第4話 冒険者酒場『踊る子兎亭』
「さぁ
工期の数ヶ月で彼女ともすっかり仲良くなった。
冒険者酒場の建設に当たって、忌憚のない意見を何度もぶつけ合った。
俺たちはすでに同志だ。
それに何度か一緒に飲んだが、この匠、中々の酒豪である。
ちなみに年齢は26とのことだ。
俺はやり遂げた感に溢れる眩しい笑顔の茉莉花ちゃんへと頷き返し、早速建物に向かう。
玄関には『踊る子兎亭』と書かれたアンティーク調の突き出し看板。
ポップなウサギのシルエットが可愛らしい。
これが俺が経営していくことになるファンタジー冒険者酒場の店名だ。
外観はまさに理想通り。
重厚かつ素っ気ない木造建築ながら、どこかしら木の温もりが感じられる。
窓からは暖色の明かりが漏れ出していて、そこから今にも酔客の笑い声が聞こえてきそうだ。
俺は期待に胸を膨らませた。
ドアベルをカランカランと鳴らしながら、酒場へと足を踏み入れる。
空間がパァッと開けた。
吹き抜けのエントランス。
天井が高い。
見上げると太い梁が何本も架けられていて、首をあげたまま周囲を見渡すと中二階もちゃんと見える。
酔っ払い冒険者が誤って転落してしまわないよう、手すりは少し高めだ。
一階には頑丈そうな木製ラウンドテーブルがたくさん置かれてあった。
奥にはバーカウンターもある。
七、八名は並んで座れそう。
壁には立派な鹿角が飾られていた。
他にも刃引きされた剣や盾の装飾。
部屋の隅には無骨なプレートアーマーなんかが無造作に置かれていやがる。
そのそばにある蓋が開いたままの古びた宝箱には、斧や槍が入れられている。
「……お、うおおー! す、凄え!」
完璧に冒険者酒場だ。
楽しくなってきた!
逸る気持ちが抑えられない。
いや抑える必要なんかない!
俺はそこかしこを見て回った。
厨房は広々としていて、何人もの料理人が一度に作業をしても問題ない。
楽団用に用意したステージも、きっちり仕上がっている。
それにこの酒場には地下室もあってワインセラーや酒や食料の保管庫として使えそうだ。
「これだ! これこそが俺の求めていた冒険者酒場だ! うぉぉ」
「ふふ。風太郎さんってば、あんなにはしゃいじゃって。小さな男の子みたいです」
興奮して叫ぶ俺を眺めて、茉莉花ちゃんがくすくすと笑っていた。
◆
さて、冒険者酒場が完成したからにはやることがある。
それは飲み会だ。
俺は茉莉花ちゃんや設計事務所のひとたち、工事をしてくれた大工さんらを全員誘った。
みんな気持ちよく参加を了承してくれた。
まぁ彼らにとっては、この酒盛りが竣工式みたいな感じなのだろう。
では、盛大に酒を振る舞うことにしよう。
もちろん料理もだ。
俺だって工事期間中ただ遊んで待っていただけじゃない。
その間にちゃんと異世界ファンタジー酒場風のメニューを考案してあるのだ。
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