第16話 角兎調理と場末の酒飲み
エルフたちは早速ツリーハウス建築を開始した。
エルフは身軽だ。
それに華奢な身体に似合わずパワフル。
手早く足場を組み上げては、御神木を高く高く登っていく。
建材はというと、その辺りの木から生材を切り出していた。
それを不思議な力で乾燥させる。
あっという間に樹上にツリーハウスの基礎が出来上がった。
手際がすごく良い。
これは本職の大工も舌を巻くのではなかろうか。
エルフたち7人は息もぴったりだ。
うーむ。
なんか、エルフたちのことは放っておいても大丈夫そうだなぁ。
とはいえ俺は、彼女らに家を建ててやると見栄を張った身である。
ただ見ているだけでは少し心苦しい。
なので申し出てみた。
なぁ、俺も手伝おうか?
「あはは、大丈夫ですよー。こう見えて私たち、大工仕事は慣れているんです。里でもお家は自分たちで建てたり直したりしてましたし」
俺の出る幕はなかった。
逆に提案を受ける。
「それよりフウタローさんも御神木に家を建てるんですよね。お手伝いしましょうか? まぁこちらの作業が落ち着いてからですけど」
あ、そう?
助かるよ。
お言葉に甘えて、手伝ってもらおう。
◆
俺はエルフたちのツリーハウス建築が一段落するまで、大人しく待つことにした。
この間にやりたいこともある。
それはファンタジー異世界から持ち帰った
角兎の肉はすでに血抜きも解体も済ませてあった。
というかお願いしたらエルフたちがやってくれた。
エルフさまさまである。
角兎の肉をまな板に置く。
見た目はピンク色で、普通のうさぎ肉とあまり変わらない。
ただ手触りなんかは全然違う。
弾力が凄い。
押すと指をぐにぐにと押し返してくる。
これは角兎が筋肉質なせいだろうか。
まぁ、凶暴だったしな。
ともかく噛み切るのが大変そうだ。
匂いも相当キツい。
さすがはファンタジー食材。
というか魔物肉。
野趣に溢れている。
試しに俺は、いつもの手順でさっと調理してみた。
熱したフライパンに油を引き、もみだれで下味をつけてから肉を乗せる。
焼き具合をみつつ、香草や各種調味料で味を整えていく。
気持ちスパイス多めに。
これは臭み消しの為だ。
こうなると単なる香草焼きというより、香草スパイス焼きと呼んだ方がしっくりくるか。
◆
パチパチと油が弾ける。
嗅覚を刺激するスパイスの香りが、あたりに漂いだした。
その匂いに釣られたのか、姫騎士ヴェルレマリーが厨房に顔を見せた。
「フウタロー、なんだそれは? 美味そうなものを作っているではないか」
ああ、角兎の肉をちょっとな。
「ほほう、私が斬ったアレだな。となるとその肉はもとは私の獲物だ。私にも味見をする権利があるのではないか?」
たしかに、そうだな。
じゃあ後で一緒に試食しようか。
うむうむと満足気に頷いている。
「それはそうとだな。なぁ、フウタロー」
ヴェルレマリーが人差し指と親指で小さな輪っかを作る。
口元で、くいっくいっとしてみせた。
これはアレか?
日本酒をせがむポーズか?
こういう仕草って、世界共通なんだなぁ。
実はこの姫騎士には昨日、日本酒を与えていた。
現地の酒を味わいたいとか言い始めたからだ。
「昨日の酒は実に美味だった。またアレを飲ませろ」
へいへい。
というか何か?
ヴェルレマリーには一升瓶を丸まま渡したんだが、まさかもう全部飲んでしまったのだろうか。
……飲んでしまったらしい。
まったく大した酒豪っぷりである。
俺は苦笑いしながら、純米大吟醸『東洋美人』を取り出した。
甘くて美味い酒だ。
さきいかと一緒に渡す。
「ほら、持ってけ」
「うむ、かたじけない! これだ、これ」
ヴェルレマリーは嬉しそうに足取りを弾ませながら、バーカウンターに向かう。
すみっこで一杯やり始めた。
「ぷはぁ、美味いー」
コップに大胆に注いだ酒を煽り、さきいかをもしゃもしゃしている。
まるで場末の居酒屋のオヤジだ。
その姿が妙にしっくりきていて、なんだか愉快な気持ちになる。
ったく。
ここはファンタジー冒険者酒場だってのになぁ。
ふふふ。
俺は笑いながら角兎の調理に戻った。
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