両親の行方

 ノエルはどう答えるか決めかねているようで、すぐには返事が返ってこなかった。

 その間がわたしを不安にさせた。

 息を呑んでじっと彼女の言葉を待つ。


『……ごめんなさい。わたくしに分かることは少ないわ』


「それでも、何か知ってるなら教えて」


『そうね、手掛かりにもならないようなことだけど、あなたの希望になるのならそれもいいかもしれないわね』


「うん、ちょっとしたことでもいいから」


 ノエルは合理性を重視するような節が見られるけれど、彼女なりに優しくしようとしているように思える部分もある。

 それから、彼女は知りうる限りのこと話してくれた。


 以前から、広い範囲の村や町で幼子(おさなご)が連れ去られる事件があった。

 決まって深夜に狙いうちするようなやり方で、警護が追いつかなかった。

 このことは周辺の領主様の耳にも入ったけれど、平民たちのわずかな犠牲のために兵力を使うことを渋って、本格的な討伐に乗り出すことはなかった。

 正規の兵力を導入すれば魔女を仕留めることは可能らしい。

 ただ、兵士の犠牲を出して倒さなければいけないほど、魔女の被害は大きくないと考えられている。


『外の世界を見たことないと思うけど、わたくしの話は理解できたかしら?』


「うん、大丈夫。書庫の本に書かれていた内容で補えた」


『あなたの両親はいずれかの村なり、町なりにいるはずよ。ただ、範囲が広いから、すぐに絞りだすのは難しいわ』


「ノエル、ありがとう。外のことが分かって良かった」


『どういたしまして。今日のところはこの辺にするわ。ここまでぶっ続けで使い魔越しに話したのは初めてよ』


 声の調子はそのままだけれど、ノエルは少し疲れているように感じられた。


『しばらくの間、わたくしと小鳥の中継を切断するわ。ただの鳥みたいに見えると思うけど、エサは上げなくてもいいから。そのまま適当に隠しておいて。また何かあれば連絡するわ』


「うん、またね」


 肩の辺り感じていた魔力が薄れた気がした。

 小鳥を見ると、愛らしい仕草で首を傾げた。


「……すごい、野生の鳥みたい」


 何かの拍子に誰かに見つかったしても、怪しまれる可能性は低いと思った。

 外の世界の魔法の基準は分からないけれど、ノエルの技術は優れているみたいだ。

 彼女が力を貸してくれるなら、ここから抜け出せる可能性は高いかもしれない。


 ずっと書庫にいては不審に思われるので、夕方になったところで外に出た。

 何かの拍子で見つかるのを避けるために、使い魔の小鳥は書庫の中に置いてきた。

 このまま自宅に戻るより、気分転換をするために寄り道をすることにした。


 町の中の道を歩いていると、空の色が美しく思えた。

 こんなふうに心が動いたのはいつぶりだろう。

 水色の空に淡い橙色の夕日が差しこんで、きれいな彩りを作り出している。

 その光景は魔法で偽装されたものではなく、ありのままの景色だった。


「……あれ?」


 ふと気づくと、両目から涙の雫が垂れていた。

 ノエルと出会えたことからくる安堵、目に映る景色の美しさ。

 その両方がわたしの心を揺さぶったのかもしれない。

 わたしは両手で涙を拭って歩き出した。

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