第40話
言ったことがあるかもしれないけれど、わたしの母は、私が3歳のときに病気で亡くなった。
大学の後輩の、須崎さんも病院や家にきてくれていた気がする。
父と母は、大学で知り合った。
母がいなくなってから父はずっとふさいでいたの。
それからしばらくして、『ヘヴン・クラウド』がリリースされ、世の中に浸透していった。
父がヘヴン・クラウドにふれたときに、いろいろな物がつながったみたい。
それで私が小学4年生のころ、父は『輪神会』という、ちいさな集まりを開くようになった。
そこには大学の後輩の、須崎さんも参加していた。
飲食店や公共施設、ときには屋外に集まった。
そこに、たまに私もついていった。
食事とかを父と一緒に済ます必要もあったから。
その会では、父はいろいろなことを話した。私にはよくわからなかった。
ただ、父が、すこしだけ、自分の人生や他人に興味を持って、生きようとしているのはわかった。
それにわたしは、一緒に出かけられるのがうれしかった。
父の『輪神会』は、それから、人が増えていった。
そこであいつが。黒部がきた。
祖父は静岡県では大きな方の病院の院長だった。
そこの次男として、父は生まれたの。
病院の関係者を集めたパーティーに黒部はいた。
地元では評判のホテルのホールで開かれたパーティー。
いま思うと露悪的な集会。
地方の金持ちや医療関係の業者を集めて、忠誠心を競わせる。
父と私は親類が集まる一角で、場違いな気持ちをこらえていた。
親戚とかからは、未来の素敵なお婿さんと出会えるかもよ、なんて言われた。
そんなものに興味はなかった。
すくなくとも、私の未来の相手は、あんなパーティーなんかにはいないと思った。
ただ、父がこれ以上肩身がせまくならないように、父をささえるために私は篠原家の付き合いに出るようにしていた。
境遇が大人にしてくれていたのかも知れない。
黒部はシステム関連の会社の役員で、エンジニアでもあった。
父は黒部を受け入れた。
やがて黒部は『輪神会』を、『輪神教会』とすることを提案し、さらにヘヴン・クラウドやネットで大々的に思想を広め、拡大することを推し進めた。
そこから、未由ちゃんのお父さんの戸澤研悟さんや、葉仲さんがきた。
みんな、いろいろな形で神を求めていた。
でも、父の考えを本当にわかっているのは、たぶんだれもいなかった。
神はいるけどいない。いや、わからない。簡単には触れられない。いないから人は求める。それが人生の重さであり、価値なんだって、いまならわたしはそう思う。
この考えが正しいのかはわからない。違うのかも知れない。
でも、わたしはそう考えている。
輪の神の導きを、と教団のだれしもが言い、わたしにも、それを言うのを求める。
その神は、人によって違う場所にいるのかも知れない。
それから、輪神教会は分断された。
黒部が神を作りはじめたから。汚い金儲けに使おうとしたから。
まさかあそこまでのものを作るなんて、だれも思っていなかった。
人を洗脳する、神のAIを。
さまざまな論文の内容や、オープンソースの技術を組み合わせ、ついにヘヴン・クラウド内に、人の心を操るシステムを作り上げた……。
そして黒部は、霧の森の奥に神殿を建てクリスタルを設置した。
ねえ園川くん、あなたもあれを見たでしょ?
あれが、神だと思う?
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