第15話 世界樹ユグドラシル

森の成長がようやく止まった。


御神木ユグドラシルはもう、天を衝くような高さだ。

エルフたちに言わせれば、これでもまだまだ控えめとのこと。

成長しきった御神木は『世界樹』と呼ばれる、それはそれは偉大な樹になるそうだ。


周辺の木も凄い。

御神木は別格としても、ほかにも樹高30メートル級の樹々がゴロゴロと立ち並んでいる。

さながらトトロの森だ。


ふと思う。

そういえば普通、雑木林に生えているような木ってこんな成長するものなんだろうか。

俺の勝手なイメージでは、低木が多い感じなんだが。


……ま、いいか。


考えても理解できそうにない。

なら考えないに限る。

俺はそういう柔軟な考えができる人間なのだ。

まぁ既に常識がどうこうの段階じゃないしな。



何処からかそよいでくる柔らかな風。

空気がひんやり肌に心地良い。


さわさわとした葉擦れの音。

木漏れ日。

小鳥がさえずる声。


エルフの森は清廉な空気に満たされている。

俺は大きく息を吸い込んだ。

森林に漂う樹木の香りを、思いっきり胸に取り込む。


……ああ、いい気分だ。


リフレッシュ感半端ない。

これがマイナスイオン効果ってやつだろうか。


そういえばエルフたちが、聖域云々うんぬんと言ってたな。

その辺り、この爽快感に関係しているのかも知れない。


あらためて周囲を見渡した。

さっきまでと違って、エルフの森にはツリーハウスに適した大木がそこかしこに生えている。

これなら選び放題だ。


俺はエルフたちに聞いてみる。

どの木にツリーハウスを建てようか?


「そりゃあもちろん!」

「御神木にですよ」

「ねー」


え?

それって、ありな訳?


御神木というからには、この樹はエルフたちの信仰の対象とか、そういう感じなのだろう。

そんな場所に住居を構えて、ばちが当たるとか思わないのだろうか。


……思わないらしい。


これも文化の違いってやつか。

プレナリェルが言う。


「だって御神木ユグドラシルに建てたお家は、住み心地ばつぐんなんですよ。神気のおかげで室温はいつも快適。それに神気には魔除けやリラックス効果もあるので、夜なんて安眠間違いなし! 建てない手はないです」


へえ、そりゃ凄い。

神気、半端ないな。


あ、そうだ。

それならさ、ちょっとお願いしてもいいかな?

俺も自分用のツリーハウスを一棟、御神木に建てたいんだが……。

許可とかもらえる?



聞くとエルフたちが集合した。

またさっきみたいに輪になって、顔を寄せ合い、小声で相談を始める。


「……どう思いますか?」

「フウタローは人間族ヒューマン

「エルフ以外の種族が御神木に家を建てるなんて、聞いたことないわ」

「じゃあ不許可ですか? それも申し訳ない気が」

「――待って、お肉食べたい」

「またそれですか。私も食べたいですけど、いまは関係なくないです?」

「関係ある。許可をだす代わりにお肉をもらえば――」


エルフたちの頭上にぴこんと電球マークが浮かんだ。

円陣をほどき、みんなで俺に向き合ってくる。


「えっと、こほんっ」


プレナリェルが咳払いをひとつ。

勿体ぶった口調で話しだす。


「良いでしょう、許可して差し上げます。ただし、条件があります! 許可をする代わりにフウタローさん。貴方はこれから毎日……」


プレナリェルが台詞を中断した。

思い悩んでから、あらためて口を開く。


「……いえ、毎日というのは欲張り過ぎでしたね。欲を掻くのはいけません。ともかくフウタローさん、貴方はこれから定期的に私たちエルフに――」


ああ、分かってる。

肉だろ?

ちゃんと差し入れるよ。

なんなら毎日でも構わないぞ。

許可してくれてありがとうな。


俺が話に割り込むと、プレナリェルが動揺した。


「な、なぜ、お肉と引き換えだと分かったのですか⁉︎ ――はっ! さてはフウタローさんは、人の心が読める⁉︎」


いや、分かるから。

それに小声で相談していた内容とか筒抜けで、全部聞こえてたからな。


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