第10話 エルフの里
薄っすらと青白く輝く魔法陣を眺める。
ヴェルレマリーが指差す。
「こいつだ、こいつ。私はフィルと一緒に、この転移陣に飛ばされて黄金郷へとやって来たのだ」
祠はフィルが転移してきた際に崩れたらしい。
まぁこの巨躯だ。
さもありなん。
それよりもいま、ヴェルレマリーが聞き捨てのならんことを言ったぞ。
この転移陣からやって来た?
じゃあこれはあれか?
異世界に繋がってるってことか⁉︎
こんな女騎士やドラゴンがわんさか存在するファンタジー世界に?
なら行くっきゃない!
即断即決だ!
「とうっ!」
俺は転移陣に飛び乗った。
「っ⁉︎ ま、待てフウタロー! 軽率な真似はするな! 転移陣というものは実に危険で厄介な
足元がふわっと軽くなる。
つま先が地面を離れ、わずかに宙に浮く。
「はやく降りろフウタロー! こっちに戻ってこい!」
ヴェルレマリーが慌てて叫んでいる。
しかしなにも聞こえない。
俺の身体が徐々に透けていく。
かと思うと転移陣に吸い込まれるみたいにして、すぅっと消えた。
「――ちっ! 何ということだ! 転移してしまった! わ、私は一体どうすれば……ええい、迷っている時間はない。今こそは
風太郎に続いて、ヴェルレマリーも転移陣に飛び込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ところ変わってここは異世界。
深い深い森のなか。
エルフの里と呼ばれる場所。
その樹海の里で、複数のエルフたちにより、こんな会話がされていた。
「……無念極まりないが、この里はもうお終いだ。里を見守り続けて下さった御神木も、力を失ってしまった」
「
「ま、まだ大丈夫ですよ。みんなで力を合わせれば――」
長と呼ばれたエルフも、そう呼んだエルフもみんな若々しい外見をしている。
そして全員が女性だった。
エルフらしく、みながみな、整った容姿をしている。
里長が言う。
「里はもう滅びる。だからその前に、お前たちだけでも旅立ってくれるな?」
「……そんなぁ。だってみんないなくなったら、残された里長はどうなるんですかぁ」
「私のことは気にせずとも良い。年寄りだ。もう十分過ぎるくらいに長い時を生きた。あぁ、千年、二千年……」
目を閉じる。
そうして里長は、人生を振り返っているのだ。
「……私は自らの生に満足しているよ。お前たち愛しい子らに囲まれて、幸福だった」
里長が集まった皆を見回す。
「けれどもお前たちはみんな、まだ300歳かそこらじゃないか。……若過ぎる」
とある事情があった。
止むに止まれぬ事情だ。
その事情により、エルフの里はいま、築いてきた長い歴史に幕を下ろそうとしている。
里長はひとり、里と運命をともにするつもりだった。
しかしに皆には、里に残ることを強要したりはしない。
ホワイトな里長なのだ。
「お前たちには前途がある。朽ちゆく里に縛るつもりはない。だから、旅立ってくれ。つらい旅になるだろう。けれどもできれば何処かに定住できる場所を見つけて、幸せな生を
里長の意思は固い。
若いエルフたちは渋々ながら、長の願いを承諾した。
◆
「ああ、そうだ。新天地に向けて出発するお前たちに持たせておきたいものがある。少し待っていてくれ」
里長が御神木の場所へと足を運ぶ。
そこにあるものは、天を衝くほどの大樹だ。
エルフの長は御神木の前で祈る。
すると樹がほの淡く光った。
かと思うと見上げるように大きかったその大樹はみるみる小さく縮んでゆき、やがてひとつの苗になった。
里長は苗を胸に、大切に掬い上げる。
そして若いエルフたちに差し出した。
笑いながら言う。
「
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