第3話 こんな酒場が作りたい。
冒険者酒場の建築に着手する。
ここは一番大事な所だ。
金に糸目はつけない。
俺は有り余る財力に物を言わせて、国内でも指折りと名高い凄腕の一級建築士さんを招くことにした。
いわゆる建築の
◆
到着した匠と挨拶を交わす。
「初めまして。ナナホシ建築設計事務所の
「ども、佐々木風太郎です」
やってきたのはメガネが似合う美人の匠だった。
幾人か社員らしき者を連れている。
……って若いな。
この人、まだ三十いってないんじゃないか?
だが若々しい割に纏う雰囲気は凛々しく、バリバリのキャリアウーマンといった風体だ。
タイトに着こなしたスーツ姿が良く似合っている。
そして結い上げた髪から覗く白いうなじが艶っぽい。
パッと見だとちょっと真面目でお堅そうな印象を受けるものの、こういうお姉さんが笑うと可愛いんだよ。
あと酒に酔うと豹変したりするもんなんだよなー。
俺はそんな勝手な妄想を膨らませたりする。
「それでは早速ですが、お聞かせください。異世界ファンタジー風の冒険者酒場を建築したいとのことですが――」
俺は欲望を語った。
語りまくった。
冒険者酒場となれば、やはり第一に木造建築だろう。
使い込まれた床や壁は頑丈。
柱はめちゃくちゃ太っくて、広さは……うぅん、そうだなぁ……。
荒くれ者の冒険者が百人以上は同時に入れるサイズにしたい。
そして基本の構造は天井の高い平屋建て。
厨房は使いやすくして欲しい。
中世風楽器を一式揃えた演奏ステージも必要だぞ。
そこで吟遊詩人や旅の楽団が唄うんだ。
となると中二階なんかを設けて飲酒スペースや、ステージ観覧席にするのも雰囲気があってイケてるかもしれん。
春には陽射しを浴びながら飲むのも良いな。
その為のウッドデッキを追加で。
あと暖炉は欲しい。
だから煙突も必要になるか。
酒場は全体的に木造でお願いしたいが、暖炉や煙突だけは無骨でごつごつした石造りが良いな。
「あのぉ」
七星さんから突っ込みが入る。
「この規模のスペースですと、古めかしい暖炉だけでは暖房が追いつきません。それに冷房はどうなさるおつもりですか?」
たしかにそうだ。
それならまぁ業務用エアコンなんかも付けてくれて構わない。
けれどもその場合は外から見えない工夫をしてもらいたい。
なんたって冒険者酒場だからな。
わがままばかりを言って申し訳ないとは思うが、エアコンなんか見えちゃったら興醒めなんだ。
「分かりました! がんばります!」
七星さんが腕捲りをして、軽く力こぶを作ってみせる。
やる気は十分のようだ。
彼女は続けて話す。
真面目な顔から一転して、ちょっとはにかんだ風な照れ顔だ。
「そ、それにですね。えへへ……実はわたしもこういうの大好物なんですよー。異世界アニメもたくさん観てますし、ファンタジーってわくわくしますよね!」
そうだったのか。
なんとも嬉しいことを言ってくれる。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですね。いい歳をして子どもっぽいと思いますか?」
とんでもない。
それどころか思わぬ所で同好の志が見つかって、俺のテンションは爆上げだ。
なら遠慮はなしである。
更に要望を伝えよう。
内装や照明にも凝りたい。
あ、良いことを思い付いた。
ヘラジカ辺りのデッカい角とかを加工して、壁に飾ろう。
きっといい雰囲気が出るぞぉ。
俺は調子に乗ってじゃんじゃん要望を出しまくった。
おかげで総工費はとんでもない額になったが、問題はない。
ここは出し惜しみ無しだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――数ヶ月が経過した。
冬場に始まった工事であったが、季節はもう春先で汗ばむ陽気の日もある。
七星さんが、額の汗を拭う。
そして彼女の背後には、ようやく完成した念願の異世界ファンタジー風、冒険者酒場が建っていた。
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