第18話 ツリーハウスが完成しました。

隠れ家ツリーハウスが完成したらしい。

呼びに来たエルフたちに連れられて、足を運ぶ。


御神木を見上げる。

そこに、こぢんまりした小屋が出来上がっていた。


おおー!

あれが俺の……。


地上から15メートルくらいだろうか。

御神木の枝葉に隠れるようにして小さな家が建っている。

質素で風景に溶け込んだ見事な佇まい。

完璧にオーダー通りだ。


さっそくだが、中に入ってみたい。

俺はキョロキョロと辺りを見回して、入り口を探した。

けれども見当たらない。


なぁ、プレナリェル。

これ、どうやってあそこまで登るんだ?

階段も梯子はしごもないんだけど……。


「あそこにポストを用意しました。中に鈴を入れてますので、それを鳴らしてみて下さい。きっと驚きますよー?」


それはどういう……?

まぁいいか。

ともかく言われた通りにしてみよう。


御神木の麓付近に、手製の木製ポストがあった。

そこから小さな鈴を取り出す。

揺らしてみる。


チリン――


エルフの森に澄んだ鈴の音が響いていく。

すると俺の隠れ家ツリーハウスの玄関から、ニョキニョキと枝が伸び出した。


枝はすぐ目の前の地面まで伸びてきた。

かと思うと今度は、そこにつたや草なんかが絡みついてゆく。

現れたのは枝葉で編まれたゴンドラである。


って、凄え!

何これ⁉︎

めっちゃファンタジーだ!


「ふっふっふ……。フウタローさん、ナイスリアクションです! 驚きましたか?」


ああ、びっくりした。

これもあれか?

ユグドラシルが持つ不思議な力なのか?


「いいえ、違いますねぇ。これは鈴の力です」


ほう、鈴の。

俺は指先で摘んだままの、小さな鈴に目を落とした。

形状はレナードカムホートのベルみたいだ。

細かな装飾が施されていて美しい。


「その鈴はエルフの里に伝わる魔道具なんです。いま見た通り、枝葉を使って地面と高所を登り降りできるというものですねっ」


なんと⁉︎

つまりはこれは、魔法の昇降機エレベーターを呼び出す魔道具ってことか?


「エレベーター?」


エルフたちが首を捻る。

伝わらなかったが、まあいい。

それより魔道具か……。


素晴らしい!

やっぱファンタジーといえば、魔法の道具だもんな!


それはそうと、こんな良いものを貰ってしまって大丈夫なんだろうか。


「構わないですよー。正直それ、私たちが持っててもあんまり使い道がない魔道具なんですよね。だって私たちエルフはそんなものがなくても木の登り降りくらい簡単に出来ますし……」


そうか。

だったら遠慮なく頂こう。

あ、お礼は肉で良いか?


「もちろんお肉で良いです! ふふふ、期待してますよ!」



ツリーハウスに入る。

ドアを開けたらすぐバー施設だ。


このバーは六畳間ほどのスペースしかないけれど、大人数での利用は想定していないので問題ない。

むしろ狭さがしっくりくる。


まだ酒は置いていないが、これからゆっくりと揃えていこう。

そうだ。

ちょっとした家電くらいは置きたいし、となるとポータブル電源とか買ってこないとな。


バーの隣室はベッドルーム。

これまた狭い。


ツリーハウスは出来たばかりで、まだ家具全般の搬入は済んでいないが、この寝室なんかはシングルベッドをひとつ入れたら、あとはもう何も入るまい。


ベッドルームには、俺が要望した通り天窓が付いていた。

少し角度を設けて嵌め込まれた天窓からは、斜め上に向かって抜けるような青空が見えている。

これはきっと、夜には満天の星空が眺められるぞ。


ベッドルームを抜けたら、もうウッドデッキだ。

ウッドデッキも小さいながら開放感はとびきり。


このデッキにはリクライニングチェアを置きたいな。

そしてゆっくり酒を飲む。

チェアに全身を預けるみたいにゆったりと腰掛けて、森の音や暖かな陽射しを肴にするのだ。


俺は目を閉じた。

吹き抜ける清涼な風を肌に感じながら、幸せな想像に身を委ねる。

しばらくそうしていると、付き添いのプレナリェルが声を掛けてきた。


「どうですか、フウタローさん。お気に召されましたか?」


俺はゆっくりと目を開いた。

プレナリェルに微笑みかける。


ああ、最高だ!

本当に、とても気に入った!


「なら良かったです」


プレナリェルが可憐に微笑み返してくれる。

俺はその愛らしい笑顔を眺めながら、お礼の肉をたんまり差し入れようと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る