第17話 俺の隠れ家 〜ツリーハウス編〜

本場のファンタジー食材である角兎ホーンラビットを調理した香草スパイス焼きは、独特の味をしていた。


肉が硬く、臭い。

まぁなんだ。

ありていに言えば、ちょっと不味――いや、個性的で人を選ぶかも知れない。


けれども俺は、大いに満足していた。


これだよ、これ!

この癖のある味わいこそファンタジー料理。

その醍醐味!


他店では決して真似のできない本格派。

踊る子兎亭ならではの味ってやつだ。


なぁヴェルレマリーもそう思うだろ?


「……は? まったく思わんが。やはり私はその料理は遠慮しておこう」


なんでだよ!


「魔物肉は不味い。私はこの地の食材の方が、遥かに美味だと思うぞ?」


ちっ。

俺は舌打ちをした。

物の良し悪しのわからん味音痴め。


……まぁいい。


この本場・・角兎の香草焼きは、違いの分かるつうの客にしか提供しない裏メニューにしよう。


そのためにもまずはファンタジー異世界からの食材仕入れルートを確立しないとな。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


数日後、エルフの家が完成した。


もの凄い施工スピードだ。

エルフたちが胸を張る。


「えっへん!」

「どうだ、驚いたか」

「はやくもこんなに立派な家が建ちましたよー!」


いやはや、大したものだ。


俺は完成したばかりのツリーハウスを眺める。

外見はビルにして5階建くらいの高さがある木造建造物。

そんな大きな建物が、御神木の太い枝に設けられた広い基礎の上に建っている。


中も見せてもらおう。

複数箇所ある出入り口の一番下、大きな玄関口からツリーハウスに入った。


おお――

これはこれは。


空間が贅沢に使われている。


エルフの家の内部構造は独特だ。

まず最初に目を引いたのは、一階部分から屋根まで繋がった長い螺旋階段。


家の中央を貫くように設置されたその螺旋階段から、2階、3階へと好きに渡れるようになっている。


各階は一般的な日本家屋のように完全には独立しておらず、仕切りが少ない。

こうして1階部分に立っていても、他の階を見上げることができる。


エルフたちは自室を持っていないようだ。

銘々好きな場所に陣取っては、のんびりゴロゴロしている。


開放的でオープンな構造。

俺は住み慣れた日本の建築様式との違いに新鮮さを感じた。

エルフたちはこの家で、どんな生活を送るのだろうか。

興味津々である。



エルフたちの作業は一段落した。

となると今度は、俺のツリーハウスを作る番だ。


エルフを代表して、プレナリェルが聞いてくる。


「フウタローさんは、どんな感じのお家を建てたいですか?」


そうだな。

待っている間に色々と考えていたんだ。


まず広さは程々でいい。

というか、ちょっと小さめにして欲しい。


実はさ。

俺はここを隠れ家ツリーハウスにしようと思ってる。

だからサイズは小さめ。

外観も地味で、そんなに目立たなくてもいい。

壁を草木で隠しちゃうのもいいな。


「……ふぇ? 『隠れ家』ですか? それはどういうものなんです?」


例えばさ。

誰にでも、ひとりになってリフレッシュしたいこと、あるよな。

気分転換というか、仕事で疲れた時なんか特に。


そういう時に落ち着ける場所。

それが隠れ家だ。

大人数でパーティーをやる施設なんかじゃない。

だから広さは必要ない。

こぢんまりしてて良いんだ。


でも大きな窓は欲しいな。

せっかくのツリーハウスだ。

高所からの綺麗な景色が眺めたい。

だから部屋にでっかい開閉式の窓をつけてさ、そこから美味い酒でも飲みながら景色を眺めるんだ。


酒と言えば、バー設備は欲しい。

俺は酒飲みだからさ。

あとトイレ。

酔ってそのまま寝たくなることもあるだろうし、寝室も欲しいかな。

あ、寝室には天窓もつけたい。


って、そうそう。

語っている間に妄想が膨らんできた。

ツリーハウス本体だけじゃなくて、ウッドデッキも欲しいぞ。


だってウッドデッキがあれば、部屋からでて酒が飲める。

風に揺れる枝や木の葉をすぐ身近に感じながら、酒を飲むんだ。

ふふふ、乙だろ?

あー、考えただけでもワクワクする。

待てよ?

となると転落防止ネットは必須だよな。


「転落防止ネット? なんです、それ?」


ウッドデッキから落ちたときの為のセーフティネットだ。

だってほら。

酒を飲むと酔うこともある。

それで足元が覚束おぼつかなくなって転落死とか勘弁だからな。


俺のセリフにエルフたちが笑う。


「なるほど。それなら転落防止ネットは不要ですね」

「だって御神木ユグドラシルなのよ?」

「もし足を滑らせて木から落っこちても、御神木が助けてくれます」

「ん、すごく安全」


御神木が助けて?

それはどういう――


「こういうことですよ。見てて下さい!」


言うが早いか。

プレナリェルは身軽な動きで御神木を駆け上っていく。

かと思うと、高所の枝から飛び降りた。


「えいっ」

「――ちょ⁉︎ ななななな、なにしてんだ!」


思わず叫んだ。

だって命綱もつけてないんだぞ!


紐なしバンジーかよっ。


とか突っ込んでる場合じゃない。

プレナリェルを助けないと!

俺は慌てて落下地点へと駆け出す。

と、そのとき――


御神木からメキメキと音がした。

直後、複数の枝がニョキニョキと伸び出して、プレナリェルへと向かっていく。

集った枝は落下中の彼女を優しく受け止めると、そっと地面に下ろした。


「ね?」


プレナリェルはドヤ顔だ。

ああ、無事で良かった。

俺はほっと胸を撫で下ろす。


「ね、フウタローさん、ご理解頂けましたか? 御神木で転落死なんてありえません!」


はぁ、すげえもんだな、ユグドラシル。

でもな。

あんな風に急に飛び降りたりして驚かせるのは、もうやめてくれ。

だって心配するだろ?

ほんと、心臓が止まるかと思ったよ。

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