第13話

 園川は松宮に手を引かれ走りだした。


 愛野も真後ろからついてくる。


「あいつらだ! あの3人を捕まえろ!」


 と、黒部の声が追いかけてくる。


 即時離脱するにはエントリーゾーンまでしばらく走らなければならない。――敵陣の真ん中で時間をかけて離脱していたら、ありとあらゆることを調べられ、身ぐるみをはがされる。最悪、現実の身元を割り出される、などということにもなりかねない。


 周囲の警備の者たちが武器を取り出して迫ってくる。


 それ以外の者も敵意の目を向けて追ってくる。


「マツ、なんとかなれへんか!」


 と、愛野の声。


 すると松宮は走りながら左手を掲げる。――そして光を帯びた左手を追手に向けて振りおろした。


「サンドストーム!」


 松宮の魔法だ。エフェクトや自然現象の開発を得意とする松宮ならではの。


 にわかに周囲が薄暗くなり、砂嵐に覆われた。


 荒れ狂う暴風の中で砂粒が押し寄せ、バチバチと体に当たってくる。背後では混乱の声があがる。


 さらにエントリーゾーン目前まで走り、振り返ると、追手の数が減っているようだった。


 ひらけた緑の平地に、5人が駆けてきていた。


 いずれもいかつい男たちで、手には武器を持っていた。


 4人は剣や斧を持ち、1人はボウガンを持っている。


 そこで愛野が薙刀を脇に構えて前にでた。


 薙刀の穂先が生成され、にぶい振動音をはなっている。


 2人の男が得物を振りあげてくる。


 そこに愛野は掛け声とともに薙刀を横にないだ。


 すると、2人の武器が途中で分断され、地面に落ちた。


 男たちはうろたえ、固まっている。


 さらに愛野は蹴りを入れ、男たちを吹き飛ばす。――愛野は幼少のころから、実家の道場で薙刀などを叩き込まれてきたらしい。


 そのとき、ボウガンの男が矢をはなった。


 愛野は背をそらせてかわすと、瞬時に間合いを詰め、薙刀の柄で相手を叩き伏せた。


 すると、追手の残りの2名は背を見せて逃げだした。


「まだまだやね」


 と、愛野は歯を見せた。


 そのとき、園川は風を感じた。


 なにかがきた。


 そんな直感を受けた。


 園川が振り返ると、それに応じるように、そいつがいった。


「またオマエかよ。しつこいな」


 鬼神の仮面に黒装束を身に着けている。以前、園川たちを撃退した男だった。


 背後で松宮の声がした。


「サンド……」


 得意の魔法を放とうとしたのだろうが、それを言い終える前に、影が眼前に移動していた。


「遅いぜ」


 影の赤い刃が走り、松宮の体が左右に分断された。


 そこへ愛野は大声を張りあげ薙刀を振りおろす。


 影は刀を頭上に構え、薙刀を受けとめると、前に突き進んでいく。そのまま愛野を突き飛ばす。


「いやっ……」


 と、愛野の顔がゆがむ。


 影は迷わず愛野の首筋に刃を突きだす。


 愛野のアバターは火花を散らし、黒ずみ、時間をかけて消えてゆく。


 影は園川に向かって歩んでくる。


「元気だったか?」

「……知るか」

「ははッ。それにしても、驚きだよな。まさか玲奈お嬢さんが大主教になっちまうなんて。まあ、彼女も大人しくなってきて、黒部のオッサンの作戦が前進してるってわけで、オッサンも最近はゴキゲンだよ。早く、黒部とオッサンと彼女の結婚式を見てえもんだな」

「どういうことだ? 結婚式?」

「ん、ああ。話しすぎちまったかな。……いや。そんなことより、オマエさ、ナニモノなの?」

「なにが?」

「オマエさ、前回、グロウバレーで、俺の隠し技をよけたじゃん。あれ、よけられたの初めてなんだわ。知ってなけりゃ、絶対にかわせねえの」

「偶然じゃないかな……」

「なめんなよ」


 と、影は刀を両手に構えて続ける。


「オマエさ、ヘヴンズシャドウって知ってる?」

「知らない……」

「もう解散しちまったけどさ。ヘヴン・クラウドで活動していたチームでさ。金のためならなんでもやった。リーダーは紺色の戦闘服のやつでさ。とんでもなく強かった。IDは『ブルーエッジ』。俺は、そいつについて行ったよ。どんな作戦にもな。たしかに、アイツには、俺の隠し技は通じねえかもな」


 というなり、影の右手がゆれた。


 その直後に、うなりをあげて黒いなにかが飛来してきた。


 園川は顔をそらして影のはなった黒いダガーをよけた。


「はははは! さすがだな!」


 と、影は刀を振ってくる。


 園川は飛び退いて、2撃、3撃とかわす。


 4撃目に、園川は隙をついて飛びこみ、影の右手をおさえこむ。


「俺の癖を知り抜いてやがるだろっ! IDは違うが、その声だって、同じだ。……くそっ、リーダー。なぜ俺たちを捨てたんだ」


「いや、僕は……」


「なぜなんだよッ!」


 影の蹴りを食らって、園川は吹き飛ばされた。


 続けて園川は、影の刀が斜めに振りおろされるのを見た。


 園川の左肩から右腰にかけて刀が走り、斬られた箇所から熱が込みあげてきた。


 視界には『行動不能のため強制離脱します』という大きな表示が現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る