第50話
捜査会議があった翌日のことだ。
園川は会社で作戦のことを考えていた。
明日の15時に現地に踏み込み、それと同時にヘヴン内のマスタークリスタルを破壊するという作戦だった。
黒部の潜伏先にはすでに、岸中と愛野と須崎が向かった。
警察から社員の同行要請があったとき、「わたしなら、リアルでも戦えるで」と愛野から立候補があったのだ。
たしかに愛野は幼い頃から実家の道場で、格闘術や武器術を学んできたらしい。
須崎に対しても、教団の事情を知る協力者として同行の要請があった。
もしかしたら岸中から須崎が疑われており、須崎の行動を把握しておきたい、というのもあったかも知れない。
園川の隣の席では、松宮がうなりながらキーボードとディスプレイにかじりついていた。
そのとき、正面の席の玲奈が立ち上がった。
「大丈夫? 松宮くん、ずっと集中してるけど」
「ええ。明日までに仕上げる必要ありますからねー」
「明日……。凍土で使う魔法かなにか?」
「そうですよー。明日はなにが出てくるかわからないので。なにせ、教団の本拠地ですし」
「いったい、なにを作ってるの?」
「環境を利用する魔法です。環境にある素材を使えば、新たなオブジェクトを生成するコストをかけず、攻撃に利用できますからねー。その、3D空間上の、並列的なベクトル変換のアルゴリズムがキモになるんですけど。明日までにやっつけねえと」
そう言って、松宮は再びキーボードをものすごい勢いで叩きはじめた。
そのとき、倉神社長がオフィスに戻ってきた。
倉神社長は園川に、
「外の空気でも吸うか?」
と声をかけてきた。
園川と倉神社長は会社のビルの前にある、ちいさなベンチに腰掛けた。
まだ肌寒かったが、耐えがたいほどではない。
倉神社長は言った。
「ついに、この日がきたな」
「はい」
「園川。キミは変わったな」
「え?」
「以前より、いい目をするようになった」
「そうですか?」
「守るべきもの。それが人を押しあげる。そういうものかもな」
「いえ、僕なんて……」
「園川。キミは自分が思うより強い。だから、未来をおそれるな」
* *
愛野は岸中が運転する車の後部座席で、ペットボトルの水を飲んでいた。
横には須崎がいた。
翌日に向けて前泊の予定で現地に向かっているところだ。
「須崎のおっちゃんは、黒部とは長いやんなー」
須崎はうなずいた。
「ええ。そうですとも。かれこれ10年以上ですな」
「つらいやろな。裏切られたり、追いかけたり」
「いえ。黒部はかつてより、腹にいちもつありなん、と見ておりました。あからさまに不穏な言動はありませんでしたが、まあ、にじみ出てきたものです。それは、玲奈様を見る目が尋常ではないところも。……その点では、代表は人が良すぎたのですな。まあ、それでも黒部とは、お互いの考えていることはわかる間柄でした」
そこで岸中は運転をしながら、
「もし説得が必要な場面になったら、ぜひお力をお貸しください」
「ええ。もちろんです。曲がりなりにも同じ道を歩んできた、やつの兄弟分として、責任を持って止めねばと思っております」
すると愛野は言った。
「兄弟かー。ちなみに、岸中はん、兄弟とかいてはるの?」
それに対して岸中は、
「んー。まあね」
「仲はええの?」
「どうだろねー。まあふつうかな」
そのときカーナビから「まもなく左折です」と声が聞こえた。
現地のインターチェンジについたようだ。
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