第13話 ステーキパーティー
エルフたちを連れて日本に帰ってきた。
ちゃんと戻れたことに安堵する。
今回は大人しく帰ってきたが、ファンタジー異世界には絶対にまた行こうと思う。
絶対にだ。
っと、そうだ。
自己紹介がまだだったな。
エルフたちに向き直る。
俺は佐々木風太郎だ。
プータローじゃないからな、間違えないように。
これからよろしく。
俺から名乗ると、一番近くに立っていたエルフが名乗り返してくれる。
「フウタローさんですね。私はプレナリェルです。この名前はですねー、エルフの言葉で『花と太陽の娘』っていう意味なんですよ」
ふぅん。
綺麗な名前だな。
可憐な容姿によく似合っている。
続いて彼女は、他のエルフたちも紹介してくれる。
「そしてこちらは端からグローリエル、リンミューレ、メルセデス、アイナノキア、ファロスリエン、カナリタです」
む、難しいな。
エルフたちは全員で7人いた。
その誰もが美しい金髪で、翡翠色の瞳をしており、雰囲気が似ている。
申し訳ないが、一度では全員の名前を覚えきれそうにない。
「あはは、そうですよね。じゃあゆっくり覚えて貰えれば結構です! さしあたりは私の名前だけでも覚えておいて下さい」
了解した。
えっと、プレナリェルだったな。
「それよりフウタローさん! ご飯はまだですか!」
プレナリェルが食い気味に顔を寄せてきた。
近い近い。
この距離感は日本人には馴染みがないものだ。
俺は思わず
「早く約束のご飯を食べさせて下さいよぉー」
「ご、は、ん!」
「ご、は、ん!」
「ご、は、ん!」
「ご、は、ん!」
エルフたちが合唱を始めた。
あー、もう、わかったから。
急かしてくるエルフたちと苦笑いしているヴェルレマリーを引き連れて、踊る子兎亭へと向かおうとする。
一歩、足を踏み出した。
と、そのとき――
頭上を大きな影が横切った。
バサバサと音がして風が舞う。
見上げてみる。
そこには白竜フィンブルリンドの雄々しい姿があった。
どうやら空を飛んでいたらしい。
エルフたちが騒ぎ出す。
「――な、な、な、なんですか、あれー⁉︎」
「なんか空にもの凄いのがいるー!」
「あれはドドドドドドッ、ドラゴン⁉︎」
「ひぃぃ、騙されました! 安全な場所だって言ってたのに!」
いや、騙してないから。
だってフィンは俺が抱きつけるくらい気性が穏やかなドラゴンなんだ。
鱗なんてひんやりしていて、めっちゃ気持ちいいんだぞ。
◆
……食材が足りない。
食料備蓄はあるにはあるが、こんな大人数での食事は想定外だ。
今ある食材では全然足りない。
俺はぎゃあきゃあ騒ぐエルフたちを酒場に押し込んでから、車を飛ばし最寄りの街へと向かった。
ちなみに往復一時間掛かる。
急ぎ精肉店でデッカい肉塊を買い込んで戻ってきた頃には、もう日も暮れ始めていた。
「……フウタローさぁん……ご飯まだですかぁ?」
「……ご飯……ご飯は……」
ええい、うるさい。
ちょっとだけ待ってろ!
「おいフウタロー。私は牛丼でいいぞ」
牛丼は昼にお前が食い尽くしただろ。
もうないぞ。
買ってきたのは、黒毛和牛のブロック肉だ。
部位は肩ロース、リブロース、サーロイン。
かなり張り込んだ。
これ食べたらきっと驚くぞ。
「お肉っ、お肉っ」
プレナリェルが急かしてくる。
そういえばアニメや漫画の中のエルフと言えば、あれだ。
自然と共に生き、食生活は野菜が中心。
肉なんかは忌避するってのが定番だ。
でもなんか、本物のエルフって肉食なんだなぁ。
それに貪欲だし……。
こいつら見てると印象変わるわ。
俺はそんな他愛のないことを考えながら、ステーキ肉をじゃんじゃん切り出していく。
一枚あたりの重さはダイナミックに300グラム前後。
サイズは目分量だが、お代わりは自由だ。
何枚食ってもいい。
それなら平等に切り分けずとも問題なかろう。
◆
俺はみんなの目の前に、焼けた鉄板を一枚ずつ並べていく。
かるく牛脂を引いてから、そこにステーキ肉を乗せた。
じゅわっと音が鳴る。
食欲を刺激する音だ。
焼けたステーキから、香ばしい肉の香りが漂い始めた。
「待たせたな、さぁもう食べていいぞ!」
わっ、と歓声が上がった。
エルフたちがフォークを握りしめ、分厚いステーキ肉にぶっ刺して持ち上げた。
そのままかぶり付く。
「――ッ⁉︎ な、なにこのお肉!」
「すごっ⁉︎」
なんともワイルドな奴らだ。
生焼けなんてへっちゃら、誰ひとり気にした様子すらない。
ばくばく食べていく。
「柔らかい……お肉、柔らか過ぎぃ!」
「舌の上で溶けちゃうぅ」
「うええん、美味しい。美味しいよぉ」
あまりの衝撃に、エルフの何人かが泣き出した。
まじかぁ。
いや確かに黒毛和牛はめちゃくちゃ美味いけど、泣くほどとは……。
エルフは泣きながらも食事の手は止めない。
あ、そうだ。
ヴェルレマリーは食べてるか?
「無論、いただいている!」
ガツガツ食べていた。
って、こいつ一応どこぞのお姫様なんだよな。
こんな風でいいのだろうか。
だがヴェルレマリーは、俺の心配なんかお構いなしだ。
「このステーキは極上だ! 昼に食べた牛丼も最高だったが、この肉は更に別格! 蕩けるような脂の甘みと濃厚な赤身の旨み……。それに雲のような柔らかさ……。力を篭めずともナイフを当てるだけで、すぅっと肉が切れていく!」
うん、食べてるならいいんだ。
あ、お代わりいるか?
それに誰もまだステーキソースを使ってないじゃないか。
次はソースを掛けてみろよ。
きっともっと美味くなるから。
「こ、これ以上に肉が美味くなるだと⁉︎」
「そんな! ありえません!」
まぁいいから試してみろって。
俺は笑いながら、彼女たちにステーキソースを差し出した。
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