第11話

 園川は大きな公園をモチーフにしたヘヴン――『サニーデイパーク』の外周寄りのエントリーゾーンにいた。


 須崎の話を会社の仲間に伝えたところ、まずはデモの現場にいき、玲奈に接触してみることになったのだ。


 エントリーゾーンから中央に向かって広大な緑の眺望が広がっている。


 青空にはまばらに雲が浮かび、心地よい陽射しは草木や舗装路を照らしている。


 草地に立った木製の案内板には、公園内の各エリアの説明が書かれていた。


 森林エリア、草原エリア、平地エリア、湖や川。様々な場所でスポーツに興じたり、くつろいで過ごすことができそうだ。


 そんなサニーデイパークで、輪神教会のデモ――関係者のいう公開説話が行われるという情報があったのだ。


 園川のアバターは、本人の顔を元に生成したもので、青いTシャツにコットンパンツという姿。その他にこれといった持ち物や武器などはない。


 そんな園川に近づいてきたのは、身長180センチは近くありそうながっしりとした女戦士だった。


 浅黒い肌に暗緑色の厚手素材のビキニ。体を派手に露出し、肌にはドクロとバラの入れ墨が見える。髪は赤くうねったライオンヘア。背中には大振りな薙刀の柄がのぞく。戦闘時は高エネルギー場の穂先が生成されるものだ。


 その姿はまさにサイバー仕様のアマゾネスとでも呼ぶべきものだった。


 視界に表示された彼女のIDは『blackrose_glaive』となっている。


 そこで園川は尋ねた。


「すみません。どちらさまで……」

「ブラックローズだ」

「あ、なるほど」

「もうひとりは、きたか?」

「いや、まだみたいです」


 すると、女戦士は足踏みした。


「なんや、マツのやつ! あない急がせといて、自分はどこいっとんねん」


 女戦士の中身は愛野のようだった。


「あれ、松宮さん、愛野さんと一緒に入ったんですよね?」

「せや。まだ会うてへんけど。……しゃーない。も1回メッセ送ろ」

「愛野さん、そんなアバター使ってたんですね。前はなんというか、普通のやつだったというか……」

「本気っちゅうことや。きょうは」


 と、女戦士は口元をむすび、真剣な目をした。


 何人かが通りすぎる中、園川は松宮のアバターを探した。


 すると、ひとりの剣士が歩いてきた。その姿は園川も、仕事で一緒に潜るときなどに見たことがある。


「すまん。迷った」


 と、松宮のアバターが近づいてくる。長身美形の魔法剣士で、IDは『magickwarrior_martz』と表示されている。銀色の短髪が陽光に輝く。涼し気な目元にシャープな顔の稜線。耳には朱い宝玉のピアス。銀色の比較的動きやすそうな甲冑をまとい、腰には長剣を佩いている。両手の手袋や剣の柄と鞘、その他様々なところに魔法文字が刻まれている。


 本人いわく、アバターのモデルは松宮自身であり、ヘヴンでの活動用に微調整した、とのことだ。


 そんな彼に愛野が話しかける。


「ほんま遅すぎとちゃうか。魔法剣士なら魔法で秒で来れへんの?」

「うるせーよ。まあ、とにかく、早くいこうぜ」


 しばらく歩くと松宮が振り向いて、


「ところでさ、園川のアバターって、戦えんのか? 武器もなにもねえし。まあ、別に戦いにきたわけじゃねえけどよー。なにがあるかわかんねえし」


 園川はこたえる。


「いえ、僕は……。玲奈先輩に、会いにきただけですから」


「あのさ、それにしたって、デフォでもいいから、なにか戦闘系のアバター作っとけよ」


「それでええやん。ソノくんは」


 とは愛野だ。


 松宮は納得できない様子で首をかたむけ、再び歩きだした。


 園川は仲間たちと公園の中心部へと進んでいった。


 やがて、大きな屋根のあるイベント用のステージが見えてきた。


 ステージの上空に投影されたディスプレイには、『輪神教会 特別公開説話 プログラム2 大主教のごあいさつ』という文字と、ステージを映す定点カメラの映像が流れている。


 喧騒や人々の熱気が渦巻いている。


 信者と思われる者や、見物人も含め、以前よりも大勢が集まっているように見えた。


「――だからこそ、わたくしが、信者の方たちも、それ以外の方も、等しく神の企図に導くのです」


 それは園川が聞き慣れた声――少し硬い印象があるが、玲奈の声だと思われた。


 愛野も「え、これ、しのっちの声……」とつぶやく。


 ステージには輪神教会の幹部や信者と思われる者たちが集まり、その中央に白い法衣を着た女性がいた。

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