第14話 エルフの森を作ろう。

翌日、俺はエルフたちを連れ、敷地にある雑木林までやって来ていた。


目的はエルフたちの家を建てること。


やむにやまれぬ事情により放浪生活を続けていたエルフたちは、何でも里をでるまでは樹にツリーハウスを建てて住んでいたらしい。


ならその住環境を再現してやろう。

なにせ日本に誘うときに、家は任せろって大見得を切っちゃったしな。



ところで俺はツリーハウスには詳しい。


というのも俺は、アメリカのツリーハウスビルダー『ピート・ネルソン』の大ファンだからだ。


ピートの技術は大したもので、そりゃあもう立派なツリーハウスを作る。

技術だけじゃなく、情熱もある。


かつてアニマルプラネットで放送されていた彼の番組は、全部楽しく観させて頂いた。

そんな俺も、最早一角ひとかどのツリーハウス職人と言っても過言ではなかろう。


俺は周囲を見回した。

いっちゃ何だが、ここは貧相な雑木林だ。

ツリーハウスに適した立派な樹は少ない。


だが俺には分かる。

俺はとある樹に当たりを付けた。

これだ!

この樹が良い。

幹が太くて真っ直ぐで、ツリーハウスを建てるのに向いている。

そんな樹が複数、等間隔に生えてる。

こういうのが支柱になるんだ。


きっとピートがこの場にいたって、これを選ぶに違いない。

な、プレナリェルもそう思うだろう?


「なに言ってるんです? それより危ないですよ。そこら辺、地盤が緩いですし、樹はぜんぶ根腐れしてます」


俺は押し黙った。



プレナリェルが号令をかける。


「――集合!」


エルフたちが集まった。

輪になって顔寄せ合い、ひそひそと話し出す。


「……どう思いますか?」

「報告ー。周辺には魔物はいなかった」

「ふむ、安全ですね。他には?」

「昨日のお肉が美味しかった」

「また食べたい」

「私もです。他には?」

「お肉が美味しかった」


話がループしだす。

エルフたちはお肉がお気に入りだ。


「じゃあ決を取りますよ。御神木ユグドラシル、ここで育てても良いと思うひとー」

「賛成ー」

「賛成ー」

「私もー」


どうやら意見がまとまったようだ。

プレナリェルが懐から何かを取り出した。

苗だろうか。

ぽわんと淡く光っている。


それは?


「これですか? これは御神木ユグドラシルの苗です。里を出るときに里長に託された、とても大切なものなんですよー」


きょろきょろと辺りを見回す。


「あの辺りが良さそうですね」


プレナリェルが地面を掘って苗を植えた。


エルフたちが寄っていく。

全員で苗を植えた場所を囲ったかと思うと、ぶつくさと何かを念じ始めた。


その途端――


ごごごごご、と地鳴りがした。

急激に成長を始めた御神木が、大地を揺らしたのだ。

苗は見る間に伸び始め、高く太い幹が現れた。

枝がにょきにょきと生える。

伸びた先に、次から次へと緑の葉が生い茂っていく。


「……うぉ⁉︎ おおおおおお――」


俺はたまらず叫んだ。

精一杯首を倒して頭上を見上げる。

けれどももう、御神木のてっぺんは少しも見えない。

とんでもない成長速度。


続いて変化が起きる。

御神木の爆発的な成長につられるようにして、周囲の樹々までもが育ち始めたのだ。


――ど、どうなってんの、これ⁉︎


俺はエルフたちをガン見した。

彼女らは笑いながら応えてくれる。


「それは御神木の影響ですよー」

「神木ユグドラシルが根付いたからには、ここはもう聖域……」

「漂い出した神気が周りの草木や大地にも、良い影響を与えてるわけね」


説明を受けてもさっぱりわからん!

驚愕する俺を他所に、森は膨れ上がっていく。


「それはそうと中々良い成長具合ですねぇ」

「元々の土地が良かったのかも」


エルフたちが何か言っている。

俺は圧倒されっぱなしだ。


そうしていつの間にか、貧相だった雑木林は美しいエルフの森へと変貌を遂げたのだった。

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