第19話 街まで出掛けよう。
街まで買い物に出掛けようと思う。
目的は家具全般の購入だ。
俺の隠れ家となるツリーハウスは完成したものの、中に置く家具がない。
なのでベッドやタンスや、後はちょっとした家電なんかを揃えたい。
ああ、そうそう。
せっかくなので、一緒にエルフたちにも家具を見繕ってやろうと思う。
特にベッド。
だってエルフたちは葉っぱにシーツを被せたものを「立派なベッドですー」とか言って嬉しげに使っているのだ。
アルプスの少女でもあるまいに、令和の時代にこれでは余りに不憫である。
「フウタロー、どこへ行く?」
車庫に向かっていると、ヴェルレマリーに呼び止められた。
街に買い物へ行くと伝える。
「……ふむ、街か。ならば道中の護衛が必要だろう。私が一緒に行ってやる」
暇なんだろうか。
まぁ暇なんだろうな。
この姫騎士ときたら毎日なにをするでもなく、日本酒を飲んではそこらで寝ているだけだしな。
でも護衛とか別に要らんのだが。
「慢心するな! お前、先日
いや慢心とか言われても。
だってここは日本だし。
残念ながらファンタジーな魔物や傭兵崩れの野盗集団に遭遇するなんてイベントは発生しない。
でもヴェルレマリーは、きっと親切で言ってくれているのだ。
心配してくれている。
なら別に一緒にくる分には構わない。
それにヴェルレマリーにも、そろそろ日本の都市を見せてやりたいしな。
ただ、なんだ。
ついてくるなら、その鎧や剣は置いていってもらうぞ?
「断る。装備がなくては、いざという時にどうやって戦うのだ」
いやだから、その『いざと言う時』自体がないんだって。
日本、安全。
説明するもヴェルレマリーは納得しない。
俺は折れた。
ま、いいか。
ただし、お巡りさんに職質とかされそうになったらダッシュで逃げるんだぞ。
◆
ヴェルレマリーと連れ立って、車庫の前までやって来た。
今度はエルフの一団に遭遇する。
「あ、フウタローさん。おはようございます」
「おう、おはよう」
朝の挨拶をかわす。
あ、そうだ。
今回、エルフ用の家具も買うわけだし、エルフも連れて行こうかな。
なぁ、誰かついてくる?
「街にですか? ちょっと待ってください!」
エルフたちはいつものように輪になった。
相談を始める。
「誰か行きたいひといますか?」
「
「危なくないかしら?」
「未知ですね」
「未知……未知は、危険」
ついて来ない方向で意見がまとまり掛けているようだ。
そこで俺は提案してみる。
「ところで、街にでれば美味いもん食わせてやれるぞ。肉料理が良いか? ただし四人乗りの軽でいくから、連れてくのは二人までな」
争いが勃発した。
肉料理の誘惑に負けたエルフたちは「私がついていく」「いや私が」と醜く争い合う。
勝敗はじゃんけんに委ねられた。
最終的に勝ったのはプレナリェルともうひとり。
素直クール系エルフの『カナリタ』だった。
「ぶいっ。勝った」
カナリタは無表情なまま指をV字に立てている。
あんまり嬉しそうには見えないが、これでも全力で喜んでいるらしい。
外見年齢10代前半から20代半ばまでと幅があるエルフたち。
カナリタはその中で一番見た目が若いエルフだ。
12歳くらいに見える。
けれども肉への執念は彼女たちの中にあっても随一。
お肉大好きエルフ筆頭なのである。
◆
居残りとなったエルフたちは、地団駄を踏んで悔しがっている。
割とみっともない。
まぁまぁ、土産を買ってきてやるから。
俺は彼女らを
ヴェルレマリーがほうと息を吐く。
「それがお前の騎獣か。ふむ、珍しい体躯だが外皮の頑丈そうな良い騎獣ではないか! 唸り声もブロロロロと低く、迫力がある」
プレナリェルとカナリタが続く。
「この獣、生きている気配がしませんよ⁉︎ あ、わかった。フウタローさんが死霊魔術で操っているんですね! ――邪悪、邪悪です!」
「……肉が、硬そう」
いや、俺は
あとこれは、騎獣とかじゃなくて自動車って言うんだ。
便利な乗り物なんだぜ?
……ん。
わからん?
まぁそりゃそうか、道すがら説明するよ。
取り敢えず乗ってくれ。
俺はヴェルレマリーを助手席に、エルフたちは後部座席に案内する。
あ、シートベルトはちゃんとしろよ。
使い方は今説明するから。
俺は頭の上にはてなマークを浮かべる彼女たちを車に押し込めて、街へと出発した。
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