第37話

 ソファに座る勝山は言った。


「岸中の方から聞いております。あらためて、お父様の篠原誠也さんのことについて、お悔やみを申しあげます」


 そうして勝山と岸中は頭を下げた。


 玲奈は答えた。


「お気遣い、ありがとうございます」


 勝山は顔を上げて、


「捜査の方がなかなか進展せず、さぞじれったい思いをされているかと存じます」

「いえ……。懸命に捜査されているというのは、理解しているつもりです」

「おそれいります。……また、そのような状況で心苦しいのですが、警察としても、輪神教会には手をこまねいております。引き続きあなたをはじめ、クラカミクリエイティブのみなさんにも、お手伝いをいただきたいと思っております。特に、あなたは実に重要な位置にいらっしゃいます」

「重要な位置?」

「ええ。ヘヴン・クラウド内の事情にもお詳しい上に、優秀なエンジニアとしてテクニカルな面にも精通されている。また、輪神教会の大主教としての特別な地位でいらっしゃる。――無論、あなたが現在の黒部のやり方に反発され、距離をとっているというのは心得ておりますが」

「そうですね。いま輪神教会は、本来のあり方を見失い、反社会勢力になり果てています。嘆かわしいことに」

「はい。だからこそ、警察としても黒部の尻尾をつかみ、輪神教会を止めたいと思っているのです。だからこそ、もっとあなた方のような専門家と連携していきたいと考えております」

「ええ。できることは、そうします」

「ありがとうございます。あと、お父様――篠原誠也さんの捜査がすこし進みましたので、その状況をお伝えさせてください」


 そこで岸中は、「そのことは、僕からお話しします」、と説明をはじめた。




   *   *


 昨年末の12月24日に、輪神教会の代表である篠原誠也さんは、横浜市の住宅地で血まみれで発見され、病院へ搬送後に死亡した。


 血痕をたどってゆくと、ある2階建ての住宅に行きついた。


 ここまでは以前からわかっていたことだけど、今回はその先の捜査が進んだんだ。


 その住宅の所有者は別の場所に住んでいて、黒部たちに住宅を明け渡していたようだった。


 また、その人物はおそらく輪神教会の信者のようだった。


 それに近隣住人の話によると、黒部らしき大柄の人物などがその住宅に出入りしているようだったんだ。


 それから、住宅の中を捜査すると、代表が2階部分で数ヶ月間にわたり監禁されていた形跡があった。


   *   *




「いまわかっているのは、ここまでだよ。まだ、物証は出ていない。黒部を事件と関連づける決定的な証拠がないんだ。それに、肝心である黒部の居場所がつかめていない」


 玲奈は肩透かしにあった気持ちになった。


「教えてくださったのはありがたいのですが、まだまだ、時間がかかりそうですね」

「ごめん……。これからも捜査を進めていくつもりだ」

「ありがとうございます。ぜひそうしてください」

「なんとか、黒部を探さなければ」

「そうですね。あと、もしかしたら、葉仲さんと接触できれば……」

「葉仲さん?」

「ええ。葉仲さんという、以前から教団に所属する女性がいるんです。その人なら、マスタークリスタルのことや、あるいは黒部の居場所を知っているのではないか、と思っているんです」

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