第23話 ゲームセンターエルフ
2階へと移動した。
この階はビデオゲームのフロアだ。
照明が少ない暗めのフロアに、ゲーム
その種類は落ちものパズル系からシューティング、横スクロールアクションと様々。
そこかしこで電子音がピコピコと鳴って、賑わっている。
プレナリェルが感嘆して声を上げる。
「うわぁ、凄いですねぇ!」
彼女は煌びやかに光るゲーム画面を見回し、手近にあった一台を指差した。
訊ねてくる。
「これはなんですか?」
ああ、それは対戦格闘ゲームだな。
こう筐体を挟んで、対戦相手と向かい合って座ってだな。
ここのレバーとボタンでキャラを操作して勝負するんだ。
プレナリェルの顔には
こういうのはともかくやってみることだ。
俺はプレナリェルとヴェルレマリーを向かい合わせに座らせて、硬貨を投入。
実際のプレイを通じて説明していく。
わかるか?
このレバーを横に倒すと――
「わっ、わっ、動きましたよ⁉︎」
「なんだ⁉︎ 箱の中の小人の動作が、レバーやボタンに連動しているのか⁉︎」
ふたりは逐一驚きながらも、すんなり操作になれていく。
多分学習能力が高いのだろう。
女騎士とエルフが向き合って対戦している。
その姿は
これなら放っておいても勝手に楽しんでくれそうだ。
大量に両替した百円硬貨を残して、俺はその場から移動することにした。
◆
ビデオゲームにあまり興味を示さなかったカナリタを誘って、1階フロアへと戻る。
このフロアにはクレーンゲームがいくつも設置されていて、景品を見て回るだけでも楽しい。
てくてくと、ふたりしてフロアを眺めて歩く。
そうしていると、とあるクレーンゲームの前でカナリタが足を止めた。
「フウタロー。これ」
カナリタが指差しているものは、チョコレート菓子やクッキーなんかを景品にしたUFOキャッチャーだった。
高く積み上げられた菓子のタワーを、アームで崩すタイプだ。
カナリタが無表情な上目遣いで聞いてくる。
「……チョコレート。食べ物? 美味しい?」
ああ、美味いぞ。
なんなら取ってやろうか?
カナリタはこくこくと頷いてみせた。
よし、任せろ。
俺のクレーンゲームの腕前は人並みだが、なぁに心配は無用だ。
なにせ俺は宝くじ成金。
ここは物量作戦で攻略しよう。
俺は百円硬貨の大量連続投入で、見事いくつかのチョコレート菓子をゲットしてやった。
みたか、金の力!
取ったばかりの菓子を手渡す。
ほら、これがチョコレートだ。
でも食べ過ぎには注意するんだぞ。
虫歯になっちゃうからな。
カナリタは菓子の中からアポロチョコを選んだ。
目の付け所が良いじゃないか。
アポロチョコは美味い。
カナリタは包装を解くとチョコを鼻先まで持っていき、くんくんと匂いを嗅ぎだした。
その様子が、なんだか子犬のようで愛らしい。
安全と判断したようだ。
ひょいと口に放り込む。
そして小さなほっぺを動かして、もぐもぐ――
「……お、おおお、おいしい……」
無表情なカナリタが、パァッと笑顔になった。
気に入ったらしい。
初めて食ったチョコレートの衝撃は相当だったようだ。
俺の服の袖をちょいちょいと引いてねだる。
「もっと。もっと、取って」
はい、はい、仰せのままに。
たくさん取ってやろう。
でも一人で食べるんじゃないぞ。
持ち帰って他のエルフたちにも分けてあげるように。
再びクレーンゲームに立ち向かうべく、俺は大量の百円硬貨を両替した。
◆
2階のビデオゲームフロアに戻ると、プレナリェルの姿が見当たらなかった。
ヴェルレマリーだけが、先と変わらず対戦格闘ゲームで遊んでいる。
――って、ちょっと待て!
なんだこの行列は⁉︎
ヴェルレマリーの座った反対側の筐体前に、ずらりと長く人の列が出来ている。
ギャラリーもたくさん。
どうやらこの行列は、対戦待ちの行列らしい。
え?
これ、どうなってんの?
いつの間にやらヴェルレマリーの格闘ゲームの腕は飛躍的に向上していた。
こともなげに言う。
「要は判断力と操作の正確性だ。どのようなシチュエーションでも逐次、瞬時に先の展開へと繋がる最適解を予測して導き出し、その通りに実行すれば負けはない」
いやいや、格ゲーってそんな簡単じゃないだろ。
でも実際にヴェルレマリーは連戦連勝だ。
あ、また勝った。
勝者たるヴェルレマリーは、筐体の向こうの敗者へと声を掛ける。
「ふふふ。今のはなかなか白熱した戦いだった。お前は筋が良いな。いつでも相手をしてやるから、腕を磨いてまた挑戦してこい。再戦を楽しみにしているぞ」
対戦していた相手は、ちょっと照れた風だ。
敗れたことに対して表面上は悔しがりつつも、内心では喜んでいる。
バレバレである。
チラッ、チラッとヴェルレマリーを見てから、名残惜しそうに次の対戦者へと席を譲った。
こいつら、なんか楽しそうだな。
ヴェルレマリーのことは放っておこう。
それよりプレナリェルはどこ行った?
探して回る。
すると3階フロアに彼女の後ろ姿を見つけた。
ガンアクションの大型筐体で遊んでいる。
襲いくるゾンビの群れをガンシューティングで撃退する有名なやつだ。
ハウス・オブ・ザ・デッドだっけ。
こちらにもギャラリーが出来上がっている。
プレナリェルは油断なく銃を構えながら、こちらを振り返りもせずに声を掛けてくる。
「フウタローさんにカナリタですね」
よく分かったな。
背中に目でもあるみたいだ。
「それくらい気配で分かりますよー。ちょっと今取り込んでいるので、お待ち下さいね。私は腐った怪物の群れに滅ぼされたこの都市を、救わなければならないのです!」
話しながらもプレナリェルは、目にも止まらぬ早撃ちを披露している。
正確無比な連射。
ギャラリーが「おおお!」とどよめいた。
ゾンビの群れを掃討したプレナリェルは、えっへんと胸を張る。
満面のドヤ顔だ。
うん。
こいつも楽しそうだな。
なんだかんだ、みんなでゲームセンターを満喫した。
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