第9話 竜鱗はひんやりしている。
ヴェルレマリーと一緒に牛丼を食べる。
人間、満腹になると些細なことは気にならなくなるものだ。
お腹がくちくなった俺は、いくらか落ち着きを取り戻していた。
牛丼は美味しかった。
――っと、それはともかくドラゴンだ!
俺は再び酒場の外に飛び出す。
純白のドラゴンは、さっきと変わらずそこにいた。
威厳のある姿だ。
改めて眺めても、やっぱりとんでもない。
だってドラゴンだぞ?
ファンタジーの象徴みたいなもんだ!
さ、触ってみてもいいだろうか。
俺は鼻息を荒げ、興奮気味に聞いてみた。
ヴェルレマリーが応える。
「なぜ私に聞く? フィンなら目の前にいるのだ。直接たずねれば良かろう」
え?
このドラゴン、人語を理解できるの?
……理解できるらしい。
勇気を出してお願いすると、ドラゴン――フィンは「グルル」と唸りながら頷いてくれた。
俺はおっかなびっくりな足取りで、輝く白い巨体に近づいていく。
で、では、失礼しまして……。
フィンの前脚にそっと指先を当てた。
ひんやりしている。
けれども思ったほど冷たくはない。
夏場の冷感敷きパッドくらい。
それよりも鱗の下から指先に、ドクンドクンと脈が伝わってきて、何だか興奮する。
手のひらで、軽く撫でてみた。
鱗らしく手触りは硬くて、少しザラザラした感じだ。
とはいえ、ヤスリのような痛みはない。
少し大胆になった俺は、次はほっぺたを押し付けてみた。
むぎゅっと抱きついて、そのままジョリジョリを楽しむ。
まるで髭ジョリみたいだ。
「お、おおおお――」
たまらん!
これが竜の鱗……!
俺はいま、ドラゴンと戯れている!
ぐふっ。
「……グ、グルゥ……」
傍目には、今の俺の行動は気持ち悪いかもしれん。
ヴェルレマリーなんか、変態を見る目を向けてくる。
うわぁって表情だ。
にやけ顔の俺に抱きつかれたフィンは、ちょっと嫌そうにしていた。
◆
俺はヴェルレマリーに案内されて、とある場所に足を運んでいた。
そこは俺が購入した広大な土地の一角で、踊る子兎亭からみて北東部に当たる場所だ。
ちなみに踊る子兎亭は、敷地のど真ん中にある。
一番良い場所に建てた。
そこには崩れた祠があった。
はて?
こんな場所に祠なんかあっただろうか。
首を捻る。
一応ながら俺は、この土地を購入するに当たって、何があるかは全部見て回ったつもりなんだが。
……まぁ、良い。
とやかく言ってもしょうがない。
あるものはあるのだ。
ここは柔軟に考えていこう。
祠はもとは石造りだったらしい。
岩が彼方此方に散乱している。
ヴェルレマリーは「……ほっ、はっ……」と軽く呼気を吐きながら、崩れた祠からそれらの岩を取り除いていく。
――って、待て待て待て!
ちょっと待て!
俺は目を見張った。
この女騎士、いまめちゃくちゃデッカい岩を軽々と持ち上げなかったか⁉︎
驚く俺に、ヴェルレマリーはこともなく言う。
「……ん? ああ、これか? 別に大したことじゃないだろう。私には『怪力』の
ギフト?
何それ?
「なんだ。知らんのか?」
ヴェルレマリーが大岩をむんずと掴んだ。
そのままひょいと持ち上げる。
彼女は小枝でも振るみたいな気軽さで、掴んだ岩をぶんぶんと振り回してみせた。
「とまぁ、こんな感じだな。怪力持ちならこれくらいは朝飯前……飯と言えば、なんだ? 先ほど食した牛丼なる料理はじつに美味だったな。また食べたい」
ヴェルレマリーが何か言っているが、ちょっと頭に入ってこない。
凄い。
ギフトとか言っていたが、それって異世界ファンタジーでいうところの、いわゆるスキルってやつじゃねえの?
めっちゃ羨ましい!
目の前で繰り広げられるファンタジーの連続。
今日はずっと驚きっぱなしだ。
羨ましがる俺をほったらかし、ヴェルレマリーは祠の残骸除去を続ける。
崩れた岩の下から、淡い光が漏れ出した。
そしてそこから輝く魔法陣が現れた。
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