第3話 こんな酒場が作りたい。

冒険者酒場の建築に着手する。


ここは一番大事な所だ。

金に糸目はつけない。

俺は有り余る財力に物を言わせて、国内でも指折りと名高い凄腕の一級建築士さんを招くことにした。

いわゆる建築のたくみである。



到着した匠と挨拶を交わす。


「初めまして。ナナホシ建築設計事務所の七星ななほし茉莉花まつりかと申します。この度は御用命頂きありがとうございます」

「ども、佐々木風太郎です」


やってきたのはメガネが似合う美人の匠だった。

幾人か社員らしき者を連れている。


……って若いな。

この人、まだ三十いってないんじゃないか?

だが若々しい割に纏う雰囲気は凛々しく、バリバリのキャリアウーマンといった風体だ。

タイトに着こなしたスーツ姿が良く似合っている。

そして結い上げた髪から覗く白いうなじが艶っぽい。


パッと見だとちょっと真面目でお堅そうな印象を受けるものの、こういうお姉さんが笑うと可愛いんだよ。

あと酒に酔うと豹変したりするもんなんだよなー。

俺はそんな勝手な妄想を膨らませたりする。


「それでは早速ですが、お聞かせください。異世界ファンタジー風の冒険者酒場を建築したいとのことですが――」


俺は欲望を語った。

語りまくった。


冒険者酒場となれば、やはり第一に木造建築だろう。

使い込まれた床や壁は頑丈。

柱はめちゃくちゃ太っくて、広さは……うぅん、そうだなぁ……。

荒くれ者の冒険者が百人以上は同時に入れるサイズにしたい。


そして基本の構造は天井の高い平屋建て。

厨房は使いやすくして欲しい。


中世風楽器を一式揃えた演奏ステージも必要だぞ。

そこで吟遊詩人や旅の楽団が唄うんだ。

となると中二階なんかを設けて飲酒スペースや、ステージ観覧席にするのも雰囲気があってイケてるかもしれん。


春には陽射しを浴びながら飲むのも良いな。

その為のウッドデッキを追加で。


あと暖炉は欲しい。

だから煙突も必要になるか。

酒場は全体的に木造でお願いしたいが、暖炉や煙突だけは無骨でごつごつした石造りが良いな。


「あのぉ」


七星さんから突っ込みが入る。


「この規模のスペースですと、古めかしい暖炉だけでは暖房が追いつきません。それに冷房はどうなさるおつもりですか?」


たしかにそうだ。

それならまぁ業務用エアコンなんかも付けてくれて構わない。

けれどもその場合は外から見えない工夫をしてもらいたい。

なんたって冒険者酒場だからな。

わがままばかりを言って申し訳ないとは思うが、エアコンなんか見えちゃったら興醒めなんだ。


「分かりました! がんばります!」


七星さんが腕捲りをして、軽く力こぶを作ってみせる。

やる気は十分のようだ。

彼女は続けて話す。

真面目な顔から一転して、ちょっとはにかんだ風な照れ顔だ。


「そ、それにですね。えへへ……実はわたしもこういうの大好物なんですよー。異世界アニメもたくさん観てますし、ファンタジーってわくわくしますよね!」


そうだったのか。

なんとも嬉しいことを言ってくれる。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいですね。いい歳をして子どもっぽいと思いますか?」


とんでもない。

それどころか思わぬ所で同好の志が見つかって、俺のテンションは爆上げだ。


なら遠慮はなしである。

更に要望を伝えよう。


内装や照明にも凝りたい。

あ、良いことを思い付いた。

ヘラジカ辺りのデッカい角とかを加工して、壁に飾ろう。

きっといい雰囲気が出るぞぉ。


俺は調子に乗ってじゃんじゃん要望を出しまくった。

おかげで総工費はとんでもない額になったが、問題はない。

ここは出し惜しみ無しだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


――数ヶ月が経過した。


冬場に始まった工事であったが、季節はもう春先で汗ばむ陽気の日もある。


七星さんが、額の汗を拭う。

そして彼女の背後には、ようやく完成した念願の異世界ファンタジー風、冒険者酒場が建っていた。

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