってきた所なんら。邪魔をするな。ひっく」


うわっ、酒臭っ!

いいから来い。

俺は渋る酔っ払いを引っ張りだし、ふたりしてプレナリェルの後を追いかけた。



祠に着いた俺は、目を見張った。


転移陣のすぐそばに、何人もの見慣れぬ人間と、何頭もの馬がいる。

それをエルフたちが遠くから取り囲み、弓に矢を番えて威嚇しているのだ。


「貴方たち、何者ですか!」

「そんなゾロゾロと魔物をひきつれて、なにしにきたの?」

「正直に言わないと痛い目をみますよ!」

「当方に迎撃の用意あり」

「馬肉にしてやる」


剣呑な雰囲気だ。

エルフたちはピリピリしている。

臨戦体制である。

一方の見知らぬ集団は、身を寄せ合い震えている。

あれはどうみても怯えてるんじゃ――


……って、待て待て待て!


「な、なんじゃこりゃあ⁉︎」


俺はたまらず叫んだ。

よく見れば見知らぬ人間たちの頭には動物のような耳があった。

お尻には尻尾が生えている。

エルフたちに恫喝されて、その耳や尻尾がピクピクと頼りなさげに揺れるのだ。


俺のテンションは一瞬で爆上がりした。

すわ、間違いない。

こいつら獣人じゃねーか!


いや、それだけじゃないぞ。

よく見れば馬も変だ!

普通の馬はただの一頭もいない。


額に鋭い一本角が生えていたり、背に羽根を生やした美しい白馬。

ぶっとい二本の巻き角を生やした筋骨隆々な黒い巨馬。

それに脚が8本もある威風堂々とした佇まいの馬までいる。


これってアレか?

いや絶対アレだろ!

ユニコーンとか、ペガサスとか、バイコーンとか、スレイプニルってやつだ!


夢にまで見た幻想生物が、いま俺の目の前にいた。



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