第52話
園川と葉仲の2名が前に並び坂道を登っていた。
そのとき、園川の背後で玲奈の声がした。
「いやッ! ちょっとなにこれ!」
続いて松宮の声もした。
「なんだよー!」
園川が振り返ると、玲奈の足にワイヤーが絡みつき、一気に坂を引きずり降ろされていた。
同じく松宮も足をワイヤーに引かれ、坂を滑り落ちていった。
ワイヤーには、巻き付きやすいように重りがついているようだった。
すかさず園川は追いかけようとしたが、違和感を覚えてその場を飛び退いた。
すると、そこに分厚い鉄の壁が落ちてきて、雪をえぐった。
いや、よく見るとその鉄の壁は大剣だった。
そのとき男の声がした。
「行かせないぜ。ブルーのダンナ。オレと遊んでいってくれよ」
そこに、銀色の甲冑を身に着けた金髪の男がいた。
園川は電磁ナイフを起動して、
「おまえ……。キャズムか。どういうつもりだ? それに、あのワイヤーは、ボーラか?」
キャズムは大剣をかつぎ上げると、
「さすがだ。よく憶えてたな」
「質問に答えろ、キャズム。なぜここにいる? まさか、影に誘われたのか?」
「ああ、そんなところだよ」
「オレたちが、なにをしようとしているかわかっているのか? 輪神教会を止めるために動いているんだ。オマエは、理非がわからんやつじゃなかっただろ」
「ヘヴンズシャドウに理非はないぜ」
するとキャズムの足元から雪が飛んできた。
それを払おうと園川が気を取られたところに、大剣が真横から迫ってきた。
園川は後ろに跳んだが、胸を浅く斬られたようだ。
「ダンナ、動きが悪くないか? ……そうか。足元の雪で、自慢のフットワークが使えないってわけか」
「……大した問題じゃない」
「こりゃ、ダンナに勝てるかもな。ラッキー」
「試してみろ」
と、園川は電磁ナイフを構えた。
* *
玲奈は斜面の途中で、足に絡まったワイヤーを外した。
斜面の下を見ると、先ほど歩いてきた谷底の道があった。
また、やや離れたところに小高い岩があった。
玲奈のとなりには松宮がおり、同じくワイヤーを外していた。
「気をつけてください。攻撃がくるかも!」
「わかってる」
玲奈は右手を掲げた。
青い指輪が光り、刀が現れた。
松宮も右手で剣を抜いた。
そのとき、風音の中に女の笑い声が聴こえた。
フフフフフフ。アハハハハハ。
ふいに玲奈は、足と下腹に痛みを感じた。
見るとナイフが突き刺さっていた。
ついで、松宮の方に人影が飛んでいった。
それは、毛皮の服を着こんだ女の姿だった。
女は大きな鉈をふるった。
松宮は剣で女の攻撃を受けたが、後ろに吹き飛ばされた。
そこで女は言った。
「弱いねー! 1分ももたないんじゃないの?」
玲奈は言った。
「あなた、何者なの?」
「答える必要あるのー? ま、いいけど。あたしはボーラ。ヘヴンズシャドウじゃ、鳴らしてた方さ」
すると、松宮は左手を前にかざした。
「玲奈先輩。下がってください。やります」
どうやら、ずっと開発していた新たな魔法を使うようだ。
ボーラは言った。
「なに? なんのつもり? あなた、魔法を使うのね? フフフ、楽しいー!」
松宮の左手が輝きだした。
「アイスショットガンだーッ!」
その声と同時に、ガラスが砕けるような音がし、松宮の左手から尖った氷の破片が無数に飛びだす。すると鋭利な氷塊のつぶてがボーラを飲みこんだ。
魔法が鎮まると、ボーラの姿は消えていた。
やがてまた、笑い声が聴こえてきた。
「フフフフフフ。そのスピードじゃ、あたしには、当たらないわね。アハハハハハハ……」
松宮はその声のする方に、再度魔法を放った。
しかし、なんの手応えもなかった。
「いちど、退きましょう。また、ナイフにやられる!」
玲奈はそう言って、呆然としている松宮の手を引いて、近くの岩陰に走っていった。
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