第41話

 園川は焼肉屋を出たあと、駅に向かって歩いていった。


 となりには玲奈がいた。


「ちょっと、水買ってきます」


 と園川は途中のコンビニに寄った。


 コンビニは混雑してたが、適当なミネラルウォーターのペットボトルを2本選んで会計した。


 園川が店の前に戻ってくると、玲奈は茶髪の背の高い男に話しかけられていた。黒いスーツ姿の男前だったが、いかにも軽い感じがする。


「ちょっと飲みに行かねえ? いい店あるんだよ、ね? 彼氏いるの?」


 と男の声が聞こえた。


 かっとなった園川は、割りこもうと進んでいった。


 そこで玲奈は男に言い返した。


「ひとりで行きなさいッ」


 日本刀で両断するような声だった。


 すると相手の男はおよび腰になり、舌打ちをして去っていった。


 園川は半分あきれつつ『いったいどこの英雄が玲奈先輩を口説けるのだろう』と考えた。


 玲奈と目が合った。


「お待たせしました」


 そう言って園川はミネラルウォーターを1本わたした。


「ありがと。ちょっと、喉が乾いていたの」


 玲奈は自分の財布を出そうとしたが、園川は手で制した。


「いえ、いいんです。これくらい」




 園川はコンビニの入り口の横に立って、ペットボトルを開けた。


 玲奈はペットボトルを手にしたままだった。


 スクランブル交差点に向かって会社員や若者が歩いてゆく。


 あるいは目的もなさそうに徘徊する者たちもいる。


 彼らはなにを背負い、どこに向うのだろうか。


 そんなことを考えているとき、なぜなの、と玲奈の声がした。


「なぜ、園川くんは、ついてきてくれるの? こんなわたしの戦いに。未由ちゃんのこともあると思うけど、全部捨てて、逃げることだってできるはずよ」


 玲奈は真剣な眼をしていた。


「責任をまっとうしたいんです。過去の自分がやったことを。止められなかったことを。そういったものを取り返すために。そして、未由ちゃんに、つぐなうために」


 それが半分だった。


 しかし、残りの半分は言えなかった。


 ――玲奈先輩を愛しているから。


 玲奈はペットボトルを開けて、顔を上げて水を飲んだ。


 白い喉に水がごくごくと吸い込まれてゆく。


 玲奈は、ふう、とため息をついて、


「行きましょう。まだ明日がある」


 そう言って駅の方を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る