第23話 ゲームセンターエルフ

2階へと移動した。

この階はビデオゲームのフロアだ。


照明が少ない暗めのフロアに、ゲーム筐体きょうたいがずらりと並んでいる。

その種類は落ちものパズル系からシューティング、横スクロールアクションと様々。

そこかしこで電子音がピコピコと鳴って、賑わっている。


プレナリェルが感嘆して声を上げる。


「うわぁ、凄いですねぇ!」


彼女は煌びやかに光るゲーム画面を見回し、手近にあった一台を指差した。

訊ねてくる。


「これはなんですか?」


ああ、それは対戦格闘ゲームだな。

こう筐体を挟んで、対戦相手と向かい合って座ってだな。

ここのレバーとボタンでキャラを操作して勝負するんだ。


プレナリェルの顔にはクエスチョンマークが浮かんでいる。

こういうのはともかくやってみることだ。


俺はプレナリェルとヴェルレマリーを向かい合わせに座らせて、硬貨を投入。

実際のプレイを通じて説明していく。


わかるか?

このレバーを横に倒すと――


「わっ、わっ、動きましたよ⁉︎」

「なんだ⁉︎ 箱の中の小人の動作が、レバーやボタンに連動しているのか⁉︎」


ふたりは逐一驚きながらも、すんなり操作になれていく。

多分学習能力が高いのだろう。


女騎士とエルフが向き合って対戦している。

その姿は傍目はためになかなかシュールだが、ふたりは熱中し始めている。

これなら放っておいても勝手に楽しんでくれそうだ。


大量に両替した百円硬貨を残して、俺はその場から移動することにした。



ビデオゲームにあまり興味を示さなかったカナリタを誘って、1階フロアへと戻る。


このフロアにはクレーンゲームがいくつも設置されていて、景品を見て回るだけでも楽しい。


てくてくと、ふたりしてフロアを眺めて歩く。

そうしていると、とあるクレーンゲームの前でカナリタが足を止めた。


「フウタロー。これ」


カナリタが指差しているものは、チョコレート菓子やクッキーなんかを景品にしたUFOキャッチャーだった。

高く積み上げられた菓子のタワーを、アームで崩すタイプだ。


カナリタが無表情な上目遣いで聞いてくる。


「……チョコレート。食べ物? 美味しい?」


ああ、美味いぞ。

なんなら取ってやろうか?


カナリタはこくこくと頷いてみせた。

よし、任せろ。

俺のクレーンゲームの腕前は人並みだが、なぁに心配は無用だ。

なにせ俺は宝くじ成金。

ここは物量作戦で攻略しよう。


俺は百円硬貨の大量連続投入で、見事いくつかのチョコレート菓子をゲットしてやった。

みたか、金の力!

取ったばかりの菓子を手渡す。


ほら、これがチョコレートだ。

でも食べ過ぎには注意するんだぞ。

虫歯になっちゃうからな。


カナリタは菓子の中からアポロチョコを選んだ。

目の付け所が良いじゃないか。

アポロチョコは美味い。


カナリタは包装を解くとチョコを鼻先まで持っていき、くんくんと匂いを嗅ぎだした。

その様子が、なんだか子犬のようで愛らしい。

安全と判断したようだ。

ひょいと口に放り込む。

そして小さなほっぺを動かして、もぐもぐ――


「……お、おおお、おいしい……」


無表情なカナリタが、パァッと笑顔になった。

気に入ったらしい。

初めて食ったチョコレートの衝撃は相当だったようだ。

俺の服の袖をちょいちょいと引いてねだる。


「もっと。もっと、取って」


はい、はい、仰せのままに。

たくさん取ってやろう。

でも一人で食べるんじゃないぞ。

持ち帰って他のエルフたちにも分けてあげるように。


再びクレーンゲームに立ち向かうべく、俺は大量の百円硬貨を両替した。



2階のビデオゲームフロアに戻ると、プレナリェルの姿が見当たらなかった。

ヴェルレマリーだけが、先と変わらず対戦格闘ゲームで遊んでいる。


――って、ちょっと待て!


なんだこの行列は⁉︎


ヴェルレマリーの座った反対側の筐体前に、ずらりと長く人の列が出来ている。

ギャラリーもたくさん。

どうやらこの行列は、対戦待ちの行列らしい。


え?

これ、どうなってんの?


いつの間にやらヴェルレマリーの格闘ゲームの腕は飛躍的に向上していた。

こともなげに言う。


「要は判断力と操作の正確性だ。どのようなシチュエーションでも逐次、瞬時に先の展開へと繋がる最適解を予測して導き出し、その通りに実行すれば負けはない」


いやいや、格ゲーってそんな簡単じゃないだろ。

でも実際にヴェルレマリーは連戦連勝だ。

あ、また勝った。

勝者たるヴェルレマリーは、筐体の向こうの敗者へと声を掛ける。


「ふふふ。今のはなかなか白熱した戦いだった。お前は筋が良いな。いつでも相手をしてやるから、腕を磨いてまた挑戦してこい。再戦を楽しみにしているぞ」


対戦していた相手は、ちょっと照れた風だ。

敗れたことに対して表面上は悔しがりつつも、内心では喜んでいる。

バレバレである。

チラッ、チラッとヴェルレマリーを見てから、名残惜しそうに次の対戦者へと席を譲った。


こいつら、なんか楽しそうだな。

ヴェルレマリーのことは放っておこう。

それよりプレナリェルはどこ行った?


探して回る。

すると3階フロアに彼女の後ろ姿を見つけた。

ガンアクションの大型筐体で遊んでいる。

襲いくるゾンビの群れをガンシューティングで撃退する有名なやつだ。

ハウス・オブ・ザ・デッドだっけ。

こちらにもギャラリーが出来上がっている。


プレナリェルは油断なく銃を構えながら、こちらを振り返りもせずに声を掛けてくる。


「フウタローさんにカナリタですね」


よく分かったな。

背中に目でもあるみたいだ。


「それくらい気配で分かりますよー。ちょっと今取り込んでいるので、お待ち下さいね。私は腐った怪物の群れに滅ぼされたこの都市を、救わなければならないのです!」


話しながらもプレナリェルは、目にも止まらぬ早撃ちを披露している。

正確無比な連射。

ギャラリーが「おおお!」とどよめいた。

ゾンビの群れを掃討したプレナリェルは、えっへんと胸を張る。

満面のドヤ顔だ。


うん。

こいつも楽しそうだな。

なんだかんだ、みんなでゲームセンターを満喫した。


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