第3章 巡り合うとき

第25話

 園川は『薄明の森』の外縁寄りのエントリーゾーンに降り立った。


 それも、長らく使っていなかったアバターである、『blue_edge』の姿で。


 特殊部隊を思わせる濃紺の戦闘服をまとい、顔の下半分を覆うマスクをしている。手足にはサイバー風のプロテクターが装着され、腰元には電磁ナイフやツール類がおさまったホルダーがある。


 園川は霧の森に立ち、手脚の動きをたしかめた。


 シャドーボクシングのようにパンチを連打する。――ワンツー2回から相手の斬撃を避け、アッパーカット。続いて木に向かって蹴りをだす。


 落ちてきた葉を、宙返りをしながら電磁ナイフで斬り刻む。


 そうやって、アバターとのリンクに大きな違和感がないのを確認すると、園川はマップの中央に向かって駆けはじめた。


 愛野と松宮のアイコンが、マップ中央の神殿内部に光っていた。




 愛野は神殿の小部屋で、薙刀を振り降ろした姿勢のまま、影に柄を掴まれて固まっていた。


 影は自身の刀の柄に手をかけ、赤い刃を抜いた。


 それと同時に、愛野は薙刀を離し、後ろに飛び退いた。


 そのとき、横から松宮が影に向かって剣を突きだす。


 しかし影は体をひねってそれをかわし、赤い刃で松宮の右腕を斬り落とした。


 うめく松宮に対し、さらに影はうばいとった愛野の薙刀を振りあげ、打ちおろす。


「うおッ。ちくしょー!」


 ――そうわめく松宮は、左の肩口から斬撃を受け、後ろに倒れた。


 影は薙刀の柄を床にドンと立てて言った。


「おいおい。手応えがなさすぎるだろ。もう終わりかよ? オレとしては、ゼンゼン暴れたりねえんだけどよー」


 すると、影は自身の刀を鞘におさめ、薙刀を持ちあげた。


「オマエ自身の得物でトドメを刺してやるよ。はははッ」


 と、愛野に向かって影がせまってくる。


 愛野はへたりこみ、立ちあがることができない。


「しのっち……。もう、あかん……」


 と、思わず声がでた。


「あばよ」


 と影の声がして、愛野は強く目を閉じた。


 ――しかし、薙刀の衝撃は落ちてこなかった。


 首元に刃が飛んでくることもなかった。


 おそるおそる目をあけると、信じられない光景があった。


 影の後ろに何者かがぴたりと張りつき、薙刀の柄を掴んでいた。


 それは青い姿のアバターだった。


 同時に、そのアバターの右拳が影の脇腹にめりこんでいた。


 接近と同時に打撃を入れたのだろう。


 影は飛び退き、すかさず赤い刃を抜いた。


「てめえー! ブッ殺す!」


 すると、その青い姿のアバターは愛野に近づき、手をのばしてきた。


「すみません。遅くなりました」


 愛野はその手をとった。


 青い姿のアバター――園川は電磁ナイフを右手に持った。すると、影に向かって構えた。


「リーダー。もう、カビでも生えてるじゃねえのか? そのアバターによォ!」


 と言う影に園川は答えた。


「だったら、たしかめてみろ」


 電磁ナイフが起動し、バチバチと青いスパークが走る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る