第4話

 園川は暗闇の中、リクライニングチェアに体をあずけたまま、徐々に全身に戻ってくる感覚を確かめていた。


 頭に装着したヘッドマウントディスプレイを外し、ゆっくりとチェアを起こす。


 そのとき、ふいに頭を締め付けられるような頭痛にうめき声をあげる。こうなると、こめかみを強くもみほぐし、嵐が去るを待つしかない。


「大丈夫?」


 と、暗闇の外から玲奈の声。ヘヴンの中の声よりも少し低い気がする。


「……はい。大丈夫ですので、少し座らせてください。すみません」


 そうして腰をおろして目を閉じ、同僚たちの表情を想像する。厄介なやつが入社してきたものだと、あきれていることだろう。ひんやりとした暗闇が心地よい。暗闇に吸い込まれるように眠りにつく。


 園川が目が覚ますころには昼の12時すぎになっていた。


 食欲がなく、会社の近くのカフェに入りアイスカフェオレを飲んで、会社に戻った。




 園川は自席に座りながら、昼休憩から帰ってくる同僚たちを眺めた。


「メシ食ったの?」


 と話しかけてきたのは、外から戻ってきたエンジニアの松宮道信だ。丸々とした顔に分厚い眼鏡をかけ、秋口なのに汗だくになっている。突き出た腹に昼飯を詰めこんできたことだろう。


 園川は手を振りながら、


「いえ、食欲がないので……。さっき、軽く飲み物は飲んできましたが」

「マジで? ああ、さっき研修で潜ってから、具合悪くなってたもんな」

「そうですね……」

「仕事でやってくなら、慣れねえと。いちいちテストランで倒れてたら、開発進まねえし」


 そう言って、松宮は園川の隣の席に腰をおろした。とたんに暑苦しい空気の層が迫ってくる感じがした。


 そのとき、別の2人組が帰ってきた。玲奈と、デザイナーの愛野美波だ。


「ソノくん、顔色、ようなったやん」


 と、愛野が近づいてきた。茶髪のショートヘアーに、デニム素材のジャケットを着ている。


 園川は頭を掻きながら、


「はあ、おかげさまで」

「せやけど、きみも初日から大変やったね。いきなりヘヴンで、しのっちにしごきたおされて……」


 すると、横で聞いていた玲奈は、


「いえ、別に、しごいてなんてないけど」

「ほなら時間かけて、なにやっとったん?」

「いろいろあるのよ」

「……なんや知らへんけど、新人くんには、やさしゅうせぇへんとな」


 と、愛野は笑った。




 それから園川は午後のカリキュラムがはじまると思っていたのだが、そうではなかった。


 玲奈からこんなことを言われた。


「午後の予定なんだけどね。今日、来客対応があるんだけど」

「来客ですか」

「そう、たまにくる人なんだけど。あいさつを兼ねて、園川くんに同席してもらおうかなって」

「い、いきなりですか?」

「それくらいできるでしょ」

「はあ。それで、どういう案件なんですか?」

「ああそれは、案件というか、捜査協力で……」


 玲奈の話によると、警察の捜査員の質問に答えたり、依頼を受けて調査を行っているとのことだった。

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