第27話
神殿の小部屋で、園川は影と対峙していた。
影は地面を蹴って飛びあがり、刀をふりおろす。
園川は電磁ナイフで攻撃を弾くと、間合いを詰めて膝蹴りを入れた。
「くそッ」
と、影は距離をとる。
そこに、背後から声が聞こえた。
「侵入者だ!」
「こっちだぞ!」
どうやら、護衛の兵士が騒ぎに気づいたようだ。
そこで愛野の声がした。
「あとは、うちらにまかして。ソノくんは早う、クリスタル壊しぃ!」
園川は言った。
「いや、それじゃ……」
「かまへん! どの道、やられるのは覚悟のうえや。……せやな、マツ?」
と、急に名前を呼ばれた松宮は、
「あー。足止めしてやるよ。さっさといけ」
そう言って、松宮は残っている方の左手を掲げる。
「サンドストーム!」
とたんに、部屋の中に砂嵐が巻き起こる。
影の叫び声がする。
「狭いとこで、そんなもん出すんじゃねー! 迷惑なんだよ!」
松宮は応じる。
「迷惑かけてんだよ。バーカ!」
園川は部屋を飛びだし、兵士たちをすり抜け、中央のプライムクリスタルへと向かっていった。
やがて、プライムクリスタルの手前までくると、ひとりの、白いローブ姿の女性が立っていた。
園川はその顔や姿を記憶の中に探した。
彼女はたしか、かつてこの『薄明の森』で出会った、葉仲という信者だ。
教団の警備を依頼されたときの、案内役だったはずだ。
園川は葉仲の脇を通り、プライムクリスタルに迫ろうとした。
すると、「あの組織――ヘヴンズシャドウの方ですね」と聞こえた。
園川は足を止めた。
「いまは、そんなことはどうでもいい」
「……いつか、こうなるかも、と思っていました」
「離れてろ」
園川は葉仲の横を抜け、電磁ナイフを手にとった。
頭上に、プライムクリスタルの青く透明な巨体がそびえている。
「壊すのですね」
と、まだ葉仲が言う。
「ああ」
「わたくしたちの、ともし火です」
「そのともし火が、人々を狂わせ、死にいたらしめる」
「制御すれば、そうはなりません」
「……終わらせる」
園川は電磁ナイフを額に掲げ、柄のスイッチを入れた。
ナイフの刀身が一回り大きくなり、刃が赤いスパークをまとう。いまにも溢れだしそうなエネルギーの奔流が、食らいつく相手を求めているようだ。
これが電磁ナイフに搭載された、瞬間的に全エネルギーを放出するオーバードライブモードだった。
園川は雄叫びをあげ、プライムクリスタルに向かって刃を突き刺した。
プライムクリスタルの表面に、ゆがんだ自身の顔が映る。
その行為は過去の自分を刺し貫くのに似ていた。
振動と熱によって吹き飛ばされそうだ。
やがてプライムクリスタルからまばゆい光があふれ、甲高い音とともに世界が真っ白になった。
――その真っ白な世界の中に、おぞましい咆哮のような声がした。
見ると、銀色の巨大な顔がクリスタルの上部に重なるように現れていた。
その顔は苦悶の声をあげながら、憎々しげに見おろしてきた。
そして、クリスタルが砕け散るとともに、その巨大な顔も薄らいでいった。
――そのとき最期に見せた巨大な顔の表情は、園川を困惑させた。
その顔は、怒るでも、泣くでもなく、笑ったようにも見えたのだった。
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